パレルモス
アンシャルとアオイはパレルモスの港に入った。
船からは痛んだ、古代の遺跡が見えた。
これらの遺跡は観光客向けにPRされるのが普通であるが、パレルモスではただ、荒廃するのに任せているようだ。
「……古代の遺跡をこのようなみすぼらしい姿にするなど、何と野蛮な。この町の人間には教養はないのか」
アンシャルは荒れ果てて閉鎖された遺跡を見て悲しくなった。
少なくとも、ほかの都市では遺跡はこのような扱いは受けていないと聞く。
おそらくパレルモスだからだろう。
港には船が停泊していたが、やはりガラの悪さは目立つ。
海賊とまではいかないまでも、素行の悪そうな連中が乗っていた。
「約束だ。俺はここまでしか連れてこれないよ」
漁師のおっちゃんがすまなそうに言った。
「安心してくれ。ここまでで十分だ」
「ありがとうございました」
おっちゃんが船を港に入れる。
アンシャルとアオイはそのまま船から降りた。
おっちゃんは猛スピードで港から去っていった。
よほど逃げたかったと見える。
「さて、この町で海賊の情報を入手できるといいのだがな」
「ほーほほほ、それには及びませんよ」
「!? グランシャイト!?」
港に現れたのはグランシャイトだった。
この男は何か楽しんでいるようだ。
「……いったい何を企んでいる?」
アンシャルは警戒した。
このグランシャイトという奴は陰謀を企む。
警戒しておくにしておくことはない。
「それはそれは。意外ですな。この私ほど善良な者もおらぬでしょうに」
「よく言う。この詐欺師め」
アンシャルはへどが出ると思った。
「アンシャル殿、あなたを我々のアジトに招待いたしましょう」
「何のつもりだ? 罠か?」
「いえいえ、そのままですよ。まあ、確かにアンシャル殿には退屈かもしれませんがね」
アンシャルはグランシャイトの意図が測りかねた。
この男が言っていることは怪しい。
何か目的があるはずだ。
何の理由もなくアンシャルたちをアジトに招くわけがない。
「アンニーバレもいるのか?」
「もちろんですよ。私が案内したしましょう。この岬の先にある洞窟まで来てください」
そう言うとグランシャイトは会心の笑みを浮かべた。
アンシャルたちはグランシャイトについていった。
そこは静かな洞窟だった。
そして内部は広々としていた。
明かりが洞窟内を照らし出す。
「来たな」
「アンニーバレか」
アンニーバレが洞窟の中で待ち構えていた。
「クックック、今度は負けねえぜ?」
「無駄なことを……おまえでは私たちに勝てない」
アンニーバレは前回、アンシャルと戦って実力差を思い知らされたはずだ。
それなのにアンニーバレには勝利への自信があるようだった。
アンシャルはふしぎに思った。
「確かに俺ではおまえに勝てないだろう。だが、俺が戦うわけではない。おまえたちの相手をするのはこいつだ! 出ろ! 海竜バルカ!」
開けた海に面しているところから、海の竜が現れた。
その姿は大きく、上半身は筋肉質だった。
皮膚の色は青だ。
アンシャルとアオイはとっさに武器を出す。
「はーっはっはっはっはっは! どうだ! こいつは俺の命令に忠実だ! こいつならおまえたちをぶっ殺せるだろうさ! さあ、バルカ! こいつらを殺せ!」
アンニーバレが哄笑をする。
これこそがアンニーバレの自信のもとであった。
自分ではアンシャルにかなわないから、モンスターを使うというわけだ。
「アオイ、気をつけろ。こいつは強敵だ」
「わかっています、アンシャルさん」
バルカが大きな腕で薙ぎ払う。
二人はジャンプしてそれをタイミングよくかわす。
この程度の攻撃をかわせないほど二人はのろくない。
「そうだ! やっちまえ、バルカ!」
アンニーバレが絶叫を上げる。
今のアンニーバレにできることは応援くらいだ。
「フッ、ずいぶん、応援できると見えるな」
アンシャルが皮肉のユーモアを言った。
アンニーバレを揶揄していることは明らかだ。
「けっ! 強がりはバルカに勝ってから言え!」
バルカが再び攻撃にうつってくる。
今度は正面から太い腕でパンチを繰り出してきた。
こんな攻撃を直撃したら、一瞬で死ぬだろう。
アンシャルとアオイは散開した。
バルカは知能が無いようで、ボケっとしている。
その隙にアオイが斬りこんだ。
アオイの刀・霊刀・月華がバルカの肌に弾かれる。
「くうっ!? なんて硬さですか!」
バルカは拳を振り上げて、そのままアオイに叩きつけた。
アオイはすみやかに後退する。
バルカの拳が地面に叩きつけられた。
地面は一メートルは深い穴が開いた。
すさまじいほどのバルカのバカ力である。
「これでもくらえ! 風切刃!」
アンシャルが風のカッターを放つ。
風のカッターは回転しつつ、バルカに当たる。
しかし、バルカの体が硬くて、風切刃ははじけ飛んだ。
「まったく効かなかった、か」
アンシャルは自分の技が効かなくても冷静だった。
アンシャルは指揮官も務めるため、冷静沈着だったのだ。
この技が効かないのなら、別の技を試せばいい。
「行きます!」
アオイは月光剣でバルカを斬った。
バルカの腕から血が流れた。
アオイの攻撃はバルカの体を傷つけたのだ。
だが、これほどの巨大生物だと、傷もたかが知れたものだった。
それだけではない。
バルカの傷は泡が現れて、それによってふさがっていった。
「再生したのか……」
「そんな……」
これで戦いはもっとシビアになった。
バルカを倒すには、ちまちまダメージを与えてはだめで、一撃必殺の技でケリをつけるしかない。
アンシャルは自分の技の中で、バルカを倒せそうなものを探す。
その時、バルカが口に水を集めた。
ウォーターブレスだ。
すさまじい水の圧力がアンシャルたちを襲う。
水は収束されたら、強烈な圧力を生む。
バルカは二人を巻き込むように薙ぎ払うようにはいてきた。
もっともそれは範囲を広くした分だけ、威力が低下したということでもある。
「きゃあああああああ!?」
「アオイ!」
アオイがウォーターブレスに巻き込まれた。
アンシャルがとっさに救い出さなかったら、やられていただろう。
「うう、すいません、アンシャルさん……」
「安心してくれ。私があいつを倒してみせる」
「はーっはっはっはっはっはっはっは! どうだ! これがバルカだ! こいつの前ではおまえたちなのゴミ同然! さっさとくたばっちまいな!」
アンニーバレが盛大な声を上げる。
アンニーバレはバルカが負けるとは思っていない。
そこに油断がある。
アンシャルはバルカが隙を作るように仕向けた。
再び、バルカの拳がアンシャルに落とされる。
ドカーンと轟音を上げて拳が落下した。
再び砂の上に小さなクレーターができる。
アンシャルはこの瞬間を待っていた。
バルカの攻撃は一つ一つが大仰強い。
つまり、攻撃を繰り出した後に、再度の攻撃に時間がかかるのだ。
それこそ、アンシャルの狙いだ。
アンシャルは白銀に輝く長剣を、バルカの額に突き刺した。
バルカは即死だった。
そのまま崩れ落ちるように倒れて、バルカは青い粒子と化して消えた。
「こんなものだな」
「バ、バカな…………」
アンニーバレからさっきまでの威勢は消えていた。
アンニーバレががくがくと震えて後ろに下がる。
「頼む! カネなら払う! ここは見逃してくれ! この通りだ!」
アンニーバレが気持ちいいくらいの土下座をする。
アンニーバレはアンシャルと取引をしようと持ち掛けているのだ。
当然、アンシャルはそんな事をするつもりはない。
その時、アンニーバレの後方から炎の球が発射された。
それはアンニーバレに命中し、彼を焼き殺した。
「ほーほほほ。役立たずには消えてもらいましょうか」
「グランシャイト、おまえか」
グランシャイトはどこ吹く風だ。
アンニーバレを殺したことをいささかも恥じている様子はない。
「もともとこの海賊団は使い捨てでしたからねえ。彼が死んでも問題はないのですよ。もっとも、見苦しい最期でしたが……」
「グランシャイト……このまま逃がすと思うなよ?」
「わかってますとも。ここで私たちの戦いを始めるとしましょうか」
グランシャイトは目を赤く光らせて、アンシャルを凝視していた。




