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英雄叙事詩 Das Heldenlied  作者: 野原 ヒロユキ
~Himmel und Erde~
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エレシュキガル

夜、セリオンはビルの屋上であぐらをかき、座った。

大剣を前に持ってくる。

そして『気息きそく』を解放する。

気息は闘気の源で、自発的活動の力でもある。

そして気息はエネルギーフィールドだ。

セリオンが気息を解放したのは、エレシュキガルを探すためだ。

気息は周囲の物をありありと知覚できる。

セリオンの知覚はシュヴェリーン全土をカバーしていた。

セリオンは気息でシュヴェリーンを隅々まで探る。

セリオンは目を閉じて、気息でシュヴェリーンそのものを知覚する。

セリオンはあの女の気配を感じた。

(これは……廃工場か?)

セリオンはエレシュキガルの反応をつかんだ。

どうやら廃棄された工場にエレシュキガルはいるらしい。

セリオンは目を開けた。

そして、行くべき方向を眺めた。



セリオンは廃工場を訪れた。

どこか工場の内部は陰湿だった。

この中のどこかに女がいる。

セリオンは工場の内部を進んでいく。

生産設備が無造作に放置されていた。

セリオンはいつエレシュキガルが襲ってきてもいいよう気息を解放しつつ、進んだ。

その時、セリオンは上方から何かが襲ってくるのを感じた。

セリオンはとっさに後退する。

そこにはエレシュキガルの鎌があった。

女が上から襲ってきたのだ。

「おまえか……その正体! 今日こそ明らかにさせてもらう!」

セリオンが大剣を横に振るった。

セリオンは女の仮面を斬った。

仮面が地面に落ちた。

「なっ……」

セリオンは息が止まるような思いだった。

その顔は美しく、整っていたが、それがセリオンの気を引いたわけではない。

その素顔はセリオンがよく知る人物のものだった。

「サーシャ……」

エレシュキガルの正体はサーシャだった。

サーシャこそ、エレシュキガルだったのだ。

セリオンは大きく目を見開いてたたずんでいた。

サーシャは死んだはずだ。

そのサーシャがなぜこうして肉体を持ち、活動しているのか?

スラオシャは黒幕がいると言った。

闇の王フューラー……彼こそがサーシャのマスターに違いない。

「サーシャ、なぜ、君なんだ?」

セリオンは大剣を下ろした。

サーシャが妖艶な笑みを浮かべる。

その牙が光った。

どうやらサーシャはヴァンパイアでもあるらしい。

サーシャは身をひるがえすと、セリオンの前から去っていった。

セリオンは追いかけられなかった。



セリオンはディオドラのもとにやって来た。

ディオドラは礼拝堂にいた。

ディオドラはよく祈る。

そのことをセリオンが尋ねると、レミエルに日常のことを祈っているらしい。

大天使レミエルならディオドラの気持ちに答えてくれるからだ。

シベリウス教で祈るということは神や天使とのコミュニケーションで、これは一方通行のディスコミュニケーションでもある。

シベリウス教の根幹は光と闇が対立する二元論である。

光の原理と闇の原理がそれぞれ善と悪に分かれて、この地上で戦うのだ。

この二原理こそシベリウス教の根本原理だった。

人間は光も闇も併せ持つ。

人間が闇に堕ちるのは、人間の心に闇への誘惑があるからだ。

セリオンたちテンペルの騎士たちは、光に属し闇と戦うことを誓った人間でもある。

テンペルは光の勢力の牙城だった。

光と闇が対立するようになったのは、神が光と闇を分け、分離し、対立させたからだという。

シベリウス教では『(しゅなる神(Gott der Herr)』を信じている。

神は(しゅであり、父であり、天地万物の創造主であり、人間の作りぬしでもある。

シベリウス教はシベリア発祥の宗教である。

もともとはシベリア人の民族宗教だった。

シベリウス教の創唱者はシベリウス(Siberius)――。

彼はチキュウという異世界からやって来たという。

シベリウスの宗教は普遍性があったのでほかの国にも宣教された。

その結果、エウロピア(Europia)大陸に広まり、今では多数派の宗教になっている。

シベリウス教の考えでは人間は神によって創造された。

そのため、『神の意思』が絶対視される。

人間は神の『臣下』と考えられた。

神は(しゅ、人間は臣下=騎士。

シベリウス教は戦士の宗教なので信徒に戦いことを求める。

シベリウス教では善人は天国へ、悪人は地獄へ、中間の人たちは煉獄へ行くと考えられている。

最終的には最後の審判が行われ、善人は気息の体を与えられ、悪人は永遠の無になるという。

シベリウスは『神の使徒』と見なされている。

ディオドラは近づいてきたセリオンに気づいた。

「? どうしたの、セリオン?」

「ああ、母さんに相談しに来た」

セリオンはこの時どんな表情をしていたのだろうか。

きっと暗く落ち込んでいたに違いない。

それはディオドラを心配させただろう。

セリオンも人間だ。

暗い顔をするときもある。

「相談?」

セリオンの表情はどこかやつれていた。

セリオンにとって衝撃的なことがあったからだ。

「何か、あったのね?」

ディオドラがすぐに母親の顔をする。

この人はいつもそうだ。

まるで息子の心が分かるかのようだ。

「……サーシャと会った」

「え?」

「俺が任務で戦ったのはサーシャだった」

セリオンの心は苦しかった。

「でも、サーシャちゃんは死んだはずよ? あなたも火葬には立ち合ったでしょう?」

「ああ、そうだ。本物とは違うかもしれない。だが、俺の直観は彼女はサーシャだと告げていた。サーシャはヴァンパイアの体にその魂を宿している。そしてどうやら何者かに操られているらしい」

「……セリオンはどうするつもりなの?」

「俺は……サーシャを止めたい。そしてその魂を解放したい。サーシャをこのままにしてはおけない。そして、サーシャを苦しめた黒幕を俺は絶対に許さない。必ず、その罪を償わせてやる」

セリオンの瞳には意思が宿っていた。

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