ローデ
アンシャルはアレッサンドリアの王宮を訪れた。
話しによると、この王宮に女王プトレマイアが住んでいるらしい。
門に槍を持った兵士が立っていた。
「さて……行くか」
アンシャルは門をくぐろうとした。
すると兵士が槍を交差させる。
「一般市民は立ち入りできん!」
「ここは通せん!」
「……」
アンシャルは無言で角を投げ捨てた。
これは魔獣レプティコンの角だった。
レプティコンを討伐したという証拠だ。
それを見て、兵士は顔色を変えた。
「こ、これは……!?」
「まさか……レプティコンの角なのか!?」
「これで通れると聞いた。私は女王プトレマイアに用がある」
「す、少し待て! 謁見の許可を取ってくる!」
兵士はあわただしく王宮へと去っていった。
しばらく、アンシャルは待つ。
これで王宮に入れるはずだ。
王宮では女王プトレマイアとの謁見がかなうだろう。
女王プトレマイアはローデだろう。
ローデが何を企んでいるかは分からないが、ここにアンシャルを幽閉したということは、時間稼ぎが必要だったのだろう。
アオイの身が心配だ。
アンシャルが時間を無駄にすればするほどアオイに脅威が及ぶ。
アオイは大丈夫だろうか?
あの後アオイがどうなったかが気がかりだ。
そんな事を考えていると、兵士があわただしく戻ってきた。
「今、女王様と謁見を許可する旨があった。王宮に入るがいい」
「……それでは入らせてもらう」
アンシャルは王宮に入ることができた。
王宮には兵士たちが詰めかけているようだ。
こんな亜空間でよく仕事しているものだ。
アンシャルは女王の間に入った。
「ほほほ、よくここまで来ましたね。ほめてあげましょう」
「やはりおまえだったか、ローデ?」
「亜空間の主は私ですからね。私が女王プトレマイアです」
「そうだと思っていた。だから、私はおまえに会う必要があった。ここから抜け出すためにな」
アンシャルは長剣をローデに向ける。
だが、ローデは動じない。
その顔に怪しい笑みを浮かべる。
「アオイさんは渡しませんよ?」
「おまえたちの考えなど知ったことか。アオイは返してもらう」
「あなたはアオイさんの何を知っているのですか?」
「それはどういうことだ?」
「ほほほ、無知は幸せですわね。あなたは『鬼道』を御存じですか?」
「鬼道?」
「そうです。アオイさんも鬼道と無縁ではありません。鬼道とは闇の宗教です。鬼道では闇こそ崇拝に値するものなのです」
「そんなバカな……」
アンシャルは厳しい目をローデに送った。
ローデは会心の笑みを浮かべる。
「それはアオイさんに聞いてみたらいかがですか? もっとも、ここから出ればの話しですが?」
「私はここから必ず出る。そしてアオイを救い出す」
「ならば力で示してもらいましょう。かかって来なさい」
アンシャルとローデの戦いが始まろうとしていた。
アオイはそのころヤパーナー自治区の秘密の地下にいた。
アオイの目には生気がなかった。
アオイは闇で侵されていたのだ。
長老がアオイを見て、くつくつと笑う。
「はっはっは! いいぞ! 闇にその魂を引き渡した姿……それこそヤパーナーにふさわしい。鬼道こそ我らが宗教だ。アオイよ、鬼道の民として闇にその力を捧げるがいい」
アオイの心は虚無感にひたされていた。
何も感じない。
何も思わない。
ただ、鬼道の兵士としてあるだけだ。
アオイは闇に呑まれていた。
アンシャルのことも今のアオイにはわからない。
「それにしても、アンシャル・シベルスクを暗殺するのに失敗するとはな。カガミ・アオイよ、なぜアンシャル・シベルスクを暗殺できなかった?」
アオイは答えない。
アオイはただ無表情で立っていた。
「アンシャル・シベルスクがおまえに心を許すことは暗殺の好機だったのだ。おまえはアンシャル・シベルスクを暗殺するために奴のもとに潜り込んだ。テンペルという忌まわしい光の勢力の重要人物を殺害することこそがおまえに課せられた任務だった。まあ、いい。アンシャル・シベルスクは意地でもここにやってくるだろう。闇に染まったおまえがアンシャル・シベルスクを殺すのだ。奴がおまえを求めれば求めるほど闇の支配は強くなる」
長老はアンシャルとアオイを戦わせようとしていた。
アオイの洗脳は解けないだろう。
アンシャル・シベルスクがここに来るのが楽しみだ。
愛しい者の手によって、せいぜい殺されるがいい。
すべては鬼道の理念のため……。
鬼道こそヤパーナーの宗教であるべきだ。
ヤパーナーは闇の民であるべきだ。
ヤパーナーは光ではなく、闇を愛する。
これがツヴェーデン政府に発覚したら、自治権を取り上げられるであろう。
ツヴェーデン政府は光を支持している。
ツヴェーデン政府もまさか自分たちの足元に闇の宗教があるとは思うまい。
長老は邪悪な奸計を巡らせていた。
ヤパーナーはひそかに闇の宗教を維持してきた。
それも表には出さず、裏のままに。
闇の母こそ、ヤパーナーの求めるものだった。
ヤパーナーは母を求めていた。
彼らは意識していなかったが、彼らには母の記憶がない。
だから、母がどういう存在か知らない。
彼らが求めるもの、彼らが知っているものは母親代理でしかない。
本当の母を、ヤパーナーは知らないのだ。
彼らには歴史的に、民族的にディオドラのような存在は知らない。
ディオドラは聖なる母だ。
ディオドラのような母は民族の鏡のような存在だった。
一人の英雄の母として、彼女はセリオンを愛し、育てた。
ヤパーナーの民族的記憶に真の母親はいない。
彼らの記憶には母親がいないのだ。
それがヤパーナーを闇に向かわせる理由だった。
ローデが立ち上がる。
ローデは石を弾丸に変えて撃ちだした。
「ストーンバレット!」
ローデの攻撃がアンシャルを襲う。
アンシャルは風の障壁で身を守る。
ローデは手数でアンシャルを圧倒する気だ。
アンシャルは防戦に回るしかない。
このままではアンシャルはローデに圧倒され、防御も貫かれるだろう。
反撃したいのだが、ローデの猛攻はそれを許さない。
「ほほほ! 闇の力の偉大さを思い知りなさい!」
ローデの攻撃が止んだ。
ローデは石の槍を形成した。
「硬石槍!」
そしてそれをアンシャルの心臓を狙って撃つ。
「風翔槍!」
アンシャルは風の槍で迎撃した。
風の槍と石の槍が激突する。
二つの槍は二人の間ではじけ飛んだ。
「風衝!」
アンシャルは風の衝撃を放った。
「石壁!」
ローデは自分の前に石の壁を作ってそれを防いだ。
ローデはそれを今度は攻撃で放ってくる。
アンシャルは瞬間移動で、石壁をかわす。
「多連・硬石槍!」
ローデが十本の石の槍を作り出す。
それらは明確な敵意を放っていた。
アンシャルも風の槍でそれを迎え撃つ。
ローデが硬石槍を放った。
アンシャルが風翔槍を飛ばした。
二つの槍はぶつかって砕けていく。
「死になさい! アースディグニティ―!」
ローデは床から大地の威光を出現させた。
アンシャルはそれに呑まれた。
「おーほほほほ! さすがのテンペル副長もこの魔法にはかなわなかったようですね! ……はっ!?」
威光が収まった時、アンシャルが飛び出てきた。
アンシャルは長剣でローデを斬りつけた。
「ぐはああっ!? なっ!? どうしてこの私が!? くっ!」
ローデは悪あがきに硬石槍を放つ。
アンシャルはそれをかわし、長剣でローデを貫く。
「がっ!? まさか……このわたくしが……」
ローデはふらつき、そして倒れた。
「フッフフフフ……」
「? 何がおかしい?」
「もはや手遅れですの……アオイさんは闇に堕ちた……彼女の心はもはやあなたの言葉など通じない……絶望を味わって死ぬといいですわ……フフフ、フフフフフフフ!」
そのままローデはこと切れた。
「アオイ……待っていてくれ」
その時アレッサンドリアで激震が起きた。
亜空間が消滅しようとしているのだ。




