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誤字訂正いたしました(2/9)
いらない
こんな力なんて、いらない
握りしめた砂利が、血の気の引いた掌に痕をつける。
×××01×××
「今夜、第四騎士団が遠征から帰還されるから、各自の持ち場が変化するわ。表を良く見ときなさい。必ず時間までに全て終わらせておく事。持ち場が終わり次第、私の所へ来なさい。いいわね?」
下女集団の長が言い終わると、その場に居た数十人の下女達が一斉に動き出す。
「あー…今日は、昼ごはん食べれるかしら」
「難しそうね…マーサ、最初は何処?」
「私はシーツ補充よ。リアは?」
「衣類回収……第一団の」
「うわー!一番遠い東の塔じゃない…頑張って」
「うん、なんとか…」
お互いに鼓舞しあいながら、正反対の道を歩き出す。
リアは、大きなバスケットを抱え長い長い庭園の傍の道を通り、東の塔へ向かう。
この王宮の下女として勤めるようになって早3年。今年の夏で20歳になる。
下女仲間の中でも、年上の部類になった。普通の娘は16歳で結婚なり婚約をする子が大半の中、少し行き遅れと言っても過言ではない。
眩いほどの緑が生い茂り、花々が美しく咲き誇る王宮の庭園。
青々とした、空に浮かぶ白い雲。
立派な赤レンガの城とそれを囲むように立つ4つの塔。
そう、ここは、大陸の東端に位置するグランディア帝国。
誰もがうらやむ、巨大帝国。
「おはよう、リア。今日は何処の騎士団担当なんだい?」
「っ、え…?ご、ご無礼をいたしましたっ、申しわけございませんっ…!」
籠で前が見えずとも、気配を感じ取らなければならないのが下女勤めの基本。
皮肉にも、この王宮で最も低い位置にいるのが下女である。
下女が居なければ何も回らないとも、誰も気づかずに。
リアはすぐさま廊下の右端に寄り、廊下に額をつけ深々と蹲るように礼をした。
「っ、リア。やめてくれ…」
「いいえ、王宮での決まりでございます。……レヴァン様」
リアに手を差し伸べた灰色の髪色の騎士は悲しそうな表情をした後、リアの目の前でしゃがみ込むと彼女の体を起こす。
「ほら、女性が簡単に床に顔をつけてはいけないよ」
「申し訳ございません…」
「相変わらず、リアは真面目だなぁ」
「そうでございましょうか…?」
「うん」
青い頭巾をかぶっているリアの頭を数回撫でるとレヴァンは置いていた籠を軽々と持ち上げ、リアにも手を差し出す。
「ん」
「……は?」
「ほら、持って行くよ。何処?」
「っ、そんな…!」
「じゃぁ、リアを抱えていこうか?」
「っ、第一騎士団の東塔です!!」
真っ赤な顔をするリアを見ながらレヴァンはほほ笑む。
普通は、騎士とは話すことが少ない下女。
下女と話したがらない者も多い中、レヴァンのリアに対する態度は違った。
彼女がこの王宮の下女として働き出してすぐ、何故だか彼とは打ち解けていたのだ。
「今日は、ずっと第一騎士団なの?」
「いえ…、今日は仕事が多くて…」
「ふーん、残念」
「第四騎士団の方々も帰還されるそうですから…」
「第四騎士団……か」
その単語にレヴァンは顔を曇らせる。
「どうか、なさったのですか……?」
「……いや……」
先ほどまでの明るさは何処へやら。その表情は彼の本来の顔である騎士そのものになっていた。
気づいたら、もう東塔の目の前で。
本来は守衛に寄らなければいけないが、幸運にもレヴァンが居るので手間が省けた。
「本当に、ありがとうございました」
「いや、いいって。これぐらい。……それより、リア」
「はい」
「その敬語、止めることはできない?」
彼の言葉が胸に刺さる。
「……はい」
「俺は、いつでも昔に戻っていいって…思ってるから」
「………、貴方はもう、私に構わずに前だけを見てくだされば…いいのですよ。昔とは、立場が違いますから。第一騎士団、副隊長レヴァン・ノワール様」
ゆっくりと彼を見つめれば、彼の美しい髪が青空に映えていた。




