アオイとのデート2
アンシャルは中央駅でアオイを待っていた。
今日は珍しく、別々に出発したのだ。
デートの待ち合わせ時間は9時。
五分ほど時間はある。
アンシャルとアオイはツヴェーデンに戻ってきていた。
セリオンとエスカローネが帰ってきていた。
アンシャルは二人にアオイを紹介した。
二人は温かくアオイを迎え入れてくれた。
今日はアンシャルとアオイのデートの日だ。
今日の目的地は水族館。
アンシャルはいつもの白いコートを着ながら、駅前でアオイを待っていたのだ。
デートらしくするために、今日は待ち合わせをしていた。
アオイはどんな服を着てくるだろうか。
アンシャルはそんな事を考えていた。
「アンシャルさーん!」
「アオイ……」
アオイは白いブラウスに、青いミニスカートという格好だった。
アンシャルは思わずアオイに見とれた。
アオイの服装だけでなく、彼女は化粧もしているようだ。
それが艶やかだった。
「アンシャルさん、時間通りですね?」
「ああ、そうだな」
アオイはアンシャルの腕を取った。
「それじゃあ、行きましょう!」
「フッ、行くとしようか」
二人は水族館に行くために駅へと入った。
この水族館ゼー・ラント(Seeland)はシュヴェリーン唯一の水族館である。
シュヴェリーンにはこのゼー・ラント以外の水族館はない。
そのため、人々はこのゼー・ラントによくやってくる。
水族館はシュヴェリーンでは非常に珍しい。
シュヴェリーンはダーヌ側が蛇行しているとはいえ、陸地の街だ。
水族館は希少にならざるを得ない。
デートスポットとしては注目されている。
この水族館はできてから、五年もたっていない。
セリオンとエスカローネはもうすでにここに来たことがあるのだという。
アンシャルはそれまでデートの縁などなかったので、来る機会がなかったのだ。
「見てください、アンシャルさん。人が大勢いますよ」
「アオイは人が多くいるところは気にならないか?」
「はい、私は特別に大丈夫です。アンシャルさんは平気ですか?」
「私はテンペルで慣れているな」
「アンシャルさん、イルカのショウがあるようですよ?」
「そうか、じゃあまずはそこから訪れてみようか」
「はい!」
アンシャルとアオイはイルカのショウを見るため、イルカがいる水槽に向かった。
そこは人が大勢詰めかけていた。
「すごいな。もうこんなに人がいる」
「アンシャルさん、あそこが空いていますよ!」
「ああ、そうだな」
アンシャルは苦笑した。
「? どうかしましたか?」
アオイがふしぎなまなざしを向けてくる。
アンシャルが笑ったのはアオイの態度が気になったからだ。
「いや、アオイが夢中になっているのが気になってね」
「もう! 子供扱いしないでください!」
アオイがすねた。
アンシャルからすれば、アオイはまだ子供だ。
アンシャルの立場では――それは父という立場からすれば、当然のことだった。
アンシャルとアオイは父と娘という『関係性』を持つ。
父には『天の父』と『地の父』という二つがあり、天の父は人生はかくあるべしと説く父のことで、父性的父ともいう。
それに対して、地の父は生活のことを気に掛ける。別名母性的父ともいう。
アンシャルは明らかに天の父だ。
この二つはどちらも一つの父にあるものだ。
イルカが水槽に現れた。
飼育員の前に身を乗り出し、エサを求めている。
「わああああ! アンシャルさん、かわいいですね!」
アオイがアンシャルの隣ではしゃぐ。
アンシャルはそれをほほえましく見つめる。
アンシャルもイルカに視線を移した。
イルカがジャンプして、空中で回転する。
ザバーンと大きな水しぶきが起きる。
「わあ! わあ! すごいです、アンシャルさん!」
飼育員はそんなイルカのパフォーマンスにエサをくれてやる。
その後もイルカたちはいろいろなパフォーマンスを見せてくれた。
飼育員を乗せて、運んだり、水上で交差したり、跳びはねたりした。
そのたびにアオイははしゃいだ様子を見せた。
アンシャルはそんなアオイを見れて幸せだった。
「イルカのショウは爽快だったな」
「はい! イルカさんがかわいかったです!」
アンシャルとアオイは並んで歩いていた。
周囲を見ると、カップルが多いのがよくわかった。
みんな男女の組み合わせが多いようだ。
それ以外は家族連れが目立つ。
よく見ると、アオイに視線を送っている人もいる。
アオイは和風美女、であるため男性の視線を集めていた。
「次はペンギンでも見て回ろうか?」
「そうですね。私はペンギンが見たいです」
二人はペンギンの水槽にやって来た。
その時、ペンギンが水の中に跳び込んだ。
「わあ! アンシャルさん! ペンギンですよ! ペンギン!」
アオイが目をキラキラさせる。
ペンギンは岩の上にとどまっている個体もあれば、水の中を自由に泳ぐ個体もあった。
「フフッ、そうだな」
アンシャルがほほえむ。
アンシャルはペンギンよりもアオイに夢中だったが、それは伏せておいた。
せっかくのひと時だ。
今はこの瞬間を楽しみたい。
アンシャルとアオイはアクセサリーショップにやって来た。
いろんなアクセサリーが扱われている。
特に水族館の魚や、動物の意匠が多い。
「アンシャルさん、すてきなアクセサリーですね」
「そうだな。記念に一つ買ってあげようか?」
「え? いいんですか?」
「ああ、好きなものを選ぶといい」
「それじゃあ……」
アオイが真剣な目でアクセサリーを選びにかかる。
アオイは何を考えているのだろうか?
アオイの様子はまるでハンターだ。
「じゃあ、これがいいです」
アオイがおずおずと一つのペンダントを出した。
それにはイルカがついていた。
それはイルカのペンダントだった。
「イルカのペンダントか。いいだろう。これをくれ」
アンシャルが受付にペンダントを置いた。
アンシャルは支払いを済ませると、アオイのもとに戻ってきた。
「ほら、アオイ。買ってきたぞ」
「ありがとうございます……」
アオイは照れているようだ。
アオイのほおが赤らんでいるのが分かった。
アンシャルはペンダントをアオイの首にかける。
デフォルメされたイルカが青く光っていた。
二人は水族館の外に出た。
青い空が二人を迎えてくれた。
日差しもよく、いい天気だった。
「少し、公園で休もうか」
「はい、そうですね」
二人はベンチに腰掛ける。
木が木陰を作っていた。
「少し、疲れていないか?」
「私は大丈夫です」
「今日はいい天気だ。絶好のデート日和だな」
「そうですね。今日みたいな日は外に出かけたくなります」
二人の間を風が駆け抜けていった。
さわやかな、いい風だった。
「ふう……いい風だ」
「最高ですね」
「アオイはデートの経験はあるのか?」
「え?」
「アオイはもてただろう? だから、私以外の男と出かけたことはあるのか?」
これはきわどい質問だった。
アンシャルとしては特に気にしていなかったが……。
「いえ、こんな体験をしているのは、アンシャルさんだけです」
「本当に?」
「本当です! アンシャルさんは意地悪です!」
「ははは、すまない。気になったものでね」
「もう! 私だけはずかしいじゃないですか!」
アンシャルはアオイの手を握った。
「あ……」
「いやか?」
「いえ、嫌ではありません……」
二人の時間が止まっていく。
二人はドキドキしていた。
「アンシャル・シベルスクだな?」
「おまえは……氷のヒュオン……」
アンシャルたちの前にテンペルの襲撃犯がやって来た。
この男とは一度会ったことがある。
ヒュオンという名もアンシャルは覚えていた。
「何のつもりだ?」
「何、少し付き合ってもらおうと思ってな」
「いやだと言ったら?」
「いやでも来てもらう。アンシャル・シベルスク、私はおまえをハイリヒ・シュタットにいざなおう」
ヒュオンが手をかざした。
その時、アンシャルはどこか別の空間に送られた。
アンシャルの耳に、アオイの声が響いていた。




