9話:欲しいならあげます。※ただし返品は不可
私は、外務大臣の言葉で魔道具を止めるが、慌てたように口元に手を当てた。
「申し訳ございません……!!手違いで、他の記録を映してしまいましたわ!気が動転していて……これを撮ったことを、失念していたのです……」
悲しげに眉尻を下げ、哀れっぽく言うと、観客席の女性陣から慰めの声が聞こえてきた。
「酷いわ!お相手は、カウニッツ伯爵家のご令息?」
「カウニッツ伯爵は何を考えているの?」
「いいえ、まずは聖女様よ!あれを聞いた?あんなこと言うなんて……」
「嫌がらせで追放って本気?」
「そもそもあれで嫌がらせって言えるの?」
「陛下はどうお考えかしら……」
観客のざわめきはどんどん大きくなり、疑念と困惑がその場に広がる。
(さあ……どう出る?)
まつ毛をふせ、悲しむ振りをしながら、陛下を窺う。
収拾がつかないその場の混乱を纏めたのは、やはり国王陛下だった。
彼はパンッ!!と大きく手を打った。
瞬時に、その場は静まり返る。流石の影響力だ。
彼はそのまま、席を降り、私の方まで歩いてきた。そして、私の前に立つ。
「これは何の騒ぎか」
「申し訳ございません」
「先程の光景は真実か?」
「……はい。先日、私が目にした光景です。気が動転し、魔道具でその場の光景を収めていたようです。お騒がせしたこと、深く謝罪申し上げます」
ドレスの裾を摘んで謝罪すると、陛下もそれ以上咎めることはなかった。
彼は睨むように私が提出した魔道具──今は、机の上に置かれている。カメラのようなそれを見ると、あごひげを撫でてみせた。
「ふむ……。このような騒ぎになった以上、真偽を検めざるを得ないな。何より、あれに映るのは紛れもなく、我が国の聖女であった。事の経緯は明らかにしなければ」
陛下はそういうと、片手を上げ、傍らの従僕に命じた。
「すぐに、カミロ・カウニッツと、聖女セリーナをこの場に呼び出しなさい!!」
そうして、場は整えられた。
呼び出された聖女セリーナは、城にいたのだろう。カミロより、彼女の方が到着は先だった。
彼女は、騒ぎの経緯を聞いていないのだろう。
とにかく突然連れてこられたようで、困惑しているようだった。
「え?何?何なの?」
「聖女セリーナ。突然すまないな。急ぎ、検めなければならん事があってな」
陛下の言葉にも、セリーナは困惑しているようだ。
だけど陛下の近くに私が立っていることに気がつくと、ギッと睨みつけてくる。
(嫌われたものだわ……)
もっとも、彼女とは話らしい話をしたことがないのだけど。なぜこんなに嫌われているかも不明だ。
私はセリーナと目を合わせないようにした。
陛下は、私たちの微妙な空気を感じ取ったのか、鷹揚に頷いた。
「二度手間になる。カミロ・カウニッツを待とう」
「どういうことですか!?陛下!教えてください。なぜ、ここにリンシア・リンメルが!?私はなぜ呼び立てられたのです!?」
「静かにしなさい。ますますあなたの立場を悪くする」
陛下がそう言うと、騒ぐことは悪手だと思ったのか、ぐっとセリーナは言葉を呑んだ。
セリーナは美しい。
私が可愛いと表現される娘なら、セリーナは綺麗だ。
青みがかった黒髪に、薄青の瞳。
それはネモフィラやアジサイを思わせて、ハッとする美しさがある。
髪も瞳も桃色の私とは、纏う雰囲気も気配も異なる。
セリーナは口さえ開かなければ、サッパリとした爽やかな女性だと思われやすいだろう。
私はその逆だ。口を開かなければ途端、あざといだの、異性に媚びているだの、そういった悪口を叩かれやすい容姿だった。
そうこうしているうちに、早馬で連れてこられたのだろう。カミロがやってきた。
彼は、突然のことに目を白黒させていたが、セリーナと並んで立つ私を見て、強く睨みつけてきた。
私を見た二人の反応は全く一緒だ。
一心同体というのか、こんなところまで仕草が似ていることに呆れればいいのか……。
呆れて彼を見ていると、カミロの視線を遮るように陛下が片手を挙げた。
「では、聖女セリーナ。カミロ・カウニッツ。まずはあなたたち二人に尋ねるとしよう。この光景に見覚えがあるか?」
陛下はそういうと、私に魔道具を起動するよう目で合図する。
それを受けた私は、頷いて魔道具を起動した。
先程と同じ光景が流れる。カミロは愕然とし、セリーナは真っ白い顔でくちびるを噛んでいた。
「……その様子を見るに、覚えがあるようだな」
「しっ……知りません!!本当です。陛下!こっ……これは作られたものですわ!!偽物です!!リンシアは私を貶めようとしている……!!」
悲鳴のような声を上げたのは、セリーナだった。
必死な様子は、本気でそう言っているようにも思えたが、青ざめた表情は取り繕っているようにしか見えない。
会場の空気は、完全にセリーナとカミロを批判するものだった。
(全く……!往生際が悪いわね!)
仕方ない。
ここまで来ても認めないセリーナを手助けするために、私は光景を繰り返すことにした。
彼女を自白……もとい、素直にさせてあげよう、という気遣いからだ。感謝して欲しい。
ふたたび光景が流れ出して、セリーナが悲鳴をあげた。
「何してんのよ!?早く止めなさいよ!!」
もはや、猫をかぶることすら出来ないらしい。
あれを記録されたのは、セリーナにとっても想定外だったのだろう。
(あんな、誰が通るかも分からない場所で大声で話しておきながら何言ってるのかしら)
私は魔道具は止めずに、ぽつりと言った。
「覚え、あるんじゃないかしら」
それは、独り言のように小さな声だったが、セリーナにはしっかり聞こえたようだ。
ビクッと彼女は肩を震わせ、涙目になった。そんな彼女を見ていると、まるで私の方が悪いことをしているかのようだ。
私は、首を傾げて彼女に言った。
「聖女様。私はカミロ・カウニッツとの婚約は破棄しますわ」




