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自殺大陸  作者: ししゃもふれでりっく
閑章~蠱毒な少女の描いた夢~
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第3話 見えない世界

3.



「そこだ!やれっ」


 男の濁声が聞こえる。


「ほら、化物。大人しく捕まりなさいな」


 女の嬌声が聞こえる。他にも一人。狭い道を一斉に追ってくるそれから私は、逃げていた。

 松明を手にした男が指示を出し、他の男が、女が私を追う。

 がしゃ、がしゃと鳴る鎧の音。兜の音、剣の音。私を殺そうとする者達の足音。いろんな音が狭い通路に響き、響いて残響を生み出す。光のない世界ではそれは致命的ともいえる。音で方向を得る事が出来ないという事なのだから。だから、光のない世界に生きる者達にとっては、致命的だ。

 だから、あろうことか松明の照らす範囲を超えて一人突出してきた不注意な男に横合いからナイフを繰り出すのもまた致命的な攻撃となる。首を切り落とせば人は死ぬ。それを知った私がそこを狙うのは当然だった。


「ぐぁ…っ」


 だが、鍛えていたのだろう。肉に阻まれ、ナイフが少し男の首にめり込んで止まった。しまった、と思ったのも束の間、男が暴れ出す。あらん限りの雄叫びを挙げながら闇雲に剣を振り回す。その叫びに男が、女が急ぎ近寄ってくる。だが、そこには光は無く、男の振り回す剣が、追ってきた味方を襲う。

 松明の光が唯一の生命線だという事をこの人達は理解できないほど阿呆なのだろうか。そうではないのだろう。その人間の機微というのは私には分かりづらい。それは経験あってこそ出来る事だから。


「ちくしょうっ!ちくしょうっ!この化物め!なんだよ。こんな化け物だなんて聞いてねぇぞ!?」


「いっ……なんだってのよ!姿を見せなさいよ卑怯者!」


 攻撃された、と勘違いした男が、罵声を飛ばしながら反撃する。私に向かって罵声を飛ばし、反撃する。だが、そこに私はいない。その攻撃が当たったのは、首を切られた男だった。私は既に彼らから離れた場所で身を隠している。ナイフが男に刺さったままなのだ。武器を持たぬ私には彼らをどうこうできるはずもない。


「これからって時によぉ!くそっ!アルフレッド!!アルフレッドっ」


 男が叫ぶ。

 松明の光に、自分達が攻撃した者の正体を知り、叫ぶ。

 女は嘆く。青褪めた表情で絶命した男に縋りつき、涙を流す。


「ちくしょうっ。誰だよ。珍しい化物を発見したから捕えようなんて言ったのは!おまえだろ!?」


「っ!止めろよ。こんな所で仲間割れなんかしても意味がないっ」


 冷静に返す彼がこの中では一番まともだったのだろうと思う。だが、彼が私を捕えようと計画したのもまた、事実。


「意味がない!?アルフレッドが死んだ事に意味がないってのかい!?」


 激昂する女の声が酷く耳ざわりだった。

 その声に自然、表情が歪む。

 そんな自分の成長が少し嬉しかった。気分を害するという事を覚えたのだ。


「やめろっ。立て直さなければ俺達だって危ないんだっ。しっかりしろっ」


 そもそもにして、私は彼らを害そうなどと思っていなかった。

 そんな事に何の意味もないのだから。私が必要なのは金だけだ。けれど、害されたのならば、殺すしかない。ディアナにそう教わったから。そうしないと私が痛い思いをするのだ。だから……殺すしかない。

 手には水。

 幸いにしてここには幾らでも水が流れている。岩盤を通して流れる水が、火というものに強いという事を経験として知った私は……松明の光が届く範囲の外から、袋に入れた水を松明めがけて投げ入れる。

 そして、私の視界を遮っていた眩い光が消えた。


「っ!?気をつけろっ!」


 けれど、その言葉に意味は無い。

 瞬間的に視界を失った者がどうなるのか。私は体験できないので分からないが、酷く怖い事なのだろう。体を縮め、周囲を警戒する。今先ほどまで激昂していた女とて、自分の身が危ないと悟れば叫びを止めた。なるほど、男を失って悲しい自分というものに浸っていたわけか、とその時の私が思ったかどうかは定かではない。ともあれ、私は、音を立てぬように真正面から隠れる事なく、死んだ男の剣を拾い、まずは松明を持っていた小柄な男に向かって、全身を一回転させる事で剣を叩きつけた。


「うぐっぁ……」


 子供の力とて、全身で振り回した金属の刃は痛かろう。ましてそれが顔面に当たればさらに痛かろう。死ぬぐらいに痛かろう。ぐしゃりという破砕音と共に男が崩れ落ちた。そして、離脱がてらに彼らの荷物に水を掛けて行く。これで彼らの火種は完全に無くなった。

 一つ気を付ける必要があったのは魔法だった。だが、この時この場でもそれを出さないという事は使えないのだろう。そもそも大して意味のある技術ではない。人間の魔法などそれこそ松明の代わりにしても心もとないのだから。


「やだ……やだ……こんなところで死にたくない」


「ちくしょう。くそっふざけんなよ。なんで俺らがっ!」


 ギルドでも有名な俺達がなんで死ななきゃならないんだ。そんな事を口にした。ギルド?と頭の中で疑問に思い、あとでディアナに聞こうと決め、ついで……男の方を黙らせようとする。だが、その男は背が高く、私の身長では剣を使おうと致命傷を与えられない。足は?と思えばレッグガードがある。一撃というのは難しい。捕まったら流石にまずい。

 だったら……どうすれば良いか?

 簡単な話だ。

 至極簡単な話だ。

 怯える二人を置いて私はその場を離れていく。離れ、離れ……化物を探す。本当の化物を。私が殺せないなら、殺してもらえば良いのだ。殺してもらった後に私が、そいつらを殺せば良いだけ。それぐらい……そんな事ぐらい簡単だった。この場で視界のある私にはそんな事、何の苦労もない事だった。見えないから困るのだ。見えないから難しいのだ。見える私にとっては、化物を仕留める事なんて、そこらの犬を仕留める事と大して違いは無い。もちろん無傷ではない事もある。が、人を襲い喰らっている後ろから刺す事なんてとても楽な作業だ。


「な、なにこの音」


 ぐるる。

 私が見つけ、連れられて私を追ってきたのは二匹のコボルド。片方の腹が大きい事を思えば番だろうか。それらの鳴らした喉の音。ぐるる、ぐるると重低音が周囲に響いていく。ぐるる。ぐるる。コボルドを連れて私は悠々と二人の前を通過し、通過すればコボルドの気がそちらを向くのも道理。

 鳴り止む事のないその音に、女が悲鳴を挙げて逃げようとする。男を置いて一人で逃げようとするが、足がもつれ、倒れ、地面で顔を、足を、手を、腹をすりむき、停滞する。停滞してしまえば、逃げる暇も与えられるわけがない。一匹のコボルドが、雄がその女の頭に石で出来た武器を振り下ろし、絶叫が鳴る。鳴り響き、破砕音と共にその音が収束していく。続いては男だった。女の悲鳴に引き攣った表情をしながらも、懸命だったのは壁を背にしていた事。だからこそ、コボルド二匹によって攻撃をされてもしばらくは生きていた。しばらく生きて、攻撃を貰い続け、膝を崩した段階で、私は近くに落ちている武器を持って、コボルドに近づき、後ろからまず雄を殺した。

『ぎゃぉぉぉんっ』

 人ならざるものの絶叫。それに雌の方が反応するに至り、腹を蹴り飛ばす。慈悲など与えない。子持ちで動きが鈍いならそれを利用して当然だ。そして、停滞した瞬間に、剣を叩きつける。

 そして絶命。


「……私は、化物?」


「畜生。化物が人間の言葉を使うんじゃねぇよ。何の悪夢だよっ。真っ白な人間なんかいねぇよ。こんな闇の中で身動き取れる人間なんていねぇよ!おまえなんか……化物以外、なんでもない」


「……はんっ。死んじまえよ、ご大層な人間様」


 崩れた結果、私にも届く範囲にあった首に向かって、私は剣を振り抜いた。



―――

 


「貴女また人を殺したの?」


 変わらず吊るされたままのディアナがそう言った。何故それが分かるのか?と問われれば血の匂いなのだろうか。それともただのあてずっぽうなのだろうか。


「私を捕えようとしたからね」


「そう。なら良くやりました。それで今日の成果は?」


「どうだろう。そいつらの持っていた道具とかは重すぎて持って来られなかったし、何か女が持っていたナイフ?と……あとは宝石ぐらい?」


「それなら上々ではないかしら。顔も知らない名前も知らない貴女」


「顔を知らないのは私もだよ。ディアナ」


「じあな、とは呼んでくれないのね。残念」


「それ毎日言ってない?」


 ディアナがお喋りだからだろう。ディアナの御蔭で私はかなり言葉を覚えていた。

 早い物で、最初に人を殺した日からもう数カ月が経った。最初は全く慣れない、というよりも単に体力がなかったが、最近では少し体力がついてきたように思う。そして稼ぎはといえば、


「しかし、ほんと……たった数カ月で1,000,000,000クレジット稼ぐとはね。凄いのね貴女」


「あんな石に何の価値があるかは分からないけど、あの男はそれが嬉しいみたいだから。色でも付けてるんじゃないの?」


 金銭感覚というのは当然のことながら持ち合わせていなかった。

 光る石を拾って来いという致命的に意味の分からない事を言われ、洞穴内を探し回り光る石を持ってきた結果、あの男が隠す事なく笑みを浮かべていたのが気持ち悪かった。一度水晶を持って行った時は殴られたが。それ以来、私は水晶以外の光る石を主にして集めている。特に青だか赤だかというのがあの男の好みらしい。透明なのも良いらしいが、正直、色弱な私には今一理解できていなかったと思う。それ以外にも今日のように私を洞穴由来の化物か何かと思って捕えようとしたり、襲ってきたりする輩の取得物など……そういうのも結構ある。


「あの男がそんな殊勝なものですか。どうせ、まだ足りないとか言って引き延ばすに決まってますわ」


「そうなの?でも、それはないみたいよ。次の休みの日?というのにはゲルトルード様が来られるから会わせてくれるって話だもの」


「……それは会わせるとは違うわよ」


 忌々しそうにディアナが告げる。その当時は分かっていなかったが、つまりゲルトルード様が私の様子を見に来たから、致し方なく私を会わせるという判断だっただけだ。ディアナの言う通り、あの男は私をゲルトルード様に会わせるつもりはなかった。


「まぁ……楽しんでいらっしゃい。それが最初で最後かもしれないのだから」


「うん」


 確かに暗闇でも目が見えるとはいえ、いつ死ぬとも限らない。だから、一期一会。


「じゃ、ディアナ。今日も話を聞かせて」


「もうそろそろネタがなくなるわよ。私は千の寝物語を持っているわけじゃないのよ?分かっているの貴女?」


「……分からないけれど」


「勉強なさい。このド低能」


 そんな風に言いながらも、ディアナは毎日色々語ってくれた。ちなみに、ディアナの寝物語は神話系かエロスなものばかりだった。その中でも、その日の物語は特に印象深く、今でも覚えている。

『人間を生み出した神様は周りの神様に馬鹿にされていました。ドラゴンを作った神様がこう言います。『お前の作ったものは何て貧弱なんだ』と。天使を作った神様はこう言いました。『何て醜悪なものを作るんだ』と。悪魔を作った神様はこう言います。『神の言う事を全く聞かない失敗作じゃないか』と。そういって毎日、毎日馬鹿にされていました。でも、人間の神様はこう言います。『人は決して弱くない』と。『人はとても美しい』と。『人は失敗作などではない』と。優しい神様は馬鹿にされながら、泣きながら回りの神様達に言い続けました……』

 それを私は、そのまま覚えた。言葉の意味を覚えたくて、言葉の真意を知りたくて。

 それはとてもとても悲しい話で、けれど魅力あふれる物語だった。人は決して弱くないと、美しいと、失敗作なんかじゃないと言ってくれる神様が人の神様だという事が少し、嬉しかった。誇らしかった。

 私は、化物ではないと、そう言ってくれているかのようで。


「それはそうと、考えてくれたかしら?」


「……ディアナの顔も見たいしね」


「そう。嬉しいわね」


 動けるようになった私は牢屋の中で両手両足を鎖で結ばれている。前みたいに自由に置かれてはいない。領主もその長男も恐れを抱いているのだ。私を放し飼いにすれば自分が殺される事になると。だから、洞穴に入って、中にいる時以外、私は両手両足を鎖で繋がれているか、縛られているか。そのどちらかだ。正直なところ、目隠しをさせられて移動させられる馬車内が一番辛い。ちなみに洞穴に入った私が戻ってくる保証はないはずなのだが、私はご丁寧に戻ってきていた。今にして思えばその段階で逃げる事は出来たのだろう。けれど、それに疑問を持つ事ができるほど私は世界を知らなかった。そいういう私である事を利用されていたともいうのだけれど……。

 そんな何も知らぬ私へのディアナのお願い。


「あの二人は私を害する存在なのよね?」


「えぇ。そうしないと貴女は一生このままよ」


 けれど、一生とは何なのか。それは理解できていなかったと思う。私にとって、一生とは、四方を壁で囲まれた世界が最初の世界、短い時間をゲルトルード様と光有る世界で過ごし、次の世界は再び牢屋。そして牢屋と洞穴を行き来する日々。それが死ぬまで続く?と言われてもピンと来ていなかった。そこに私は疑問を持っていなかった。痛いのは嫌だという事ぐらいのものだった。

 けれど、きっとそういう私の意識は関係なく、私はディアナに言われるがままだった。それしか私には基準がないのだから必然でもあった。私を痛めつけない彼女の言う事は正しいとそう馬鹿みたいに思っていたのだ。実際、馬鹿だったと思う。

 もっとも、言葉巧みに騙す事はあるが、ディアナが私を害する事はなかった。害するような誘導もした事はない。それだけは確かだった。結果として私にも利がある場合にしかディアナが私に話を持ちかける事はない。友達と言ったのはきっと本音なのだろう。互いを心の拠り所としながら生きている、そんな関係を友達というのかは私には分からなかったが。きっと、ディアナも分からないのだと思うけれど。


「あ、そういえば忘れていた。ギルドって何?」


「ギルド?ギルドってあの?」


「それは……分からないよ」


「それはそうよね」


 きっと可能ならば肩を竦め苦笑していたに違いない。


「ギルドというのは洞穴攻略を謳う阿呆共の集まりね。自殺志願者を管理する所よ」


「…もう少し分かりやすく」


「ド低能……」


 悪態をつかないと会話もできないのだろうか。今だときっと逆の事を言われるに違いないが、その頃のディアナは相当に口が悪かった。


「何かを欲しいものがいるとする。たとえばあの糞野郎みたいに宝石が欲しいとする。宝石を売っている人から買えば良い。それは当然なのだけれど、その宝石を売っている人達の手元にその糞野郎が欲しい宝石がなかった。とすると、宝石を売っている人達は調達する必要があるのね。それを誰にお願いするか、そこが問題よ……」


 くどくどと長々しく、けれど平易に時折説明を挟みながら、それこそ小さな子供に説明するように根気良く、私が理解するまで何度も何度も説明してくれた。ほんと世話焼きというか話好きというか。ありがたい話だった。何も知らない私に物を教えてくれる人。その存在はとても重要で、だから、ディアナの話を私はいつも楽しみにしていた。

 けれど、そんな楽しい時間が長続きしないのも世の常だという事をその頃には理解していたかもしれない。


「元貴族様が何を饒舌に語っているかと思えば……だが、それも当然か。体を売るのが生業のドラグノイア家の者が、寝物語が得意なのは当然だったな。いやはや、馬鹿な事を言った。許せよ、ディアナ」


 男の声がした。

 松明を手に、暗闇の中を行く男。


「ま。とはいえ、だ。今日の俺はお前には用がない。用があるのはこっちの子娘の方でな」


 言った瞬間、腹に蹴りを喰らわされた。


「げほっ」


 胃の中身が強制的に吐き出された。


「まったく。お前が勝手な事をしてくれた所為で投資が無駄になったよ。まったく。まったく。いやはやリヒテンシュタイン家は奴隷すら凄い、それに関しては良くやったと言っておいてやる。だがな、おい」


 顎に手を掛けられ顔を持ちあげられる。


「俺が目を掛けていた奴らまで殺すのはちとやりすぎだよなぁ?」


「あ、あれは」


「誰が喋って良いと言った?」


 ナイフを口に、口腔の中に入れられる。動けば口の中が切り裂かる。


「ちょっとそこの最低貴族様。小さな子に手を出すのは貴族としてどうかと思いますわ。弱者を守るのが貴族の役目でしょうっ」


「はっ!ディアナ。お前にはこれが人間に見えるって?馬鹿馬鹿しい。こんな気持ち悪い化物が人間の子供だと?アホらしい。俺はお前の見た目と頭の良さだけは買っていたんだがなぁ、おい?」


「はんっ。そっちこそ馬鹿ね。私には見えないわよ」


「なら見せてやるよ。お前のその爬虫類染みた目でしっかりと見ればいいさ。親に子を売らせる判断をさせた、ドラグノイア家から見放され、母親諸共に売られたその目でしっかりと見ればいいさ」


 男は笑い、壁掛けのディアナの眼帯が外される。

 マスクをされた状態でも、ディアナの顔が奇麗なのは分かった。高圧的なまでに鋭い眼差しには射竦められたかと思う程だった。

 そして、その眼差しの中。

 今までと言っても大して人間を見てきたわけではないが、それは人とは違う形の瞳をしていた。それは、どこかで見たような洞穴で見るリザードマンのような、そう、たとえばそういう爬虫類のような。


「久しぶりに見たがオゾマシイなぁおい。それがなければ社交界でも引く手数多だったろうになぁ。恨むならそんな風にお前を産んだ母親を、人間の神様でも怨むんだな」


「黙れ」


「ははっ。お前が怒るか。その表情もまた、美しいなぁ。そのオゾマシサがさらにそれを惹きたてる。やはり、ディアナ。お前は飾られているのが一番だ」


「黙れと言った!」


 暗闇の中でも燃えるような瞳だった。

 その瞳を持った少女によって作られたくぐもった音が牢屋に響く。


「その爬虫類の瞳で、人とは違う者と交わって出来たオゾマシイ瞳でさらにオゾマシイ化物を見てみろよ。お前よりも可哀そうな奴だぞ?くははは。何代も何代も繰り返し交配されて出来あがった神の瞳を持つ人造の化物。一切の穢れを持たぬ白い悪魔だ」


 ディアナの名誉のために言えば、彼女の母親は別に爬虫類と交わったわけではない。そのような趣味の輩というのはもしかすると世の中にはいるのだろうが、少なくとも彼女の母親が爬虫類と交わったわけではなく、ディアナは普通の人間だ。彼女の目はただの突然変異。たまたまそれがドラゴンに似た、爬虫類系の瞳だっただけだ。彼女に見えているものは他の人間と全く同じだ。私の瞳とは本質的に違う。


「それがどうしたというのよ。白いから何だというのよ。はんっ。何も知らない子供を捕まえて来て何を得意げに。馬鹿じゃないの?この不能野郎。まったく……貴女は白くて可愛らしいわね」


「……ディアナの目は宝石みたいだね。きらきらしてるね」


「貴様らっ!」


 思い通りにいかず、激昂する男。いつものようにナイフを取り出し、ディアナを、そして私も切りつける。腕に、足に、首に、顔に……。

 全く馬鹿な男だ。ディアナと私はこれまで互いを見ずに交流してきたのだ。今更見た目程度で何が変わるというのか。精々、悪態の台詞が増えるだけだ。今更なのだ。見えない世界にいる私達にとって、目に見える世界はその理からして違うのだ。

 そしてきっと、これが後の布石となった。



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