ー第6節 その日を境にツカサは毎日食堂に通い詰め、アカリの料理だけを食べるようになる。彼女を誰よりも特別扱いし、匿名で高級調理器具を寄付するなど、無自覚な彼女の環境を密かに整え始めるのだった。
第6節 その日を境にツカサは毎日食堂に通い詰め、アカリの料理だけを食べるようになる。彼女を誰よりも特別扱いし、匿名で高級調理器具を寄付するなど、無自覚な彼女の環境を密かに整え始めるのだった。
その奇跡の夜を境に、ツカサの日常は劇的に変化した。
どれほど多忙なスケジュールであろうと、分刻みの役員会議が立て込んでいようと、彼は必ず昼時になると社内食堂へと姿を現すようになった。彼が口にするのは、アカリが作った料理だけだ。他の有名店の弁当や、高級レストランからのケータリングには目もくれない。
「アカリさん、今日の定食も最高だった。午後からの重役会議も、これで乗り切れそうだ」
食事を終えるたび、ツカサはアカリのカウンターへ赴き、穏やかな笑顔で必ず声をかけた。かつて冷酷な次期社長候補と恐れられていた男の変貌ぶりに、周囲の社員たちは驚きを隠せなかったが、ツカサは他人の目など全く気にしていなかった。
彼はアカリに対して明らかに特別な態度を取り始めた。彼女が配膳で重いものを運んでいれば、周囲の部下を差し置いて自ら手を差し伸べ、誰よりも丁重に彼女を扱った。
さらにツカサは、利益至上主義の食堂責任者である上司が、アカリの料理の邪魔をしないよう裏から密かに手を回し始めた。食堂の備品が古いと知るや否や、匿名で最高級のプロ用包丁セットや最新のオーブンを会社宛に寄付し、アカリがより料理に集中できる環境を人知れず整えていった。
「わあ、新しいオーブン! これでまた、美味しいお料理がたくさん作れます!」
厨房で無邪気に喜ぶアカリの姿を遠くから見つめながら、ツカサは満足げに目を細める。
アカリ自身は、自分がこの巨大企業を背負って立つ男の胃袋と心を完全に掌握してしまった事実に対して、相変わらず全くの無自覚であった。ただ純粋に、目の前の命のために包丁を握り続けるアカリ。そんな彼女を、あらゆる害悪から守り抜くと誓うツカサ。
究極の癒やしをもたらす「魔法の料理」を中心に、二人の間の距離は、そして会社全体の運命の歯車は、ここから音を立てて大きく動き始めていくのだった。




