プラカ
チェカ王国の首都はプラカ(Praka)である。
プラカは歴史的都市で、チェカの歴史の積み重ねと言えた。
そのプラカにセリオンたちは侵入していた。
少数であるがゆえに、チェカに侵入することは容易だったのだ。
チェカのやって来たメンバーはセリオン、エスカローネ、アンシャル、エリシュカ、サラゴン、アリオンの六人だ。
エリシュカは髪型をポニーテールにして雰囲気を変えていた。
これなら、エリシュカ王女と気づかれることもあるまい。
六人はチェカの町並みを歩いてみた。
そこで見られたのは治安の悪化であった。
おそらく、統治者たちが自分勝手になっているため、国民もそうなっていると思われる。
良識ある人々はそれを嘆いた。
エリシュカ王女に帰ってきてもらいたいという意見もあった。
ヴェンツェル派はどうやらうまく統治できていないらしい。
これはセリオンたちにとってある意味で喜ばしかった。
統治に無能では支持されないからである。
六人はまずプラカで情報収集することにした。
そこで三組に分かれることにした。
セリオンとエスカローネ、アンシャルとエリシュカ、サラゴンとアリオンの三組である。
セリオンとエスカローネはプラカの町をのびのびと歩いた。
二人はプラカに来るのは初めてだ。
そのため、町の在り方が新鮮だった。
オレンジ色の屋根は二人の目を引いた。
エスカローネがセリオンの腕を取る。
エスカローネの大きくて形のいい胸がセリオンの腕で形を変える。
「……エスカローネ、近くないか?」
「だって、セリオンと近くにいたいから……」
「俺たちは今仕事中なんだぞ?」
「それなら、恋人を演じるのも仕事のうちよね?」
「まあ、そうだが……」
「せっかく二人きりになれたんだから、楽しみましょうよ」
「まあ、そうだな」
セリオンはエスカローネといっしょに通りを歩いた。
そこで、二人が見たものは横暴な貴族だった。
「きさま! 私をエップシュタイン(Eppstein)伯爵と理解しているのか!」
「貴族がなんだって言うんだ! 料金は払ってくれよ!」
「? なんだ?」
「セリオン、行ってみましょう」
セリオンはもめている現場に来た。
どうやら話を聞いていると、貴族が料金を払わないらしい。
二人の話は平行線だった。
貴族が実力行使に出る。
護衛の兵士たちに槍を向けさせたのだ。
「うわっ!? 武器を使うのか!」
「ククク……これなら、文句はあるまい! 貴族は特権を持つのだ!」
チェカでは貴族制が温存されていた。
これもエリシュカの改革が貴族の特権の廃止というラディカルなものであったがゆえ、ヴェンツェル派は貴族の特権の堅持を主張していた。
「みなさん! 見てください! 貴族はまともに買い物もできないようですよ!」
売り子も負けていない。
売り子は周囲の人々に自分が不当に遇されていると訴えた。
険悪なムードに人々の視線が集中する。
人々は何も言わない。
しかし、明らかに人々は貴族を非難していた。
貴族――エップシュタインはそれに気づく。
「何だ、きさまら? この私に、貴族に逆らうのか!」
「そこまでだ」
セリオンはこの状況に介入した。
セリオンは大剣の刃をエップシュタイン伯爵とやらに向ける。
刃は彼ののど元に突き付けられていた。
「ぐうっ!?」
この状態では発音できないし、部下に助けを求めることもできない。
部下たちは狼狽した。
「料金を払ってすぐにここを立ち去れ。そうすれば許してやる」
伯爵は大きく目を見開き、冷や汗を流していた。
伯爵はサイフからおカネを地面に叩きつける。
それを見てセリオンが大剣を外した。
「ぐううう! きさま! よくも! この私に屈辱を!」
「それがどうした?」
セリオンは悪びれない。
むしろ堂々と主張した。
「いいか、この私に無礼をはたらいたことを後悔させてやる! 行くぞ、おまえたち!」
伯爵は部下を連れて遁走した。
「ありがとう、君のおかげで助かったよ」
売り子は若者だった。
「何、あの手のやからは気にくわなかっただけさ」
「最近、あの手の貴族が多くてね。とにかく横柄なんだよ。いろんなところでトラブルを起こしているんだ。ヴェンツェル王子が国王になったらこれが常態化するのかねえ……」
セリオンはヴェンツェル王子という言葉を聞いた。
それはつまり……。
「ちょっといいか? 王子はまだ、国王になっていないのか?」
「え? ああ、そうだよ。貴族の人事が決まらない限り、戴冠は無理だってさ。そりゃあそうだ。ヴェンツェル王子は担がれただけで、王子が派閥を率いたわけじゃないからね」
「なるほど……これは好都合だな……」
「君は旅人かい?」
「まあ、そんなところだ。この町はいい町だな」
「へへっ、そいつはうれしいね。この町は古風だろう? 今時貴族なんているのもチェカくらいだよ。伝統を守ることに躍起になっているのさ」
「じゃあ、俺は行く。じゃあな」
「ああ、いい旅を!」
セリオンはエスカローネと合流した。
「もう、セリオンったらもめ事に首を突っ込むんだから!」
「ははっ、悪い。どうしても見てられなかった」
「まあ、セリオンらしいと言えばそうなんだけど」
エスカローネが肩をすくめた。
「情報収集も十分ね。それじゃあ、アンシャルさんと合流しましょうか」
「ああ、そうだな」
アンシャルとエリシュカは教会を訪れていた。
教会の主はヨハン(Johann)司教だった。
「おお、エリシュカ様! よくぞお帰りになられました! このことを民が知ったら喜ばれるでしょう!」
ヨハン司教ははんば陶酔しているかのように言った。
エリシュカは教会に好意的である。
国内の聖職者たちはエリシュカを支持していた。
「ヨハン司教、私は隠密にチェカに戻ってきたのです。今、私の存在を公にすることはできません。エリシュカ派の動向はどうですか?」
「現在は地下運動を行っているようです。王女が戻られることを心から彼らは望んでいます」
「私たちは王宮を奪還します。そのため聖堂騎士団に協力を取り付けました。私たちは少数精鋭で王宮を落とします。ヨハン司教には陽動をお願いしたいのです」
「つまり、まず陽動で兵士の数を王宮から減らす、それから王宮に乗り込んでヴェンツェルを倒す、そんな策ですかな?」
ヨハン司教はエリシュカの作戦を語った。
「その通りです。私自身も兵士をおびき寄せるためにエサになります。ヴェンツェルを倒すのはテンペル一の戦士にお任せします」
「フム……実行するなら、時間をかけないほうがいいでしょう。反乱ののろしは今夜にでも上げましょう。私は地下組織のリーダーでもあるのですよ」
「それは心強い。ヴェンツェル派を引きつける任務、お任せしたい」
「あなたは?」
「私はアンシャル・シベルスクだ。テンペルの副長を務めている。エリシュカとは友人だ」
「それは安心できますな。エリシュカ様の守りをお願いします」
かくして、王宮奪還作戦が実施されることになった。
ちなみにサラゴンとアリオンはグルメを楽しんできたらしい。




