表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化&コミカライズ】伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした  作者: ごろごろみかん。
2.伯爵令嬢リンシアは魔道具作りが楽しい

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/62

1話:過労死目前

「魅了?」


王太子殿下の言葉を繰り返してから、私はある推測に至り、絶句した。


(まさか、セリーナが所持してると思われる違法魔道具って……)


目を見開くと、先程同様、私の推測を察したのだろう。王太子殿下が頷いて答えた。


「我々は、彼女が所有、ないし使用している違法魔道具の効果を【魅了】の類だと思っている。それも、特定の相手に対してのみ、発動するような。……聞いたことは無い?」


「ありませんわ……。私はエルドラシアで魔道具作りを専門に学んでおりましたが、管理はまた別ですもの」


答えると、王太子殿下はため息を吐いた。


「そうか……。ま、そう簡単にはいかないだろうなとは思ってたけど」


それから、彼は思い出したようにフェルスター卿に言った。


「ああ、そうだ。すまない、お茶の用意すらしてなかったね。フェリックス、淹れてあげて」


「えっ」


その言葉に驚いたのは私だ。


(公爵令息手ずから淹れるの…….!?)


お茶を!?公爵令息が!?

貴族が自らお茶を淹れるなんて聞いたことがない。

よほどの変わり者か、凝り性くらいのものだ。

フェルスター卿はそのどちらも当てはまらないような気がする。


戸惑っていると、指名を受けたフェルスター卿は慣れたように席を立った。

そして、軽い口調で私に尋ねる。


「いいよ~~。レディ・リンシア。あなたは苦手なものはある?酸っぱいのは嫌、とか」


フェルスター卿とは、今までまともに話したことがなかったのに、それを感じさせない砕けた声色だった。目を瞬いていると、フェルスター卿の隣で、ルーズヴェルト卿がため息を吐いた。


「レディ・リンシア。すみません。彼は誰に対してもこうなんです。お気になさらず」


「え、ええ……」


「レディ・リンシア。長いよね。リンシアって呼んでいい?」


「フェリックスが彼女の次の婚約者になるならいいんじゃない?」


(は……!?)


トントン拍子で会話が進み、言葉を差し込む暇もない。

だけど王太子殿下の今の言葉は、水を向ける、というより、牽制しているようだった。


責任も取れないのに、令嬢の名を気安く呼ぶな、という類の。その言外のメッセージをしっかり受け取ったのだろう。

フェルスター卿は肩を竦めて答えた。


「やめやめ!彼女と僕じゃ釣り合わないからね。レディ・リンシアは高嶺の花だし。……というわけで、レディ・リンシア?苦手なものは?」


「あ、ありませんけど……」


「よし。じゃあローズヒップティーにしよう。女の子に人気なんだよね、あれ」


フェルスター卿はうんうんと頷くと、そのまま従僕に茶葉を用意するよう命じた。それを横目に、ため息交じりに王太子殿下が言った。


「……私は苦手なんだけど」


「王太子殿下たるもの、好き嫌いは良くないですよ~」


またしても間延びした返事をするフェルスター卿を見て、私は面食らう。

社交界で見るこの3人は、もっとしっかりした印象だったけど……思ったより……


(自由……?)


大学のサークルのような緩い雰囲気がある。

戸惑っていると、ルーズヴェルト卿と目があった。彼は肩を竦めて苦笑した。


「フェリックスは軟派な男ですが、仕事はちゃんとする男なんですよ、これでも。じゃなきゃ縁を切っています」


「これでもってなんだよ?酷いなぁ」


「そうだね……君ほど誤解されやすい人を私も知らない。ファルクの役に立ちたいからと、実際はかなりの家族思いなのにね?」


苦手な紅茶を淹れられるから、その仕返しだろうか。王太子殿下はいたずらっぽくフェルスター卿を見た。


(ファルク──そういえば、フェルスター卿のお兄様の名前が、そんなだった気がするわ……)


まあ、と口に手を当てると、からかわれたと思ったのか、フェルスター卿が肩を竦めた。


「さあ、どうかな。そんなことより、レディ・リンシア。聖女の件について何か聞きたいことは?」


水を向けられて、私は先程から引っかかっていた疑問を思い出した。

フェルスター公爵家兄弟の話も気になるが、今はそれよりも重要なことがある。

私は頷くと、王太子殿下を見て尋ねた。


「では……王太子殿下、ひとつ、質問をよろしいですか?」


「何かな?なんでも聞いてくれて構わないよ」


なんでも……というのは、一体どこまでを指すのだろう。

ひとまず、これくらいは構わないでしょう、と考えながら私は王太子殿下の瞳を見つめて尋ねた。


「王太子殿下は、聖女様を疑っていらっしゃるようですが……なにか、そう思わせるようなことがあったのですか?」


セリーナを疑うようになった、その背景が気になる。

平民が公爵家の養女となる。

その時点でだいぶ怪しいし、裏があるのでは、と考えてもおかしくない。


(けど、だからといって違法魔道具に結びつけるのは、少し飛躍しているように思えるわ……)


だから、何か(・・)あると思ったのだ。

セリーナを疑わざるを得ない、決定的な出来事が。

私の言葉に驚いたのか、王太子殿下は僅かに目を見開いた。


「鋭いね、レディ・リンシア」


「これくらいは、誰でも気になることだと思いますわ」


「そうかなぁ。あなたは、私が考える以上の人材だよ。いやーほんと、ルシアンはいい仕事をしてくれた!ね」


にっこりと笑みを浮かべる王太子殿下に、ルーズヴェルト卿がため息を吐いた。うんざりしたように。


「……あのな、ヴィンセント。城にはやる気のある無能か、やる気のない凡才しかいないんだ。それが問題なんだよ」


「私の代では何とかしたいよね。父上も頭を抱えている」


「……あの」


私の質問が置き去りにされているようで、声をかけると、王太子殿下がパッとこちらを向いた。それから困ったように笑い、彼は言った。


「ああ、すまない。誤魔化してるわけじゃないんだ。あなたには知る権利がある。何せ、あなたは晴れて聖女対策本部の一員になったのだから」


(ああ……最初に言ってた、過労死目前ってやつの……)


い、嫌すぎる……。嫌すぎるわ……!!

過労死目前の対策本部って何かしら!?


思わず、顔がひきつった。王太子殿下は間違いなく気がついているはずなのに、こんな時ばかりスルーした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ