ダブルデート
セリオンたちはアンシャルの宿舎に集まった。
そこでセリオンは一つの提案をした。
「なあ、このメンバーでデートしないか?」
「この四人でか?」
「ダブルデートね」
「いいと思います」
セリオンはアンシャルがアオイと婚約したことを心から喜んでいた。
そこで、親睦を深めるために、この四人でデートに行こうと提案したのだ。
「四人で行くとして、どこに行く?」
「デルフィン(Delfin)という温室プールだ」
「プールか……私とアオイは水着を持っていないな」
「ちょうどいいですし、買いに行きませんか?」
「そうだな。この機会に買うとしよう」
「私とセリオンはもう水着を持っているから、問題ないわね」
デルフィンは有名なプールだ。
いろいろなアトラクションがあって、楽しめるようにできている。
ただ水着になると、エスカローネやアオイをナンパする連中も出てくるだろう。
「では、今週の土曜日に水着を買いに行くとして、日曜にプールに行くか?」
「それがいいだろう、エスカローネもいいか?」
「ええ、いいわよ」
「アオイもそれでかまわないか?」
「はい、大丈夫です」
「決まりだな」
セリオンの誘導に二人はうなずいた。
こうして、四人はプール・デルフィンに行くことになった。
そうして、日曜日がやって来た。
四人はアンシャルの宿舎に集まった。
「三人とも準備はいいか?」
アンシャルがリードする。
アンシャルは聖堂騎士団の副長だ。
リーダーシップはなれたものだ。
デルフィンは新市街地にある。
「ああ、準備は万端だ」
「私はOKです」
「私も準備できてますよ」
セリオン、エスカローネ、アオイの順で答えた。
「それでは出発しよう」
セリオンたちは電車でデルフィン近くまで行くことにした。
シュヴェリーンは交通網が発達している。
特に公共交通網の発達が著しい。
電車、バス、路面電車、タクシー、など新市街地は交通機関が網の目のように張り巡らされていた。
つまり、移動には困らないということである。
デルフィンにはシュヴェリーン中央駅から三つ目のデルフィン駅で降りればたどり着ける。
電車の中ではセリオンは久しぶりにアンシャルとじっくり話すことにした。
「アンシャルはヤパーナーの件で大変だったみたいだな」
「ああ、私は命を狙われていたようだ。テンペルはアスラーン一行の件以来、目障りになっていたようだからな」
「だが、アンシャルがいたからこそ事件を解決できたんだろう?」
「まあ、おまえがいたらまずおまえに割り振られていただろうな、この件は」
「大変だったか?」
「ああ、ヤパーナーの文化や本質と向かい合ったと思う。彼らには彼らの在り方があると思うが、結局は彼らの在り方は彼らにしか決められない。部外者の私たちが首を突っ込んでいいわけではないよ」
「ヤパーナーの件は結局どういう事件だったんだ?」
「簡単に説明すれば、ヤパーナーの反乱だろう。ヤパーナーはツヴェーデンに反逆したんだ。ただ、彼らには自分たちのことを自覚していなかったように思える」
「なぜだ?」
「彼らは自覚的な在り方より、無意識的な在り方を好んだからだろう。それに文化的にツヴェーデンと対立していた」
「どういうところが?」
「そうだな。彼らの文明は母権制に近い。父より母を重視する。彼らには母の存在が決定的に重要だった。彼らの父はまるで地父だ」
「地父……つまり母の影響下にあると?」
「そうだ。彼らは多神教徒だが、その中でもイザナミやアマテラスが特に重要な神話上の働きをしている。つまり、母なる神を信仰しているというわけだ。我々のように母殺しは重要な文化にはなっていない」
「宗教的に母の影響が強いということか?」
「まあ、そうだな。だから私は彼らの社会を母権制に近いと言っている」
「近い?」
「そこなんだ。彼らの社会では男性の方が重んじられる。女性はわき役だ。本来の母権制では女性が主導権を握るだろう? 文化人類学的には奇妙な事態だ」
「なるほどな……よくそこまで把握できたな。さすが、アンシャルだ。スルトでさえ、舌を巻くよ」
セリオンはアンシャルのこういうところはすごいと思った。
アンシャルは頭がいい。
彼の知性は際立っている。
「まあ、好きでやっていることだからな。ところで、おまえのほうはどうだったんだ?」
「俺の方?」
「ああ、エスカローネとはどうだったんだ?」
「まあ、前より距離は深まったよ。ノヴァ―リアでは一か月間二人っきりだったしな」
「そうか。私はおまえたちが幸せになってくれるとうれしい」
「なあ、人間は幸せになるために生まれてきたんだろうか?」
セリオンは真剣な問いを発した。
アンシャルは改めてそれを実感したようだ。
「それは何が言いたいんだ?」
「ああ。人は何のために生まれてきたのか? 何のために存在しているのか? それが気になった」
「おまえらしいな、その問いかけは。特におまえのように神の子だと答えるのも大変だ」
「多くの人は幸せになるために生きているという。だが、幸せでなかったら価値がないということか? 必ずしも、幸福に生きられるとは限らない。生まれた時代や国、親は選べない。だから、不幸な人も一定以上はいるだろう。そういった人には価値がないのか?」
「おまえはどう思っているんだ?」
「俺は闇と戦うために生まれてきた。俺は闇と戦う、それが俺の存在意義だ。結局答えは個人的なんだ。これは人に対する答えではなくて、その人個人に対する答えなんだと思う」
「おまえの言う通りだ。おまえは幸福か、それとも不幸だったか?」
セリオンは考えるまでもなく答えを出した。
「俺は幸福だったと思う。母さんの子供になれた。アンシャルという偉大な父がいた。スルトというもう一人の父もいた。エスカローネと出会えた。俺の人生は幸福だ」
「なら、それでいい。私もおまえは恵まれていると思うよ」
「アンシャルはどうなんだ?」
「私はアオイと出会えた。それが私の幸福だ」
「よかったな、アオイと出会えて……」
「そうだな……」
「俺はアンシャルにすまないと思っていたんだ」
「どうしてだ?」
「俺やエスカローネを育てるためにアンシャルは20年という時間を捧げた。それは誰にでもできることじゃない」
「フッ、私が好きでやったことだ。気に病むことはない」
「ありがとう、アンシャル。感謝している」
「おまえとこういう話をすることになるとはな」
セリオンとアンシャルはこんな話をしていた。
一方、エスカローネとアオイは二人で話をしていた。
まずはエスカローネが切り出す。
「アオイさんはアンシャルさんのどこに惹かれたんですか?」
「そうですね……父性的なところでしょうか」
「確かに、アンシャルさんは父性的ですね。どちらかといえば、知性があると思いますが」
「はい、アンシャルさんの精神的なところは私は好きです。私はアンシャルさんと出会って人生が変わりました」
「よかったですね。今のアオイさんは魅力的ですよ」
「そういう、エスカローネさんこそ輝いていると思います。まるで人生の春を謳歌しているようで……」
「そうですか? 私はセリオンから愛されているので……」
「エスカローネさんとセリオンさんはいつであったんですか?」
「私たちはいっしょに育ったんです。いわば幼なじみなんですよ」
「へえ……それはすてきですね。いっしょに人生を歩んでこれたのは」
「でも、私たちもなかなか思いを告げられなかったんですよ」
「そうなんですか? 意外です」
「セリオンはどちらかといえば鈍くて……戦いは強いのですが、恋愛はあまり得意なタイプではなかったようです」
「エスカローネさんは強いですね」
「はい、私はセリオンの隣で戦えるように修行しました。そうでなかったら、セリオンとは結ばれていなかったと思います」
「すごいです。エスカローネさんはどうしてそこまでできたんですか?」
「私はセリオンを愛していたので……だからでしょうね」
そうこうするうちに電車はデルフィン駅で止まった。
アンシャルが席から立ち上がる。
「ここで降りるぞ、いいか、三人とも」
三人はアンシャルについていった。
温室プール・デルフィン――この中では南国の温かさを感じることができる。
シュヴェリーン市民が好む場所だ。
セリオンとアンシャルはさっさと着替えて、エスカローネとアオイを待っていた。
「二人はどんな水着を着てくるだろうか?」
「フッ、そう焦るな。女性の着替えは長いものだ。おまえはわかっているだろう?」
「まあ、な」
セリオンとアンシャルは二人とも上半身がむき出しだ。
二人の体からは筋肉が浮かび上がってた。
「アンシャルもいい筋肉をしているな?」
「おまえこそ。神剣サンダルフォンを振るうには筋肉が必要だ。十分鍛えられている」
「おまたせー!」
「お待たせしました」
そこにエスカローネとアオイがやってくる。
セリオンはエスカローネの水着にくぎ付けになった。
エスカローネが来ていたのはビーチで来ていたのと同じ黒いビキニである。
今日は白いパレオを巻いていた。
エスカローネの肉体から、肉付きのいい体のエロスがあふれていた。
セリオンは心からきれいだと思った。
特に長い金髪は輝くようで、光っていた。
一方、アオイは青のビキニに青いパレオを巻いていた。
アオイの体はスレンダーでその曲線美が美しい。
アオイの黒い髪に合っている。
「ここからは二人で別れた方が良さそうだな」
「ああ、そうしよう」
セリオンの考えにアンシャルはうなずいた。
こうしてセリオンとエスカローネ、アンシャルとアオイは別行動を開始した。
セリオンがそうしたことを言ったのは、アオイも美しかったのでそちらに目が奪われないようにだった。
かくして、ダブルデートは大成功に終わった。




