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約束の果たし方

 美結は学校に着くと、いつもと異なった空気を肌に感じる。何かと言うか、皆が私を避けている…感じがする。

「ねえ。」

 話しかけても、誰もまともに会話をしてくれない。

 それはいつものことだが、同級生の目には畏怖が見える。美結と目を合わせれば視線を逸らし、美結が近づけば離れていく。廊下を歩こうものなら、同級生は元より、上級生だけではなく、教師までもが警戒を露わにする。

「美結――っ。」

 肩がビクっと跳ねる。恐る恐る振り返ると、小川が気まずそうな顔をしていた。

「…悪かったわ。」

「えっ?」

「だから、悪かったって言ってんのよ。悪戯したことも、蹴ったり、悪口言ったりしたこと、全部。悪かった。」

 そう告げると一方的に走っていった。

「どうなっているの?」

 取り残された美結はポツンとその場に佇むことしかできなかった。

「おっ、髙山。何だ、その体調はどうだ?」

 頬を掻きながら武田先生が声を掛ける。

「えっ、いや、えーと。」

「何か不調でもあるのか?あるなら、すぐに救急車でも…。」

「いえ。元気です。」

「そうか、そうなら良かった。うん。良かった。」

 美結の一言で先生が焦り、戸惑い、動揺する。顔色が青くなったり、戻ったりところころ変わる。

「ほんと、どうなってんだ…。」


 皆が皆、余所余所しい。

「ほんと、何なの?」

 何も起きずに一日が終わる。小川の嫌がらせも、武田先生からの小言も何もなかった。

「放課後ってこんなに早いんだ。夕日ってこんなに綺麗なんだ。」

 心臓がうるさいぐらいに鼓動する。確かに私は生きている。

 今なら何でもできる気がする。


「何か今日は機嫌が良さそうだね。」

「そうなの。」

 美結は満面の笑みで、結美に抱き着く。

「今日ね、今日。何もなかったの。」

「ははっ。」

「何笑ってるの?」

「ごめんごめん。だって、何がそんなに面白いのかと思えば、“何もないことが良かったこと”って。」

 一度堰が開くと、笑いを止めることができなくなった。ひとしきり笑い終わった後、結美は真剣な顔になって、問いかける。

「美結は今、幸せ?」

 表情が急に変わったことに一瞬ギョッとしたが、

「うん。」

 満面の笑みで答えた。だってこんなに幸せなんだから。


「おっ、おはよう。」

 美結が登校をすると、後ろから挨拶された。

 ちゃんと声を掛けられたのが嬉しく振り返ると、そこにいたのは雰囲気が全く変わった柴崎だった。

 誰が見てもモテるカッコいい系の美少年だった柴崎だが、何と言うか、好奇な目をしている。まるで宝物や神を見ているかのような、何かを崇めているかのような奇妙な目だ。

「おはよう。」

「うん。おはよう。昨日、一日ずっと考えたんだ。それで、一昨日のことなんだけど…。」

「一昨日の事?」

「おい、一昨日のことは口に出すなって約束だろ?」

 身に覚えのない美結が何の事か聞き返した瞬間、結美に意識が切り替わる。

 髪を搔き揚げ、柴崎の肩を掴み、引き寄せる。そして耳元でドスの利いた声で話す。

「…う、うん。」

 結美の下に見た口調に、柴崎は頬を赤らめ、心酔しているのが目に見える。そう、柴崎は美結の事を好いていたが、今では結美の事を神のように崇めていた。

「ああ、結美様。私は貴方に付いて行きます。そのことを伝えたくて。」

「分かったから、美結でいる間はそのことは絶対に話すな。話したら私とは出会えないと思え。」

「はい。」

 そう約束をすると、結美は美結に意識を譲り渡した。

「それで、一昨日の事って?」

「別に、気のせいだったよ。何でもない。」

「えっ?」

 そう言い残すと、柴崎は美結の横を走って通り抜けていった。

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