ー第2節 疲労困憊のツカサを見たアカリは、至高の境地からくる無意識の慈愛で、彼のために先ほど作ったばかりのまかない定食をそっと差し出す。ツカサは食事への絶望を抱えつつも、その温かな香りに目を向ける。
第2節 疲労困憊のツカサを見たアカリは、至高の境地からくる無意識の慈愛で、彼のために先ほど作ったばかりのまかない定食をそっと差し出す。ツカサは食事への絶望を抱えつつも、その温かな香りに目を向ける。
椅子に沈み込み、荒い息を吐くツカサ。その姿を見たアカリの心には、先ほどの「おつまみモンスター」によってもたらされた現世での至高の境地から湧き上がる、純粋で絶対的な慈愛の念が溢れ出した。
相手が次期社長候補の御曹司であるとか、営業時間が終わっているとか、そういった些末な常識や地位の概念は、今のアカリの頭の中には微塵も存在しなかった。ただ目の前に、極限まで命のエネルギーをすり減らし、今にも倒れそうな一人の人間がいる。それだけが、アカリの行動のすべてだった。
彼女はお盆に乗せた「究極のまかない定食」をそっと持ち上げ、足音を立てずにツカサの座るテーブルへと近づいた。
「あの……もしよろしければ、こちらをどうぞ」
アカリの柔らかく、どこか底知れぬ安らぎを帯びた声が響く。ツカサが重い瞼を持ち上げると、目の前のテーブルに、湯気を立てる一汁三菜の定食が静かに置かれていた。
ツカサは内心で自嘲の笑みを浮かべた。どんなに見た目が良くても、どんなに良い香りが漂っていても、自分の壊れた舌にはただの砂利と泥水にしか感じられないのだ。どうせまた、一口食べて吐き気を催し、絶望を深めるだけだ。
「……悪いが、私は今、何も食べられる状態ではないんだ。せっかくの料理を無駄にしてしまう」
ツカサは掠れた声で断ろうとした。しかし、その時、ふわりと鼻腔をくすぐったお吸い物の出汁の香りが、彼の脳の奥深く、忘れかけていた原始的な感覚を微かにノックした。
それは、ただの匂いではなく、命の根源的な温かさを伴った何かだった。ツカサは抗いがたい引力に引き寄せられるように、無意識のうちに右手を伸ばし、お吸い物の椀をゆっくりと持ち上げていた。




