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自殺大陸  作者: ししゃもふれでりっく
第一章~パンがなければドラゴンを食べればいいじゃない~
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第11話 言葉は人のため、天才のために非ず

11。



「魔法というのはこう不思議な力をこうやってぐーっと手にためてばっ!と放すと使える不思議な能力なんだよ!ほら、やってみてぐーっ!だからねぐぅー!じゃないからね?」


 この説明が学園の魔法の先生を行っている方の説明だという事を知り、つまりこの人の説明が分からないという事は学園でも結局魔法については理解できないのだと理解し、文献もないとの事であり、魔法を覚える事に関しては諦めた。とりあえず分かった事といえば魔法とは自然現象や人工の現象を何か不思議な燃料を使って表現できる手段であり、その不思議な燃料が魔力という抽象概念的な何かである。その大小によって行える事の範囲も広がるそうである。一説によればドラゴンなど化け物達が火を吐いたり氷を吐いたりするのはこの魔法によるものだと考えられているみたいだ。人間ではやはりアルピナ様が行っていたように指先に火が灯る程度らしい。苦労の割に見合わない技術だと思えばやる気も増してこないといったものだ。ともあれ、この先生の旦那さんは大変だなぁとそんな変な心配をしながら武具屋の中を見回る。

 見回るといってもそれほど広いわけでも、商品が置いてあるわけでもない。基本的に受注生産型のようで店頭に置いてあるのはそういう系統の武具なら作れますといった見せ物のようだった。大量の職人を使って大量生産をする所もあるそうだが、少なくともこの店はその件の旦那さんだけで作っているようだった。そしてこの旦那さんがエリザの良く使っている武器の製作者だった。


「ん……何を叩いたんだ?」


「プチドラゴン」


「ん?……ドラゴンか。ならば致し方ないか」


 驚きもなく淡々としていた。もっと驚いても良いように思うのだが、多分相当に寡黙な方なのだろう。嫁と平均すると良い感じになるのではなかろうかと思う。ある意味御似合いなのかもしれないが……そんな事を考えている間にも二人の会話は続く。


「直りますかね?」


「無理だな。最初から作り直した方が遥かに良い」


「そうですよね……はぁ」


 無理やり直しても重量のバランスなどが問題となるのだろう。良く知らないが。そんな二人のぼそぼそとした会話を聞いていれば、背後に衝撃を喰らう。


「カルミナちゃ~ん」


 件の先生である。


「ぐ……」


「この辺りならどうかなー?」


 振り向けば笑顔満面の童顔な先生がそこにいた。身長は低い方ではないが、幼く見える。所作が幼い感じだからだろうか。今も、両手で持った金属片を見せびらかすようにじゃじゃーんと口で言っている。

 そんな口調に関してはさておき、金属片に目を向けるものの……私は金属商ではないので、模様が綺麗ですねというぐらいの感想しかいえない。私の要求は見栄えではなく、硬さなのでそんな感想は無意味ではあるのだけれども。


「硬いだけだと壊れた時に危ないからねーちょっとは柔らかさもあった方が良いんだよー」


 陶器製の器は割れる時は一瞬で、自分自身に怪我させる。対して金属製であれば凹み、歪んでから壊れるため一瞬で壊れる事は無い。つまり、最後の一手に猶予があるかどうかといった所。エリザのガントレットが陶器製だったら今頃エリザの腕はズタズタに切り裂かれ、手自体も潰され、そして二人ともこの場にいなかった事だろう。そう考えると、壊れるにしても猶予があるのとないのとでは違うなと理解できる。


「その辺はお任せしたいと思っています。私が見ても良く分からないので……」


「りょーかい!だとするとー。二人はおそろいだねー!だよね!?」


 という先生の台詞に首を傾げれば、旦那さんが頷く。


「彼女の剣もまたその金属で出来ている。ドラゴン相手でも破壊に至る事はないだろう。もっとも、だろうとしか言えんが」


 で、あろうと思う。


「ではお願いします。あと……それをこのなんというか腕に添えて飛び出すような仕掛けって作れますかね?飛び出すっていっても手に取れるような感じで……えっと」


 先生の事を悪く言えない気がしてきた。説明するというのは難しい。つまり、金属を腕の内側に配置しておき必要に際してトリガー一つで手に持てるような仕組みが欲しいのだ。いつも腰元だとどうしても時間が掛かるし、いつも手に持っているのも手が埋まる。その折衷案。


「んん?……あぁ!納得納得。大丈夫だよね!?」


「……なまじ仕掛けを入れると歯車に血肉が交る事がある。商売だから止めはせん。しかし、お勧めは出来かねるのだが良いか?」


「あ、いや……それは流石に」


 その場合きっと取り出す事もできず武器どころか人生が御仕舞になりそうだった。

ならば、とまた店の中をうろうろしていればエリザの方の交渉が終わった様子だった。結局、剣は作り直す事にした様子。途中途中の話を聞いている限りではついでに幅広にして厚みも増すそうだった。さっきは呪い所為で強いのだというような話をしていたが、正直普段からそんな重量のあるものを持ち運んだり甲冑を着こんだりしている事を思うにやっぱり普通に強いと思う。きっとエリザの装備の総重量は私一人分に近い重さだと思う。

 ちょうど一週間で仕上がる……というよりも仕上げるそうだ。そうなれば、ついでに私の棒もその時に出来上がるようにお願いするとしよう。とはいえその前にどんなのが良いかを考えなおしだ。

 うーん、うーんと店の中を物色しながら考えていると、暇を持て余したエリザが声を掛けてくる。


「抜き身じゃ駄目なのですか?刃があるのが嫌でしたら刃を潰した剣でも良いのではないでしょうか?」


「……剣だと刃以外の所とそうじゃない所って違うからね」


 エリザほど高速に叩き込めれば平べったい所でも致命症になると思うけど私には無茶な話である。相手よりも自分の腰が砕けるのが先に違いない。そもそも持ち歩くことすら不可能に思う。


「正直、棒っていうのがどうかとは思いますけどね。短いですし、危険ですよ。そこまで近づかれたら逃げるしかないというか」


「刃物は包丁があるし、剣は無理だし後何があるかと行ったら棒くらいしか思いつかなくて……考えてみても後しいて使えると言えば家畜を追っていた時の鞭くらいかな」


「なるほど。言われてみればまだ一週間ですものね」


「何だか色々経験しすぎてそんな風にはとても思えないのだけれどね。しかしまぁ御金に関しては残しておくって選択肢もあるにはあるのだけれど、自分に自信がない」


「未来の自分が分からないからこそ夢は見られるんですよ。って言えば格好良く聞こえますかね?」


「奴隷でなければ」


「確かに」


 苦笑する。そんな取りとめのない無為で無意味に楽しい話をしながら再度考えなおす。一人で悶々と考えていると都合の良いように考えてしまい、棒以外の選択肢は見つからなかったが、話をしているといろんな意見が聞ける。それに結局飛び出し機構の代替案は浮かばないのだから、金属の棒を使うというのもなしにして、自分の武器というのをもう一度考え直そうと思った。


「それならそれならー錬金術でどっかーんはどう!?」


 と、突然奥さん……アーデルハイトさんという……が口にする。気分が乗っているのかうきうきとしているのが傍から見ても丸分かりだった。もっとも隠すつもりなどなさそうではある。


「そんな危ない物って洞穴では使いたくても使えないんじゃ……?」


「確かに!そうだったよ!盲点だったよー……ジェラルドー何か良いものないの?」


 一瞬にして意気消沈しながら旦那に問いかけている奥さんの姿が、どこか子供が親におねだりするかのように見えてくる。旦那さんも旦那さんで子供をあやすように頭を撫でている始末。


「軽くて丈夫なものという意味でなら、ない。紐でも持って石なりなんなりを結んで振りまわした方がまだ良い。ただ、あれも経験がいるから難しいだろう。いっそ戦わないというのも選択肢だ。どのようなモノと遭遇しても一切戦わず隠れ、逃げれば戦う必要などない」


「元騎士団団長が言う台詞なのですか?」


 エリザの言葉に、旦那さんが騎士団の団長であった事を知る。それは武器にも人間を見る目もあるわけだ。団長であれば部下の訓練をし、その練度を理解しておく必要があろう。それゆえの観察眼。その人がいうのだ。今の私に持てる武器はないと、私が武器を持っている意味はない、と。


「だからこそ、だ。こんな姿になってからでは遅いからな」


 言いざま、長袖をめくり上げる。所々が牙の跡だろうか、凹んでいた。


「生活には困らないが、剣は二度と持つことはできん。この様だ。強い武器を持って相手と立ち向かう時、自分が強いものだと勘違いする事がある。強いのは武器であって自分ではないという事を理解しておかなければいけないのだ。絶対的に私達は弱い。だからいっそ武器を持たないのもまた、戦い方だとそう思う」


 思い返しているのだろうか。険しい表情をしながら腕をさする姿はどこか悲しげな雰囲気を醸し出していた。もう戦えない事が悲しいのだろうか。それとも……。


「二度と持てないならあれ私に使わせて下さいよ」


 緊張をはらんだ空気を茶化すのはエリザだった。


「皇剣アレキサンドライト、第一皇女ゲルトルード=アレキサンドリア=トラヴァントの名を冠する大剣。団長任命時に第一皇女から賜ったとされる剣。使えないのでしたら私に頂けません?」


「お前が奴隷家業を終えたら考えよう。あれは奴隷が持っていて良いものじゃない」


 淡々と告げるそれは拒絶の声に思えるがその表情はどこか優しげだった。それを聞くエリザもまた微笑んでいた。エリザが初心者の頃から御世話になっている場所なのだ。私が知らないような二人の関係。それが垣間見えて少し、羨ましいとそう思った。


「へー。そんな凄い剣があるんだ。エリザの今度の奴のより凄いの?」


「強度に関しては同等でしょうね。ただ、皇族が最も信頼する部下に与える守護の剣って言われるぐらいですから」


「具体的には?」


「私にも良く分かりませんが、魔法が掛かっていてその効果が表れるって話です。アレキサンドライトの場合には雷が発生するとか聞きました。そうですよね?」


「ちょっと痺れるぐらいだ。あれを雷と言うのはどうだろうな。皇剣の魔法は所詮戯れに付けられた機能だよ。ゲルトルード様も良く仰っておられた。それを使って何かやれるなら是非見せてくれ、家族総出で見に行く……と」


 聞いていてげんなりしてくる。凄いのに無意味という何とも馬鹿馬鹿しい代物だ。

やはり魔法とは、苦労の割に合わない技術なのだろう。だから村ではまったくそんな話を聞いた事もなかったに違いない。もっとも教会の方が仰っていた神の実技というのがそれに類するのかもしれないが、あれは所詮作り話でしかない。


「第三皇子のクリソベリルが放つ水の魔法と、第三皇女の火を放つ皇剣カーネリアンは実用的な魔法ではある。水筒と松明の代わりにはなるという意味程度だが……」


「皇族から賜る剣をそんな風に使って良いのですか?」


 疑問だった。儀礼的な意味が強いならまだしも実際に使えるようなものをそんな庶民的な使い方をしてはその剣の価値が下がるなど言われないものだろうか?そんな私の疑問に苦笑しながらジェラルドさんが答える。


「性質の悪い冗談だ。当然そんな使い方は誰もしていない。いや、第三皇子と第三皇女は既に御亡くなりになっており皇剣を拝命するものが現れることはない。より言ってしまえば、8年前にドラゴンにより壊されているのだ」


 だからそんな風に使える人は二度と現れない。


「9本あった皇剣も残す所は私の持っているアレキサンドライトと、ヴィクトリアがアルピナ皇女殿下から賜ったセラフィックナイトと……」


 アルピナ様の剣、それは一体どんなもので、どんな魔法が使えたのだろうか。今度依頼の時にでも聞いてみよう。うん、そうしようと昨日出会ったアルピナ様の顔を思い出しながら話半分に聞いていれば、少し怖い顔をして後を引き継いだアーデルハイトさんが、恐る恐る喋り出す。


「最後の剣、9本目の剣はオブシディアンって名前なの。皇帝が彼の有名なマジックマスターに依頼して子供たちのために作ってもらったのは9本の剣。そう。皇帝の御子さんは8人しかいないのに。9本の皇剣が子供たちに与えられたのー!きゃーこわいー!9本目の剣は生れて来なかった子に与えたものなのか、それとも誰も知らない皇族が何処かにまだいるのかっ!皇室に伝わる未だ解き明かされぬ謎!なんですっ!もし仮に御落胤が居られたとしたら御名前にはオブシディアンとかオブシダンって名前が入っているのではと予想されたぐらいっ!あぁ、誰かこの謎を解き明かしてくれる人は現れないのか―っ!」


 楽しそうだった。酷く楽しそうだった。

 そんな楽しげな姿についオブシディアンオブシディアンと繰り返していれば、ふいに脳裏に浮かんだのはオブシディアンが間延びしてオブシディアーナでディアナ様とかだったら面白いとかいう事。それだったらあの方の立ち位置の理由がわかるというものだ。けれど、きっとそんな単純な事ではないのだろう。

 少し気になるけれど、今はさておこう。


「その、なんとか剣というのはさておきまして。えっとつまり、防具だけ揃えておけば良いんだすかねぇ?」


「穴掘り用のスコップくらいはあっても良いかもしれん」


 そんな風に真面目に言われ、ついつい御高い金属でスコップを作ってもらう事になった。私はこの人生でもう二度とスコップを買う事はないだろう。それぐらい良い品物になりそうだった。だが、問題は御金が大量に余った事。その有意義な使い道を思いつかないのはやはり村社会で貨幣制度にまともに触れて来なかったからであろう。

 本職が武器に関しては諦めた方が良いといっているのだ。一旦時間を置いて、学園で学んだ後に良いものが思いついたらそれで武器を作るとしよう。だから、今は良く使う縄とか松明とか松脂とか服とかその辺りから揃えて行く事にする。軽くて丈夫な物。多少値が張ったとしてもそこを重要視しようと、そう思う。ここで惜しむ意味はないのだから。


「スコップと剣……御揃いだけど、なんかちょっと御揃い感がないね」


 そんなエリザの至極残念そうな声を聞くに、ちょっと悪戯心が湧いてくる。


「これだけじゃ、不満?」


 首のアクセサリを手にし、上目遣いに言う。


「全然、全然不満なんかじゃないよ?あ、そうだ……この紐」


「あ……なるほど。うん。そうしよう」


 首から下げていたドラゴンの角、二人の出会い、一緒に戦った記念のアクセサリ、その紐を二人御揃いの、金属製の鎖に変えた。

 手早く鎖を付けてくれたジェラルドさんに支払い、二人で向かい合ってそれを見せ合う。これがこの街で出会った、最初に出来た御友達の証。触るとしゃらんと音のなるそれに少し気恥ずかしさを。けれど一緒という安心感が私の中に染みわたる。


「じゃあ、他の買い物にいこっか」


「えぇ。行きましょう」


 どちらからともなく、二人で手を繋いでゆっくり陽の下を、私達は歩きながら、いろんな御店を見回りながら買い物をしたり、話し合ったりし、その日を過ごしたのだった。

 


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