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22

あの日の空は、青く、広く




×××22×××




ローベルト率いる第四騎士団と、魔術師団長であるシュアルツが選抜した一団がグランディア帝国の旧領地であり、現在はトゥルーサ帝国との中立領であるアルカナに出発する前日。

リアは、ローベルトの出発の為の準備を一通り終えた所だった。


「水袋2つと、シャツが2枚、剣の手入れ用のオリーブオイルに…」


メモを片手に目の前の物資の確認をする。侍女としての仕事の一つに遠征時の準備がある。リアにとって初めての事だから、ローベルトの部下のテルアの侍女であるサラに詳しく話を聞き、今に至る。


「それと……」


リアの掌の上に乗せられているのは、黒い布をベースにした小さな勲章の様なもの。この国では、旅立つものに異性から送る習わし(ならわし)があるという。旅の安全を祈り、その人の命を守る様に布に願いを込め、刺繍を施す。このことを聞いたのもサラからだった。


「本当に、私がお渡ししていいのかしら…」


はぁ、と小さな溜息と共に自らの掌にある布を見つめる。サラが言うには、恋人から渡すのが一番良いのだという。その言葉に、リアは声を上げた。


『それじゃ、その仕事は私はしなくていいんですね?』

『何言ってるの!リアがしなくて誰がするのよ!』

『え…でも、恋人って。ローベルト様には…』

『いない、いない。前回の遠征の分も私が刺繍してあげたのよ。只でさえ、自分の主人ので精一杯なのに、2人分だったから大変だったわ』

『そうなんですか…?でも、ファンクラブ?の方は…』

『あ~それはナシ!ファンクラブの規約では、ローベルト様に物を渡すのは禁止だから!』


サラの言葉にリアは首をかしげる。


『言い忘れたけど、私もローベルト様のファンクラブの一員なのよ』

『えっ!?そうだったんですか!?』

『えぇ。それより、絶対っリアが渡さないと駄目だからね!それなりの位に就いている人が、その布をもらってないってことは、ある意味品格を下げてしまう意味合いもあるの。だから、意外と重要なのよ』


再びリアは自らが作ったものを見つめる。人並みには刺繍できるのだが、はたしてこれでいいのだろうか。黒い布の中央には白とシルバーで大輪の花と前足を上げる馬を、そして布を縁取るのに金色で月桂樹の葉を刺繍したのだ。



扉の開く音が聞こえ、反射的にリアは持っていた布を服のポケットの中に入れる。振り返えれば、軍服に身を包んだローベルトの姿。


「リア、明日の事なんだが…」

「はい、何でございますか?」

「出発の時間が早まった。日の出と共にこの城を出る」

「解りました。明日の持ち物の準備は、このリストにあるものでよろしいでしょうか」

「………あぁ、それと乗馬用のグローブを頼む」

「はい、加えときます」

「……リア、今から街に行く用事がある」

「わかりました、直ぐに準備を…」


すぐに準備に取りかかろうとする姿に、ローベルトの掌がリアの手首を捕まえた。


「……ローベルト様…?」

「違う。あー…いや、準備はいい」

「?そのままのお姿で向かわれるのですか?」

「あぁ。いや……」


何かに迷う様に、視線を彷徨わせるローベルト。その間も、リアの手首を握ったままで。熱がお互いを共有する。


「あのっ「リア、一緒に街に行ってほしいんだが」

「………私が、ですか?」

「あぁ、ついてきてくれないか」

「でも、私…街に降りたことなんて滅多にないですし…」


金色の瞳がじっとリアの瞳を見つめる。その澄んだ瞳に、リアは吸い込まれる様な感覚に陥っていた。なんて美しい瞳なのか。濁りがなく澄んだ瞳はローベルト、その人の性格までも表しているようで。

無意識に心音が早まる。未だに握られた手首が、熱い。



「……時間がない、いくぞ」

「っ!?え、ローベルト様っ」


勢いよく引かれる。早足で廊下を進み、馬小屋に着いたころリアは小さく声をあげる。


「で、でもっ…私、街に降りれるような格好では…」

「その点は気にするな」


沢山いる馬の中で、一番奥にいる黒馬にローベルトは近づき手綱を引きよせる。リアはその姿をじっとみつめていた。軍服を着ている彼と、彼の愛馬であろうその馬が寄り添うように歩く姿はまるで戦場の様で。

ぎゅっと、胸が締め付けられる。あの時も、この馬で戦場を駆けていたのだろうか。自分を犠牲にしてまでも他者を守る、彼の姿が脳裏に浮かんだ。



「リア、手を」


低く、聞きなれた声が名前を呼ぶ。

無意識に伸ばせばいとも簡単に馬上に引き上げられ、ローベルトの前に座る様な格好になる。

後ろから腹部に回された手は、大きくてしっかりとしていて。


「口を開くなよ。舌を噛むぞ」


その声と共に馬が駆けだし、景色が一瞬にして過ぎ去ってゆく。2人を乗せた馬は城の大手門を抜け、丘陵を超える。眼下にはレンガ造りの街並みが見えていていた。心地よい風がリアの頬をなで、青空には鳥達が優雅に飛んでいる。

初めて馬に乗ったが、リアにとってそれはとても安心できるものだった。ローベルトの腕が、胸が、リアが落ちないようにしっかりと支えてくれていたのだ。


「ローベルト様っ!」

「なんだ」


初めての乗馬に高揚する気持ちを抑えられないリアは、身体は前を向いたまま大きな声を上げる。


「凄い!景色がキラキラしてますっ!私、こんなに楽しいの、初めてかもしれない!」


自分が風になっているような感覚。ふわりと風が髪を揺らす。その都度に花の香りが広がる。


「連れてきてくださって、ありがとうございますっ!」


振り向き、自分に笑いかけてくるその姿。美しく、誰もがその表情を見れば恋に落ちてしまそうなほどの笑顔。その表情に、声色にローベルトはまるで眩しいものを見るかのように目を細め、口元を上げる。

下手すれば、鼻と鼻が触れ合いそうになる距離。何も化粧をしていないはずの彼女の唇は美しいピンク色。軽く、掠る(かする)ように唇を奪えば、目の前にはきょとんとした表情のリア。


「……それより、前を向け。舌を噛むぞ」

「っ………!」


一瞬の後、急いで顔を前に向けた彼女の耳は真っ赤に染まっており、後ろから見ても解る程であった。


2人を乗せた馬は、城から一番近い街へと近づいて行く。

















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