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ヴェンツェル

こんなはずではなかった。

なぜこうなった?

ヴェンツェルは玉座に座って考えていた。

エリシュカを追放したまでは良かった。

邪魔な姉を追放し、国内の権力基盤を手にしたはずだった。

後は自らが国王になればヴェンツェルの野望は達成される。

逆のことを言えば、ヴェンツェルには王位を得た後のビジョンがない。

彼は自分が王になることしか考えなかった。

取り巻きの貴族どもは自らの利権を得ることに狂奔している。

ヴェンツェル派はバラバラだ。

権力を得るまでは一致していたのに、今は完全に自分のことしか考えていない。

もはや義務は果たした思っているのか、貴族たちはヴェンツェルのことを軽視し始めた。

それがヴェンツェルには気に入らない。

この私は傀儡かいらいだとでもいうのか!

ふざけるな!

貴族どもめ……今に見ていろ……この私の価値をわからせてやる!

ヴェンツェル派は派閥内部で分裂する様相を呈していた。

国家に寄生する黒い影はまるで国家を分割するかのように国家に喰らいついていた。

今貴族たちが気にしていることは、誰が宰相になるのか、誰が将軍になるのか、そんな事ばかりである。

利権のことばかりしか貴族たちは考えていない。

連中は国のことなどどうでもいいのか!

しかし、ヴェンツェルがいかにいきどおろうと、事態が動くわけでもなかった。

もっともヴェンツェル自身も国のことより、自分のことを考えていたのでほかの貴族たちを非難できるほどではなかったのだが。

ヴェンツェルはこれまで順調に回っていたはずの派閥が空中分解していくのを感じた。

明らかに、ヴェンツェル派は分裂しつつある。

この分裂を止めて、秩序を新しくもたらさねばならない。

それにはまず王になることだ。

王にさえなれば事態はおのずからうまく回転していくだろう。

そうだ。その通りだ。そうに違いない。

王家はペルンシュタイン(Pernstein)家といって、チェカ東のモルヴィア(Morwia)地方の出身である。

もともとこの王朝は地方の代官として力をたくわえてきた。

そしてその力を背景に中央でのし上がってきたのである。

チェカの将軍職はペルンシュタイン家の独占だった。

そうして宮廷での地位を確立すると、前王朝に反旗を翻し、ペルンシュタイン家は王位についた。

王朝の始祖はヴェンツェル・フォン・ペルンシュタイン(Wenzel von Pernstein)といって、エリシュカの弟ヴェンツェルと同じ名である。

ヴェンツェルはそれを誇りにしていた。

ヴェンツェルが父の遺言を受け入れなかったのは、女が王位に就くなど、屈辱的だと考えられていたからだ。

女王ケーニギンなど忌々しいことこの上ない。

女の王など認められるか。

そういったヴェンツェルや貴族たちの女性蔑視が根底にはあった。

父オットーは長子相続という原則を考えていたようであったが……。

それゆえにエリシュカを追放するまではヴェンツェル派は団結していたのであった。

エリシュカの追放がかなうと、団結は崩壊した。

誰もが地位や身分、特権のことしか頭になくなった。

そう、貴族たちが求めているのは貴族としての特権なのだ。

彼らは誰一人自分の利権のことしか頭にはない。

なぜこうなった? 

それがヴェンツェルのウソ偽らざる思いである。

エリシュカを、姉を、王女を追放するまではうまくいっていたのだ。

それが今ではどうだ。

ヴェンツェルは歯噛みしていた。

派閥内部での対立が現れつつある。

共通の目的のために団結していたが、共通の目的が達成されたため、団結にヒビがはえつつある。

なぜ、うまくいかない?

ヴェンツェルは本気でそう考えていた。

ヴェンツェルはどちらかといえばエリート側で、エリートに特有の傾向を持っていた。

それは失敗や挫折の経験が少ないという傾向である。

うまくできてしまったゆえに、うまくいかないことが理解できないのだ。

これに能力の高さが拍車をかける。

なまじ能力があると失敗や挫折の経験を積む機会はない。

皮肉なことだが、有能であるがゆえに現在の事態を解決できないのだった。

「くそ、この私が……どうしてうまくいかない! 私は有能なはずだ!」

ヴェンツェルが不満をはき捨てた。

「うまくいっていないのかね? ヴェンツェル君?」

「あなたは……」

ヴェンツェルはすみやかにひざまずいた。

目の前の男にはそれをするだけの価値がある。

彼は偉大な王だ。

禿頭の頭に、赤い目、黒いマントをはおり、マントの上からもマッチョなボディーが見える。

闇の王フューラー……それが彼の名であった。

だが、ツヴェーデン語が分かる人間はこれを本当の名であるとは思わない。

フューラーとは『指導者』という意味だからだ。

彼の本当の名を知る者はいるのだろうか?

「フューラー様のお手をわずらわせるようなことはありません!」

「だが、うまくいっていないのであろう? いつの世も人間とは自分の利権のことしか考えないものだ。それも貴族となれば特権の維持に狂奔するだろう。ヴェンツェル君、君が苦労させられるのも無理はない」

実際ここまで順調に事が運んだのはこの男フューラーの助力があったからだ。

この男は表からは何もせず、裏から手を回していたのだ。

闇の王……彼はいったい何者か、それを知っている者は少ない。

ただ彼が闇のために、闇の支配のために動いていることは確かなことだった。

彼の活動は世界全土に及ぶ。

彼は世界的な視点から動いているのだ。

「一つ教えておこう。エリシュカの暗殺が失敗したようだ」

「エリシュカの暗殺が?」

「その原因もセリオン・シベルスクのようだな」

「セリオン・シベルスク……光の戦士ですか?」

「その通り。我ら闇の勢力の敵だよ。エリシュカはテンペルと接触した。それはつまり……」

「テンペルの軍事力を行使してくるというわけですか?」

「そうだ。奴らはここにやってくるだろう。迎え撃つ準備はできているかね?」

ヴェンツェルはニヤリと顔を歪めた。

「はっ! テンペルなど返り討ちにしてみせましょう!」

「うむ。それでは期待している。君なら『できる』はずだ。それでは」

闇の王フューラーの全身を闇が覆った。

彼は消えていた。

後にはヴェンツェルが一人残された。


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