11話:満足のいく結果
「ン、ンンッ!!よい、分かった!!」
その声にびくりとセリーナの肩が派手に跳ねる。
陛下は私とカミロ、そして机に置かれた魔道具に視線を向けた。そして、難しい顔をして話を続けた。
「この件は、王家預りとして一時保留扱いとする。あの魔道具が本物なら、聖女セリーナの行いには問題があり、是正せねばならん。また、リンメル伯爵家とカウニッツ伯爵家の婚約も同様だ」
「陛下……!!お聞きください。これは、リンシアの嫉妬心による策略です。魔道具は偽物です!!」
しかしそれに、カミロが食い下がった。
それを、陛下が不愉快そうにピシャリと跳ね除けた。
「カミロ・カウニッツ。もう少し考えて発言するように。ここは魔道具管理部の最終試験の場だ。これを合格すれば、レディ・リンシアは晴れて文官となる。そんな場で、くだらない妬心で全てをダメにすると思うか?偏った考えではなく、一般的な思考回路でものを言うように」
「ッ……」
カミロがグッと言葉につまる。
陛下の言葉は手痛いものだった。
つまりカミロは、考え無しといわれたも同然だ。
しかし流石に、陛下相手に反論は出来なかったのだろう。
その代わり彼は、凄まじい形相で私を睨んできた。
それを、私は素知らぬ顔で受け流す。
元々、私はこの騒ぎを計画していた。
もちろん、あの光景を流したのは手違いなんかじゃない。計画通りである。
(騒ぎになってしまえば、こちらのものだわ)
この場にいたのが文官だけなら、揉み消されただろうが──大臣や、貴族たちまで揃い踏みだ。
(みなの注目がこちらに集まっている以上、夜会で騒ぎを起こすより、話題性は上でしょうね)
あの場面──カミロとセリーナの逢瀬に遭遇し、ルーズヴェルト卿と会った時から、この手段は考えていた。
(もっとも、あまり大事にしたくはないから優先順位的には、
①お父様から婚約破棄の打診。
②カミロを通して、カウニッツ伯爵家から打診。
③魔道具管理部の最終試験で告発
……だったのだけど)
まさか、本命の①がだめとは思いもしなかったわ。
②の方は元からあまり期待していなかったけど。
私はこっそりため息を吐いた。
(ここまでは予想通り……)
上手くいって良かったわ。
陛下も体裁がある以上、この場で沙汰を出すとは思わなかった。
この程度のやらかしなら目を瞑るかも、とも思ったけどこの目撃者の数じゃ、揉み消すのも難しい。
このエルヴァニア国は長年、戦火とは無縁の穏やかな国だけど、王家は常に有事に備えている。そのため、平時であっても、強い騎士には戦時同様の褒賞を与えるし、場合によっては叙爵もする。
聖女セリーナの場合、その豊富な魔力から、十分国防の力になり得ると判断したのだろう。
だからこそ、彼女はエルヴァニアでも強い権力と肩書きを与えられることとなったのだ。
だけどこうなった以上、真偽は明らかにしないとならないし、セリーナに非があった場合は、相応の処分を下さなければ、今度は貴族が納得しない。
いい落とし所だろう。十分満足のいく結果だわ。
こうして、魔道具の真贋の確認と、私の最終試験の合否。そしてリンメル伯爵家とカウニッツ伯爵家の婚約。その3つ全てが一時保留という扱いになったのだった。
そして──リンメル伯爵邸に戻った私だが、そこでは思いもしないことが起きていた。




