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ー第3節 奇跡のランチの噂が瞬く間に広がり社内SNSは話題で持ちきりになる。普段は絶対に来ない役員や重役、他部署の幹部まで長蛇の列を作り食堂は完全に会社のパワースポットと化したのである。

第3節 奇跡のランチの噂が瞬く間に広がり社内SNSは話題で持ちきりになる。普段は絶対に来ない役員や重役、他部署の幹部まで長蛇の列を作り食堂は完全に会社のパワースポットと化したのである。


 疲労回復と才能覚醒。この二つの信じがたい現象が連続して起きたことで、社内の空気は一変した。「アカリさんの定食を食べると、どんな難題も解決できる」「あそこのランチは奇跡を起こす魔法の食事だ」という噂は、目に見えない翼を得たかのように瞬く間に社内中を駆け巡った。

 社内ネットワークのチャットツールや、匿名でやり取りされる社内SNSは、連日『幸運の食堂』の話題で完全に持ちきりとなっていた。

『今日のランチ、サバの味噌煮だったけど、食べた直後に企画書の承認が下りた!』

『アカリさんのご飯を食べたら、三年間悩んでいた腰痛が消滅したんだが。これマジで何が入ってんの?』

『明日の日替わりはハンバーグらしい。絶対に食う。何が何でも食う』

 そんな熱狂的な書き込みが秒単位で更新され、食堂への注目度は日を追うごとに異常なまでの高まりを見せていた。

 その結果、毎日お昼休みを告げるチャイムが鳴った瞬間、社内の廊下にはかつて見たこともないような光景が広がるようになった。食堂の入り口を先頭にして、数百人規模の長蛇の列が階段を折り返し、別のフロアにまで到達するようになったのである。

 しかも、その列に並んでいるのは一般社員だけではなかった。

 普段は高層階の専用レストランや、社外の高級料亭でしか昼食を取らないような雲の上の存在である役員や重役たち。さらには、仕立ての良い高級スーツに身を包んだ他部署の気難しい幹部たちまでもが、プラスチックのトレイを両手で大事そうに抱えながら、一般社員に混じって大人しく順番待ちをしているのだ。

「専務、まさか専務までこちらの食堂にお並びになるとは……」

「当たり前だ。あそこに行けば、頭の霧が晴れて正しい経営判断ができると聞いたからな。君こそ、今日は外資との接待ランチではなかったのかね?」

「はい。しかし、アカリ君の定食のほうが圧倒的に価値がありますからね。先方との予定はキャンセルさせてもらいましたよ」

 役員同士が列の中でそんな真剣な会話を交わすほど、食堂の権威は確固たるものになっていた。

 もはや社員食堂は、ただ食事をするための場所ではなくなっていた。そこは会社内における絶対的な『パワースポット』と化していたのである。

 列に並ぶ人々は、厨房の奥から漂ってくる芳醇な出汁の香りや、肉が焼ける音を聞くだけで、日々のストレスが浄化されていくような心地よさを感じていた。食堂の扉を開けると、そこには優しく温かい空気が満ちており、一部の感覚が鋭い社員たちの目には、食堂全体が黄金色の輝くオーラに包まれているようにすら見えていた。

 アカリが立つカウンターは、まるで神聖な祭壇のようであり、彼女が手渡す定食は神からの賜り物として受け取られていた。誰もが彼女の料理を一口食べるために必死になり、そして食べた後は例外なく至福の表情を浮かべて、光り輝く笑顔と共に職場へと戻っていく。

 かつては閑古鳥が鳴き、不味いと不評だった社員食堂は、今や全社員の胃袋と魂を救済する、会社にとって最も重要で神聖な聖地として君臨するようになったのである。

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