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ホノカ

「アンシャルさん……」

「? どうした、アオイ?」

アオイは不安そうな顔でアンシャルのもとにやって来た。

アンシャルはその時、テーブルでコーヒーを飲んでいた。

アンシャルは一目でアオイが何かを打ち明けようとしていることを悟った。

「アオイ……話があるなら、イスに座れ。聞くぞ?」

「はい……」

アオイがゆっくりとイスに座る。

「アンシャルさんに来てもらいたいところがあるんです」

「来てもらいたいところ?」

「はい」

「それはどこなんだ?」

「それはヤパーナーの墓地です」

「墓地?」

アンシャルはそこが気になった。

墓地は死者の眠るところだ。

そんなところにアオイはどうしてそんなところに行きたいのだろう?

「詳しく、話しをしてくれるか?」

「はい……私には友人がいました。『ホノカ』という名です」

アオイはうつむいてしまった。

すぐにはアオイの言葉は続かなかった。

アオイはしばらく押し黙っていた。

アンシャルはアオイの気持ちをおもんぱかってすぐに答えを求めなかった。

「彼女は……死んでしまったんです……私を置いて……」

「……」

「わかってはいるのです。彼女は病弱でした。体が弱かったんです。彼女は15歳で死にました。アンシャルさん……」

「アオイは私にどうしてほしいんだ?」

「いっしょにお墓参りに来てくれませんか?」

「墓参り?」

「そうです。話の続きはそこでしたいんです」

「わかった。明日行こう。詳しい話はそこで聞くとしよう」



アンシャルとアオイはヤパーナー自治区にある墓地に向かった。

墓地はひっそりとしていてほかには誰もいなかった。

木々が墓地に影を落としていた。

「私たち以外には誰もいないんだな……」

「ヤパーナーはあまり墓地にいい感情を抱いていません。だからでしょう」

「それは死を直視しないということか?」

「そう、ですね……ヤパーナーは死を禁忌と思っていますから……」

「だが、人はいずれ死ぬ。来世観は必要ではないのか?」

「それが……ヤパーナーでは死生観はあまり発達していないんです。それに体系的でもありません。神話時代のもあれば、ボダイ教のものもあるんです」

「死を直視しないなど私には理解できない。もし、死生観がないなら……つまり、宗教がないなら、別のものを擬似宗教にすることになる。結局人は宗教なしでは生きられないのだから」

アンシャルは自分で思考実験をしたことがある。

それによると、宗教そのものはいくらでも批判できるのだが、宗教そのものは否定できなかった。

これはつまり、何か別の宗教を持たねば、既存の宗教の否定はできないということだった。

それゆえにアンシャルは人間は必ず宗教を必要とするという結論にたどり着いた。

「アンシャルさんは来世を信じていますか?」

「もちろんだ。哲学者がどんなに来世を否定しても、私は信じている。結局は信仰の問題だからな」

「では、ホノカちゃんはどこに行ったのでしょう? ヤパーナーの死生観では死後は冥界にいくか、極楽浄土にいくかだそうですが……」

「彼女は宗教を信じていなかったのか?」

「それは……ヤパーナーはあまり、宗教的ではありませんから……」

アンシャルはそれを聞いて疑問に思った。

人は宗教を捨てることはできない。

新しい、別な宗教を持たない限り。

ならば、ホノカは宗教的なことに関しては無意識だったことになる。

無意識な人間は無意識にすべてやっている。

それがアンシャルの考えである。

これはヤパーナーの宗教観を調べる必要がありそうだ。

アンシャルはそう思った。

「シベリウス教では人は死後三つの行き先を持つ。一つは天国、もう一つは煉獄、最後に地獄だ。アオイはもう知っているだろう?」

「はい、そうですね……」

「アオイはヤパーナーの来世観に納得できなんだな?」

「はい……」

「アオイはどこが納得できないんだ?」

「ヤパーナーは人は死後、大いなる母の一部となり、吸収されるとか、転生するとか言われています。人によって言っていることが違うんです。それはホノカちゃんはどうなってしまうんでしょうか?」

「ホノカが救われるかはヤパーナーしだいだ。彼女はシベリア人ではない。ツヴェーデン人でもなかっただろう。彼女はヤパーナーとして死んだ。なら、彼女を救えるのはヤパーナーしかいない」

「そう、ですね……私もそう思います。でも、せめて祈るくらいはいいですよね? 異教徒のために祈ってもいいですよね?」

「ああ、もちろんだ。私も祈ろう。ホノカの魂が救われるように」

アンシャルとアオイはホノカの墓の前で祈った。

これでホノカの魂が救われるとは思わなかったが、少なくともそのきっかけになればいいと思った。

「ほほほ、無駄ですわ」

「!?」

アンシャルとアオイの背後から声がした。

彼らの背後には、一人の女が立っていた。

「おまえは何者だ?」

「ほほほ、私もウンベルトやグランシャイト、そしてヒュオンの仲間なのですわ」

「!? あいつらの仲間か。ならザンツァの部下だな?」

「そうですわ。この私もザンツァ様のために働いているんですの。そうそう、私の名はローデと申します」

「ローデ……おまえの目的は何だ?」

「ふふっ、私の目的はそこにいる彼女ですわ」

「なんだと? アオイをどうするつもりだ?」

「鬼道の戦士となってもらうんですわ」

「鬼道?」

アンシャルは鬼道が何を意味するか、知らなかった。

知らなくて当然だ。

鬼道はヤパーナーの民族宗教で、裏の側面だったからである。

「彼女を渡すわけにはいかない」

アンシャルは剣を抜いた。

だが、丸腰のはずのローデは優雅にほほえんでいる。

「うふふふ……あなたには私の亜空間に招待いたしましょう。亜空間『アレッサンドリア(Alessandria)へ!」

ローデが手をかざした。

するとアンシャルは何かに吸い込まれるような感覚を味わった。

これは亜空間転移だ。

アンシャルはローデによって亜空間に幽閉された。

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