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残酷描写が入ります。苦手な方はご注意ください。



のみ込まれる前に

全てを、消せ


例え青空を朱に染めようとも




×××25×××




4日かけて辿り着いた中立領であるアルカナは、人気もなく閑散とした雰囲気が漂っていた。


「此処に住んでいる人間はいるのか」

「そうですね……少数民族が、停戦後も住んでいたという報告は書類上あがっていましたが…なんとも言えない雰囲気ですね」

「そうだな…全員、直ぐにでも剣を抜けるようにしておけ」


ローベルトの声が、一団に緊張をもたらす。


民家が点在しているものの、横を通り過ぎれば紛れもなく全てが廃墟。赤土が露見した地面には雑草が生い茂っており、獣道のよなものが何本か奥に続いているだけだった。壊れかけの民家の中には、錆びついた釜や倒されたまま風化した本や衣服が、まるで遺跡の様に存在している。


その後も誰も一言も喋らないまま馬に乗り、道を進めば最北端に白煉瓦造りの大きな建物がぽつんと建っていた。建てられて年数が経っているいるのか、その大部分は赤茶色の蔦に覆われており、何とも言い難い雰囲気を放っていた。それを見た一団に、より一層の緊張がはしる。


「……あそこのようですね。魔術師は全員前へ。この結界の様なものを破壊してからではないと前へは進めないようですし」


シュアルツの言葉と同時に、数人の魔術師が何事か呪文を唱えながら手を前にかざす。まるで鍵を解除するかの如く無数の円が軽やかに建物を囲み、一瞬の閃光と共に霧のように分散した。


「まぁ、そこまで強力なものではなかったみたいですね。解除は完了しました、さぁ、中へ」

「助かった。テルア!」

「はい、ローベルト様」

「計画通り行う、入口の見張りを頼む」

「はい、了解しました」



入口付近に騎士と魔術師の数人と、馬を残し、残りの一団は建物の奥へ進んでいく。うす暗い室内は、数人の魔術師によって照らされ不自由なく進むことができた。時折何かを踏む音が、パキリ、パキリと響き渡る以外誰も、何も話そうとはしなかった。



「っ、下がってください!」


シュアルツの声と共にローベルトは素早く剣を抜き、前を見据える。何か、人知れぬ何かがいるのが感じられ、二人の後ろにいる部下達も固唾をのんだ。


「これはこれは……なんと、酷い…!」


その言葉と共に、シュアルツの掌から無数の輝きを放つ矢が勢いよく放たれ、それに続くようにローベルトが一団から勢いよく走りだす。閃光が一瞬にして何かにぶつかると同時に破裂する輝き。ローベルトの振るう剣はその何かを確実に仕留め、一線を描くように横に引く。


「……行くぞ、奥までもう少しだ」


ローベルトの淡々とした声が通路に響き渡る。氷の様に冷めた瞳は、自らの足元に転がる無数の残骸を見つめていた。赤なのか、青なのか。何色とも表現しがたい液体が充満し、魔術によって破裂し、剣によって引き裂かれた生き物の残骸が散っていた。


一歩踏み出すごとに耳障りな音が、脳内を刺激する。それでも、ローベルトは無表情のまま、奥を目指す。上司の行動に、何事もなかったかのように他の騎士達も続く。


「シュアルツ様……」


一人の魔術師が、自らの上司に真っ青な顔で訴える。


「あぁ、君は……今日が初めての任務でしたか」

「は、はい…」

「それは、それは…不幸ですね」

「え…?」

「最初の任務が、あの…第四騎士団とだなんて…。まぁ、ある意味、幸福かもしれませんね」

「どういう…ことでしょうか…」


その言葉に、シュアルツは口元をゆっくりとあげる。


「おや、知らないのですか?」


鼻を突く臭いが、嫌でも現実だと物語る。


「第四騎士団は、王の剣として全てを斬りつくす。つまりは、王の意思が彼らの中で『絶対』なんです」


目の前の光景に耐えきれず、男は口元を両手で覆いその場に(うずくま)ってしまう。

その様子を笑顔で見つめながら、シュアルツはその男の背をさする。


「どんなに酷い手を使ってでも、計画を全うする。自らの足がもげようとも、手が無くなろうとも、その命令を遂行するのが彼らにとっての使命であり、誇り」


通路の奥で聞こえる無数の悲鳴と、刃物が当たる音。そして、何かが裂け、滴る音。


「ローベルト、早く行きすぎですよ」


シュアルツは、声をかけながら歩き出す。


何故、第四騎士団の衣装が黒いのか。華やかな赤や忠誠の白ではなく、黒なのか。それは至極簡単な理由。冷血の第四騎士団隊長が率いるその騎士団は、影の様に舞い、王の暗剣として全てを叩きつぶす。どんなに血の雨が彼らに降り注いでも、黒であれば、その血の色さえも全てを消す。何も最初からなかったかのように、全てを隠す闇のごとし。




「……これは、ここに住んでいたはずの少数民族の慣れ果てですか」

「あぁ、魔力を吸い過ぎて自我をコントロールできなくなっている様だ…」


ローベルトは僅かに、掌を握りしめる。脳内に一瞬現れる、あの日の家族の姿。それを振り払うかのごとく肺の中にある空気をゆっくりと、長く吐き出す。


「確かに……此処には、有り余るほどの魔力が満ちてますからねぇ…。ローベルトや騎士達には、少し強すぎるようですし……私達魔術師も、ここに3日いればあんな風になり果ててしまいそうですね」

「一般人は…?」

「もって1日です。だからこそ、早急に終わらせましょう」

「あぁ……解っている」


足元にあった斬り倒した肉片を蹴飛ばす。真っ黒なブーツはいつしか真っ赤に染まり、そして、独特の重さと共に黒く変色していく。

着実に、細い通路を歩き、前へ進む。何時間経ったのだろうか、ほの暗い道を突き進み、角を何度も曲がってゆく。ついに一行の目の前の視界が広く、開けたものとなった時、全員は思わず目を見開いた。



「っ……これは、予想以上ですね…」


シュアルツが呟いたその隣で、ローベルトは息を飲んだ。



無数の容器の中に入れられ、液に浸っている数々の人間。ステンドグラスのようなものが天井に敷き詰められ、太陽の光を通す様はまるで何処かの教会のようで。真っ白な大理石の床に敷かれた赤い絨毯とドーム型になった天井から吊り下げられたシャンデリア。そして、真っ白な長い階段の上には黒いグランドピアノと一つの容器。


その中の人物は、美しいエメラルドの瞳。








ここから、全ては始まった。

























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