アレッサンドリア
「むっ……ここは亜空間か……やれやれ、ザンツァの部下は亜空間が好きらしいな」
アンシャルは立ち上がった。
アンシャルは大きな河の近くにいた。
そのほとりにはゾウや森なども見える。
「ここはアエギュプトゥス(Aegyptus)に似ているな」
アンシャルは近くの人に尋ねた。
「おーい、ちょっといいか?」
「? なんだね?」
「ここはどこだ?」
「ふう……新入りかね? ここはアレッサンドリア。女王プトレマイア(Ptremaia)が支配する王国だよ」
「プトレマイア……そいつがこの亜空間の支配者なんだな?」
「確かにそうだが……君はここを脱出するつもりか?」
「ああ、そうだ」
男性はそんなアンシャルを見て、これだから新入りはというような顔をした。
アンシャルはそれが気になって尋ねてみた。
「何か問題でもあるのか?」
「ふうう……女王に逆らって生きながらえた者はいない。長生きしたくば、女王には逆らわないことだ」
「なぜだ?」
「女王がそれだけ強いからさ。なんでも強力な魔法を使うらしい」
「では、女王に会うにはどうしたらいい?」
「そんなに女王に会いたいのか? 交渉でここを脱出できると?」
アンシャルはここを脱出しなければいけない理由がある。
今度はアオイに怒られそうだ。
それにローデはアオイをさらった。
アオイのことも気になる。
ここにとどまり続けるわけにはいかないのだ。
アンシャルからすれば、こんなところにとどまり続ける方がどうかしているのだ。
だが、それも無理からぬことだった。
多くの人はアンシャルほど強くない。
アンシャルは強い。
だから、自分の意思を相手に強要できる。
それは自分の道を切り開けるということでもあった。
「私には婚約者がいるんだ。こんなところにい続けるわけにもいかない。どうしても女王に会う必要がある」
「……そうだねえ、何か武勲でもあれば女王に謁見できるかもしれないな」
「その武勲とは?」
「魔獣レプティコン(Reptikon)――そいつを討伐すれば、会えるかもしれないな」
「魔獣レプティコン?」
「ナール河の上流にいる魔獣さ。女王は現実主義的で、魔獣でもこの空間に受け入れているくらいだ。今、そいつが町に被害を出しているんだよ。そいつを討伐すれば、謁見の許可を得られるかもしれないぜ?」
「わかった。いろいろとありがとう。後は自分の判断で動いてみる」
アンシャルは男性と別れて、ナール河を上流に向かうことにした。
ナール河の上流は南にあるらしい。
アンシャルは南に向かって河をたどってみた。
南からは確かに魔獣の気配を感じることができた。
「河、か」
アンシャルは悠々と流れるナール河を見ていた。
この亜空間の主は美的感性があるらしい。
自然環境を亜空間の中で再現しようとしている。
この空間は一種の芸術作品なのだろう。
おそらく、女王プトレマイアはローデだ。
彼女がこの空間の支配者なのだろう。
ローデはアンシャルをこの亜空間アレッサンドリアに送った張本人だ。
ならばローデを倒せばこの空間から脱出できるはずだ。
いくらアンシャルとはいえ、一人でこの空間から脱出するのは無理だろう。
合法的にローデと接触する必要があった。
そしてローデを倒す……それによってこの空間から脱出できる。
それがアンシャルの考えだった。
「ガルウウウウウウウウ!」
アンシャルが考え事をしているあいだ、魔獣の声がした。
魔獣レプティコン……。
四本足で歩く龍に似た怪物。
「お出ましか……」
アンシャルは剣を抜いた。
風王剣イクティオンである。
レプティコンは雄大な雰囲気を持つ怪物だった。
その品格に王者の器を感じる。
話しによると、多くの人がレプティコンに喰われたそうだ。
レプティコンはアンシャルをもその犠牲者に連ねようとしていた。
「こいつはここで叩く!」
レプティコンは口から紫の息をはいた。
これは毒の息だ。
これを吸い込んだら、猛毒に侵されて死ぬだろう。
アンシャルは一目でそれを悟った。
アンシャルは風を巻き起こす。
アンシャルはその風で毒の息を吹き飛ばした。
レプティコンは毒の息が通用しないと見ると、別な息をはいた。
今度は茶色の色をしたブレスだった。
「強酸息か!」
アンシャルは今度は光の剣を出す。
アンシャルの技『光明剣』である。
光の剣がアシッドブレスを斬り裂く。
アシッドブレスは拡散されて、無力化された。
「一気に決めさせてもらうぞ! 風王降臨!」
アンシャルは上空に圧縮した空気を集めて、それをレプティコンに向けて叩き落した。
この技はアンシャルの技の中でも上位にあり、普通の人間がくらったら、全身にダメージを受けるという代物だ。
一撃で戦闘不能である。
圧縮された空気はレプティコンを叩き潰そうとする。
ところが、レプティコンはそれに対抗した。
徐々にそれをはねのけつつある。
この技はセリオンでもくらったら一撃で戦えなくなる。
それほどの強力さを持っている。
「この技に耐えるか!」
レプティコンは跳躍した。
風王降臨を突破したのだ。
レプティコンはアンシャルの真上に覆いかぶさった。
そのまま体で叩き潰すつもりだ。
アンシャルはバックステップでそれをかわした。
アンシャルはこんな攻撃をまともに受けるほどノロマではない。
アンシャルがいた位置に地割れが起こった。
レプティコンの質量が大きいことをこれは物語っている。
レプティコンはさらに突進してきた。
アンシャルに喰らいつく気だ。
アンシャルは大きく跳躍した。
そしてそのままレプティコンを回避する。
レプティコンは木々にぶつかった。
ぶつけられた木々はぶち折れ倒れた。
アンシャルはレプティコンを跳び越えると、そのまま風の斬撃で首を狙った。
アンシャルの斬撃がレプティコンの首を斬り飛ばした。
アンシャルの技『風月斬』である。
レプティコンの首が宙に浮いた。
ドシーンと音を立ててレプティコンが倒れた。
そのまま灰色の粒子と化して消えていく。
「よし、魔獣を討伐した。これで女王に会えるな」
アンシャルははたして女王に会えるのか。




