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伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした  作者: ごろごろみかん。
1.伯爵令嬢リンシアが幸せになるには
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5話:どの口が言ってるのかって言うんですのよ

「なるほど……。リンメル伯爵家が困窮していた時に、手を差し伸べてくれたのがカウニッツ伯爵だったのですね」


私はお父様の話を聞いて納得していた。

項垂れるお父様は手を組み、その手の甲に顎を置いている。


「そうだ。カウニッツには恩がある。あの年、リンメル領は未曾有の大雨で土砂崩れの被害が多発した。カウニッツ伯爵が手を貸してくれなければ、どうなっていたことか……。それほど酷い被害だったんだ」


「それで?お父様は私に身売りしろと仰るのですか?」


「それが伯爵家に生まれたお前の責務だ。リンシア。お前がエルドラシアに留学に行けたのはなぜだ?毎日、衣食住に困らずにいるのは?」


お父様の言葉に、ぐっと息を呑む。

お父様の目は、明らかに私を責めていた。無責任だ、と。伯爵家に生まれておきながら、その責務を放り出すのは、貴族の道から逸脱していると、そう言っていた。

お父様はそのまま、淡々と私を諭すように言った。


「お前の着飾るドレスや宝石、アクセサリー、靴。それらの全ては、カウニッツがあの時うちに融資してくれたからこそあるものだ」


「……だから、耐えろと?カウニッツには恩があるから、どんな仕打ちを受けても、甘んじて受け入れなければならないと仰る?」


「そうではない。だが、カウニッツの息子もまだ若い。火遊びをしたい年頃なのだろう。お前が大人になって、目を瞑ってやんなさい」


私はお父様を冷たい目で見下ろした。


(信っじられない……)


我が親ながら、こんな情けない人だとは思わなかったわ。

これ以上、お父様の行動には期待できないだろう。

他の手段を考える必要がある。すぐに思考を切りかえた私は、ふと口を開いた。


「……お父様は、恩があると仰いますけど、今の話を聞いて思いました。本当に、受けたのは融資だけですの?」


「何?」


そこで、お父様が顔を上げる。

私はお父様を見て、今の話を聞いて感じたこと──純粋な疑問を、口にした。


「その時、従属関係も結んだのではなくて?」


まるで、お父様とそのご友人、カウニッツ伯爵の関係は対等ではないかのよう。

お父様は、恩があるから婚約は解消できない、と仰るけれど。


対等な間柄なら、出来るでしょう?


私の言葉に、お父様は唖然としていた。





(あてが外れたわ……)


あの後、お父様は抜け殻のようになってしまった。

よほど、私の言葉がショックだったらしい。


執務室を後にした私は、顎に手を当てて考えた。


録画を見せれば、お父様が動いてくれると期待したのだけど。当主から申し出ない限り、婚約解消や破棄は難しい。


そうなると──残る手段はひとつしかない。


(あまり大事にしたくないから、出来ればこの手は使いたくなかったけれど……)


こうなった以上、仕方ない。


確かに、お父様の言葉も一理ある。

私も貴族の娘。

夫の火遊びくらい見逃すべき、という考えももちろんある。というか、あった。過去形だけど。


だけど、前世の記憶を取り戻した今、思うの。


そんな、自分を一生押し殺した生き方はしたくない、って。


(人の顔色を窺う生活を一生続けて?それで?)


死ぬ間際になったら、やっと解放された……という安心感を抱くの?


それって……死んでるのと何が違うのかしら。


死んだように生きるくらいなら、私は私の人生を精一杯楽しみたいし、謳歌したい。


そのためなら、全力で足掻いてみせようと決めた。


今日、二人の会話を聞いて思ったの。

利用される人生とはおさらばしようって。


(そうと決まったら、まずは準備だわ)


私が自室に向かうと、その途中で侍女のフローラに呼ばれた。


「お嬢様!良かった。こちらにいらしたんですね!」


どこか焦った様子を見せる彼女に、私は首を傾げた。


「どうかした?エリオノーラとレオナルドに何かあったの?」


妹と弟の名前を出すと、フローラは違うと首を横に振る。


「大変ですわ。ご婚約者様が……カウニッツ伯爵家のご令息が先程いらっしゃって」


「え……!?」


「どうしましょう。追い返しますか?突然来るなんて、失礼すぎますわ」


即座にそう言う彼女に、私は苦笑した。

そういえばフローラは、カミロが大嫌いだった。


「そうしたいのは山々だけど……用件はなんて?」


尋ねると、フローラはますます眉尻を下げた。

そして、困ったように彼女は言う。


「はい。……あの、結婚式のウェディングドレスの打ち合わせをしたいと……」


(へ~~え??ふぅ~~~~ん??)


結婚式の!ウェディングドレスの!

打ち合わせ!!


一体どの口で言ってるのかしらね?


感情が一回転して、思わずにっこりと笑みを浮かべてしまった。

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