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自殺大陸  作者: ししゃもふれでりっく
閑章~蠱毒な少女の描いた夢~
49/87

第6話(終) 黒い太陽

6.



 けれど、その願いが叶う事はなかった。

 色々な人からゲルトルード様の事を聞き、ゲルトルード様の事を知っていく。それが凄く楽しかった。知らなかったゲルトルード様の事を知れて、それが嬉しくて、だから病床のゲルトルード様の隣でそんな話を聞いたなんて言うと、ゲルトルード様は嬉しそうにしたり、時折拗ねたように怒ったりしながらずっと私の話を聞いてくれた。そんな楽しくも辛い日々を何度となく過ごした。

 そして、あの時からもう8年の月日が流れた。

 あの頃子供だった私も大人になったように思う。

 ゲルトルード様はあの日から日に日に衰弱していき、今も病床にある。

 時折、少し良くなったように見え、けれどしばらくすればまた衰弱していき、ある一定以上には至らずまた再び少し回復しそちらもまた一定以上良くはならず、その繰り返しだったようにも思う。まるでそれは誰かに弄ばれているかのようなそんな風にさえ思えた。そんな日々はゲルトルード様の精神を追い詰めていると、思う。最近では元気そうな表情もあまり見られない。私が顔を出すと無理して笑みを浮かべるのだけれど、それが逆に居た堪れなく感じてしまう程だった。

 8年の月日を良く生き延びたと思う。

 ゲルトルード様が生きている限り私は諦めない。そして、今も諦めていない。

 見果てぬ夢を見ながら、私は今も生きている。

 毒について書かれた、蟲毒について記述された書物を読み終わり、結局役には立たなかったなとひとり、ごちる。

 まぁいいさ。無知が一つ減り、ゼロに近い可能性が少しだけ増えたのだ。だったら、それで良い。もはや藁は無い。どこに藁があるのかを探す必要がある。そういえば、最近アルピナ様が街路で吐いている姿を見ていない。そこに藁があるのだろうか?調べてみるのも良いだろう。それと、先日ドラゴンが発見されたとか。あの忌まわしいドラゴン。それが発見された。それについて調査団が組まれるからディアナから出てこいと言われている。それも何かの藁にならないだろうか。あの時以来、巨大なドラゴンは確認されていない。だったら新しいドラゴンから役に立つ情報が見つかるかもしれない。

 全く、忙しい人生だ。

 が、それで良い。夢を叶えるために私は生きているのだから。

 本を元の場所へ返し、部屋を後にする。

 司書へと声をかけて光ある世界へと、表へと出る。

 眩しい世界だった。

 見辛い、本当に見辛い世界だ。

 優しくない世界だ。本当に、私には優しくない世界だ。

 そんな世界で、私が明確に分かる色は黒と白だけ。

 その日、私は黒い少女を見た。

 奇麗な色だと、産まれて初めて、そう思った。

 見辛い世界に舞い降りたそれは黒い色をした天使のようだった。

 だから……。その子が首輪を、腕輪をしている事に、自分と同じ事に気付き、少しだけ、ほんの少しだけ嬉しさを覚えてしまった。

 そうか、彼女が……ディアナに聞いた子か。

 ディアナがあの少女に目を掛ける理由はなんなのだろう。彼女が大事にしていた、私が母親を切り殺した時の剣を溶かして作った包丁。それをあの子に与えた理由は何なのだろう。

 少し、気になった。

 だから、少しちょっかいを掛けてみるのも良いだろう。どうせディアナから号令は掛かっているんだ。話を聞くがてらにその時に声をかけてやろう。どうやら、あの駄エルフが世話になったようだし尚更だ。あの死にたがりの馬鹿を良く止めてくれた。加えてそれを得るためにディアナとやりあったと聞く。

 ……もっとも、それも私にとっては不思議でならない。ディアナが身内以外に対して妥協する事などない。これまでにどれだけの奴隷を殺してきたと思っている。あれから8年。ドラグノイアを滅ぼし、リヒテンシュタイン家を正式に継ぎ、二つの貴族を同時に名乗る史上初の女領主様となったディアナが奴隷を使って洞穴攻略に勤しむと決断した時は元々狂っていたのがさらに狂ったのかと悲しくもなったが……結果、止めなかった以上私の咎でもある。そんな、そんなディアナが一人の奴隷に妥協した理由は、取引などと称して妥協した理由は何なのだろうか?

 だから、これは単なる好奇心だ。

 私の初めての友人が興味を示している少女が何なのか?それが気になっただけだ。もしかしたら単にディアナの変態趣味に一致しているだけなのかもしれない。

 だから、どこか、あの方の風貌を思わせる顔の作りだなんて思ったのはきっと、気の迷いに違いない。


「はんっ。まるで、黒い太陽オブシディアンだな」


 暗闇に照らされる世界は誰にも見えず、自分自身すら見通せない真っ暗闇で、真実も嘘すらも全て闇色に染まった状態だけれど、でも、それでも、そんな黒い太陽に照らされる世界でも、私には見えるのかもしれない。

 なんて、そんな自分の馬鹿な発想に苦笑しながら、私は当てもなくその場を立ち去った。



閑章 了


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