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私を見つけないで

私に気づかないで


どうか、どうか







×××13×××



「リア~下女長が呼んでるわよ~」


中腰で、洗濯場にある洗いものの選別をしていた時だった。

遠くの方から、下女仲間が声をかけてきた。この距離では何とも答えづらい。だからこそ、やまびこを呼ぶような格好で大声で返事をしたのだ。


「はーーい!」


「おや、威勢のいい声ですね」

「は?」

「いや、失敬。貴方がリアさんですか?」


のんびりとした声に振り向けば、魔術師の装束を着たパープルの美しい長髪の男が立っており、人のよさそうな顔でほほ笑んでいた。


「…はい、そうでございます」


素早くその場に(ひざまず)く様に、礼をするために膝を床につける。

リアは顔を下に向け、じっと耐えるように床を見続けた。


無意識に頬を伝う汗

どくどくと不自然に脈を打つ心臓


本能的に何かが警戒音を鳴らしていた。

何とも言えない、魔術の圧迫感がリアを襲う。

久しぶりだった。こんなに息がつまるような魔力を身近に感じたのは。


「どうぞ、お立ちください」


透き通るような声が、リアを無意識に立ちあがらせた。


「っ……何か、御用でしょうか」

「えぇ。貴方を見つけるのに少々てこずりましたよ…本当に」

「っ、何故…私の様な者を…お探しに……」

「リア、と言いましたね。………本名はリア・フェレン、20歳。現在はこの城の下女して働いており今年で3年目。両親とは死別しており、そのうちの母親であるエスタール・フェレンは魔術師史の中でも名前を残すほどの魔術師。しかし、旦那となる男と結婚した後、子を宿すと姿を消した……」



すっと、男の手がリアの額に触れようとする。


その瞬間、パシンという乾いた音と共に男の手は叩かれ、行き場の無い掌が不自然な形で宙に留まる。

男は目を見開き、リアは男を睨みつける。


「見ず知らずの女性の身体に、何の断りもなく触れるのは恐れながら浅はかな行為だと」

「おや、そうですか。……なかなか手厳しい。上手く魔力をコントロールしている様ですね。流石だ…」

「………何の事をおっしゃっているのでしょうか。私は、唯の下女の一人にすぎません。そのリア・フェレンという方の様に苗字を名乗れる様な身分の者ではございませんので、人違いかと。失礼いたします」



此処でこの男と会話を話したところで、不利になるのは当然。

とにかく、この場から立ち去ることが得策だとリアは一礼して、踵を返す。


「貴方でしょう、ローベルトを最初に手当したのは」

「…………」


何も返事をしないリアに、苦笑をしながらも男は独り言の様な会話を続ける。


「まぁ、貴方が魔術を使いたがらない理由も解らないではないですよ。目の前で母親が」

「何が言いたいんですか」



激しい音をたてて、周辺の窓ガラスが一斉に割れていく

冷たい空気

重たい圧力と散らばったガラスの破片


リアは必至で自らの手首を押さえながら、男を睨みつける。

こうでもしないと、溢れだす魔術を押さえることができなかった。



「………すさまじい、まさに希代の魔術師。我が軍が求めていた力」

「……………」

「申し遅れました、私はシュアルツ・ルーア。この国の魔術師団長を務めております」

「……私に、二度と関わらないでください」

「いいえ、貴方はきっとこちら側の人間になりますよ。貴方の運命は、その血が定めたものですから」



砕けたガラスの破片で頬を切っている男は、それでも優雅にほほ笑んでいた。









長い廊下を一人歩く。

先ほどできた頬の傷。軽く手を当てれば、一瞬でそこには傷など最初から無かったかのようになる。

シュアルツは、ゆっくりと最後の扉をあけた。


「可哀相な子ですね……本当に」





次の戦の気配が見え始めた冬の終わり。












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