02
夕日で視界が赤く染まる中、火の粉が飛び散る
何かが焼ける臭いと馬の嘶き
ただ、その中を声がかれるまで叫んだ
振り向かず逃げろ
地の果てまで逃げろ
国への咎は、全て私が負う
だからこそ命を失うな
×××02×××
仕事がひと段落したのは、もうお昼の時間をとっくに過ぎた夕暮れ時だった。
こうなったら昼夜一緒の食事である。
プレートが人数分用意してあるシステムの下女達の食堂は、いつもと違って閑散としていた。
なんせ、こうも仕事がバラバラに割り振られていた日は久しぶりなのだ。
以前は、後宮に新しい姫が来る前日だったか、と頭の中の記憶を整理しながらリアは席に着く。
いつも一緒に食べる、一番の友人であるマーサの姿ももちろんない。
「おや……リアさんじゃないですか」
「あ、ふぉんばんふぁ」
「もー!可憐な少女が、お口に大きなリンゴを頬張りながら喋っちゃいけませんよ」
「はーい」
「夕食、ご一緒していいですか?」
「えぇ、どうぞ」
紫色の見事なウェーブのかかった髪の下女仲間のエマが目の前でにっこりと笑う。
エマは、年齢こそ違えど下女仲間の中でもマーサと同じく同期である。
しかしこの下女、一風変わっており、侍女降りの下女だ。
一般的に侍女は王族から騎士、後宮、神官、魔術師などの身の回りの世話を行うのが通例で、下女に降格された者の殆どがそのプライドからか辞めてゆく。
なのに、彼女は自ら下女への降格を志願した変わり者なのだ。理由は「めんどくさい」だそうだ。
「ねぇ、リアさん」
「……何ですか?」
「私、この3年間ずーっと気になってたんですけど」
「……………」
「リアさんって、魔力持ちですか?」
「は?」
「いや、私の占いにね…」
「エマさんのって…タロット占いでしたっけ?」
「そう…そこに現れてるの…」
「現れてる……?」
エマのパープルの瞳はリアのエメラルドの瞳をじっと見つめた。
その瞳は、まるで何もかも見透かされているような感覚に陥らせる。
「リア、貴方は…「誰かいるかっ!?」
バンッと勢いよく扉が開いたかと思えば、ここにはめったに来ない守衛が顔を真っ青にして駆けこんできた。
その尋常じゃない姿に、リアとエマはとっさに立ちあがる。
「どうされましたか?」
「っ、第四騎士団が帰還したが深手を負っていて命が危ない者もいる…!!今すぐ来てくれ!!」
「わかりました。リアさん、私は西塔の魔術師と司祭を呼んできます!貴方は―-」
「東塔から、人手を呼んできますっ!」
一斉に城全体が騒がしくなったのは、夜空に星が瞬き始めた頃だった。




