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06





必死になって、掴み取った「今」を


失いたくないから






×××06×××



「っ………」

「隊長っ…!隊長!!」

「……テルア…か?」


懐かしい声が聞こえると思い、視線を彷徨わせれば鼻と目を真っ赤にした部下の姿があった。


「っ、隊長っ…!本当に、よかった…、俺…隊長がいなかったら、俺っ」

「………泣くな…」

「っ、すみ、ませんっ…」


ぼんやりと見上げれば、ここは自室だという事に気づかされる。

腹に力を入れて、身をゆっくりと起こせば、鈍い痛みが体内を走り抜けて意識を飛ばしそうになるのを、奥歯を噛み締めることでなんとか紛らわせる。


「隊長!無理なさっては……!」

「そうですよ、ローベルト。いくら魔術で回復したといっても、貴方は命を落としていても可笑しくなかったんですから」

「……シュアルツ…」


ゆっくりとした動作でローベルトのいるベットに近づいた魔術師は始終笑顔のままだった。


「まったく…ローベルト、貴方という人は…」

「………世話をかけるな、シュアルツ」

「いいですか?一週間は、完全療養として魔術療法を並行してもらいます。乗馬も控えてください」

「………あー………わかった」

「貴方、守る気ないですね」


ローベルトは、ふっとため息をつき部下を呼ぶ。


「テルア、すまないが…私の代わりに部下の様子を見てきてくれないか」

「わかりました!隊長が目を覚まされたことも伝えてきます」

「あぁ、頼んだ」


扉が閉まる音と共に、ローベルトの顔が険しくなる。


「………何故、私は生きている」

「そうですね……、あの状態で貴方が生きていることは奇跡に近かった」


窓は閉め切られている筈なのに、シュアルツが身につけている王宮魔術師の衣服の裾がふわりと揺れる。


「きっと、貴方を最初に処置した者の腕が良かったのでしょう……臓器の細部まで魔力が行きとどいてましたから……誰でしょうか?おそらく、私と同等もしくは、上を行く者でないと…この高等魔法は不可能かと。」

「……………」

「ローベルト?」

「覚えて…いない」

「は?」

「覚えてないんだ…」

「………………」

「馬に乗って、門をくぐり、大理石の間までは微かに覚えている…」


ローベルトの言葉にシュアルツは微かに眉間に皺を寄せたが、直ぐに身を翻し扉の前まで歩いてゆく。


「………そうです、か…。まぁ、考えても仕方がないですね。今は、治療に専念してください」

「あぁ。頼りにしてるぞ、魔術師団長殿」

「お任せください、騎士隊長殿」



シュアルツは、ローベルトの部屋を後にしながら、考えを巡らせる。

魔術には、癖というものがある。それが顕著に表れるのが魔法陣だ。

それを知る為には、魔術を使うものが故意的に浮かび上がらせないと見えてこないものではあるが。


「……見たところ、初めて見る陣でしたね…」


流れるような美しい文字が、確かにローベルトの心臓部分に施されていたのだ。

しかもご丁寧に二重の布陣。一つは、回復魔術だが、もう一つは記憶をあやふやにするものであった。

更には個人が特定できないように、その魔法陣さえ徐々に消えていく様、計算して書かれているではないか。


「内部の者か……それとも外部の者か………それにしても」


真っ白い宮殿

緑生い茂る草木

飛び回る蝶



「美しい、エメラルド色でしたねぇ」




シュアルツの間延びした声は誰にも聞かれることは無かった。

















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