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誤文訂正しました。
あの日のそらは、真っ赤に染まっていて
ただただ、それを恨めしく見ることしか
私にはできなかったのです
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「皆も、昨日の第四騎士団の件は知っているだろう?下々の私達がすることは山ほどある。よって今日はグループになって動いてもらうよ!指示は、そのリーダーに聞いておくれ」
いつもと変わらない毎日。
早朝から下女たちは働き始める。
「えーっと、マーサとエマ!それに……リア!」
「はーい」
「はい!」
「はい」
「お前たちは、今回私の指示で動いてもらうよ。いいね?」
下女長の言葉に3人は無言で頷きながらも、脳内で深いため息をついた。
ぱしゃ、ぱしゃと水音が乾いた空気に響き渡る。
寒空の下、冷たい水が指先を凍らせた。
「じゃぁ、あたしは他の所の見回りに行ってくるから。これが済んだら昼食にしていいからね」
「「「………はい」」」
下女長が去ると同時に3人は、草むらに尻もちをついた。
「ああああああ!もう嫌っ!」
「マーサ、声が大きい」
「っ、だから下女長の下って聞いた時嫌な予感したのよね!」
「はぁ…もう、私も指の感覚がないですよ~~~」
真冬の寒空の下、三人は川の水を使い洗い物をしていた。
もちろん、下女長が物干しに干してゆくという名の見張りをしていたせいで、手を休めることはおろか、一言も喋ることが許されなかった。
下女長はこの王宮内でも責任感がとても強く厳しい事で有名だ。その中でも、堕落しきっていたとある騎士団長を怒鳴りつけたという話は有名である。
各自に用意された大きめの木製たらい。
後ろにある籠には沢山の衣類。
「ほんっと、この国お金あるでしょ!?洗濯なんてケチなことせずに新調すればいいのよ!いっそ!」
「血液が付くと、取れにくいんですよね…」
マーサとエマの言葉に、リアは無言で頷いた。
血が付いた衣服は、お湯では洗えない。血液がこびりついて取れなくなってしまうからである。
だから、水に浸し、何度も洗う。
いつも使っている石鹸の他に、この国特産の魔術を養分として成長する草花を入れて一緒にもみ洗いするのだ。それも、何度も何度も。
じんじんする指先は真っ赤に染まっていた。
いくら自らの息を吹きかけても、冷たさは変わらない。
リアは水をはったたらいの中にある黒いマントに、そっと指を添えた。
じん、と冷たい水が神経を麻痺させる。
最初より殆ど落ちた血糊だが、まだ白刺繍の部分に色が染みついていた。
これは、あの方のものなのだろうか。
ふらりと脳内によぎる記憶。
金色の瞳、黒い髪。
「っ…………」
無意識に握りしめたマントと水面に波紋が現れる。
あの時は、仕方がなかったのだ。
私は何も動かない
私は何も知らない
「………ア……リア?」
「っ、へ?」
「もー!へ?じゃないわよ!これじゃらちが明かないから、もう少し効力の強い魔法草を頂いてきましょう。因みに、ここの見張りにはエマがいるって」
「お二人で行ってきてください、私はもう魔術師はこりごりなんで」
「って事!行くわよ」
「うん」
マーサの後ろを続いてリアが歩く。
何時間ぶりかに室内に入れば、暖かい空気が二人を包み込んだ。
「っはぁ…。寒かった!」
「そうね…。エマの魔術師嫌いは相変わらずね」
「そうよねー。ま、魔術師侍女が嫌だから、下女になっちゃったんですもの」
マーサの呟きは広い廊下に響く。
「私だったら、……意地でも侍女の座に喰らいつくのにね!」
「ふふ、マーサらしい」
「え、普通でしょ?リアはなりたくないの?」
「うーん……ま、エマの気持ちも解るなあ」
「え、何それ!」
くすくすと笑えば、それを見たマーサは苦虫を噛み潰したような顔をしながら「変な子」と呟く。
そうだ、私は下女でいい。
いや、下女がいい。
何にも関わらず、
何の力も使わない
昨日の事は忘れよう
忘れられなくても、私の中で消してしまおう
そうやって、今日も、明日も
生きていこう




