ー第5節 究極の解放を得たアカリの覚醒。廃棄寸前の残り物食材が、常識を覆す輝きと香りを放つ「至高のまかない定食」へと変貌し、彼女は無自覚な魔法使いとなる。
第5節 究極の解放を得たアカリの覚醒。廃棄寸前の残り物食材が、常識を覆す輝きと香りを放つ「至高のまかない定食」へと変貌し、彼女は無自覚な魔法使いとなる。
ハッと気づいたときには、目の前に浮いていたはずのおつまみモンスターの姿は、まるで幻だったかのように完全に消え去っていた。しかし、アカリの胸の内に芽生えた絶対的な充足感と、身体の細胞一つ一つから湧き上がるような無限の活力は、紛れもない現実のものだった。
すべての抑圧から解放され、この世界における至高の状態に至ったアカリは、何かに吸い寄せられるように、自然な足取りで再び厨房へと戻った。その目つきは、先ほどまでの怯えた小動物のようなそれとは全く異なっていた。彼女は無自覚なまま、恐ろしいほどの凄まじい集中力と、本来持っていた料理人としての並外れた能力を完全に発揮し始めていた。
アカリが静かに冷蔵庫を開けると、そこにあったのは賞味期限ギリギリで変色しかけた安い豚肉の切れ端と、少ししなびて水分を失った大根や人参といった、余り物の野菜だけだった。普段であれば、賄いにすらならずに迷わずゴミ箱へと捨てられてしまう運命にある可哀想な食材たちだ。
しかし、今のアカリの手にかかれば、それらは単なる「物」や「ゴミ」ではなく、これから誰かの生きる力へと変わっていく「尊い命」そのものだった。
無心で包丁を握るアカリの手捌きは、まるで神が宿ったかのように滑らかで、一切の無駄がなかった。安い肉常識を完全に覆す芳醇な香りが厨房いっぱいに漂い始めた。
ほんの十数分後。誰もいない食堂のステンレスのカウンターの上にそっと置かれたのは、廃棄寸前のクズ食材から作られたとは到底思えない、圧倒的な存在感と生命力を放つ「究極のまかない定食」だった。
黄金色に照り輝く豚肉の炒め物、出汁の香りがどこまでも透き通るお吸い物、そして一粒一粒が立ち上がりふっくらと炊き上がった白米。
この何気ない一食の料理が、この後ふらりと現れる一人の疲弊した男の人生を救い、やがては会社全体の運命をも根底から覆す奇跡の魔法となることを、微笑みながら定食を見つめるアカリ自身は、まだ全く知る由もなかった。




