アンニーバレの動向
「うわああああああああん! パパ! ママ!」
女の子が父親と母親に抱きついた。
女の子の名はマルチェラ(Marcella)。
それをアオイがうれしそうに眺める。
女の子の両親は海賊船に囚われていた。
それをアンシャルが解放したのだ。
「アンシャルさん、よかったです」
「ああ、私もそう思う」
感動の再会にアオイは涙ぐんでしまう。
「ありがとうございました。本当に感謝しかありません」
父親がそう言った。
両親は二人ともアンシャルによって助け出されたのだ。
アンニーバレはグランシャイトによって救われた。
アンシャルは二人の行方はシキリア島だと考えていた。
なぜか?
それは部下の海賊たちがシキリア島にアジトがあると証言したからだ。
メッチーナはシキリア島の玄関口だ。
シキリア島に行くのには大して手間がかからない。
わずか、数時間で現代の技術ならメッチーナからシキリアに行ける。
それにシキリア島へは定期船が運航していた。
アンニーバレと決着をつけるために、アンシャルはシキリア島に行くつもりだった。
「アンシャルさん、これからどうするつもりですか?」
「ああ、逃げた海賊の行方を追う。あいつらをそのままにしてはおけない」
シキリアはもともとグラエキアとカルタージネ(Cartagine)が競い合っていた島だった。
古代レーム帝国の支配が及ぶようになって、カルタージネの勢力が島から駆逐された。
それによってシキリア島はグリーヒェン語圏と化した。
古代ではシキリアの首都シュラクサイ(Syraxai)は繁栄を謳歌していた。
古代レーム人はむしろ積極的に古代グリーヒェン語を学んだ。
子弟を積極的にシキリアに送った。
古代レーム時代ではグリーヒェン語は国際語だった。
「おそらく、グランシャイトのアジトもシキリアにあるんだろう。あいつらが何か陰謀を企てているかもしれない。グランシャイトはアンニーバレをそそのかしたんだろう。そして私がこのメッチーナにいることも知っていた。それを知っていてわざと海賊に町を襲わせたんだ」
アンシャルは自分の考えを述べた。
アンシャルはアンニーバレの、海賊たちの背後にグランシャイトがいたと確信している。
グランシャイトにとって海賊は使い捨ての道具にすぎないだろう。
グランシャイトは楽しんでいるのだ。
「それは許せませんね。私たちで解決したいですね」
アオイがアンシャルに同意する。
「このまま休暇を楽しむわけにもいかないな。これは緊急の要件だ」
「それでは、船を調べましょう。シキリア島に渡るには海路しかありません」
「ああ、定期便に乗ろう」
そうして、アンシャルとアオイがシキリア島に向かうことになった。
「ヒック……」
アンニーバレが酒を飲む。
これは憂さ晴らしだ。
アンニーバレは酒で現実から逃避していた。
アンニーバレには野心があった。
それはシキリアをノヴァ―リアから独立させて、王になるという野心である。
『シキリア王』――それはアンニーバレを魅惑していた。
だが、現実は……。
アンニーバレは多くの部下を失った。
部下がいなくてはいかに王といえども、張りぼてにすぎない。
アンニーバレの野心は縮小を余儀なくされた。
アンニーバレにはそれが気にくわない。
すべて奴のせいだ。
奴とはもちろん、アンシャルのことである。
奴が憎い!
奴が気に入らない!
すべて奴が悪い!
奴さえいなければ!
アンニーバレの心はすさんでいた。
もちろん、アンニーバレも実力ではアンシャルにかなわなかったことを認めざるを得ない。
それはわかっている。
だからこそ、余計に癪に障るのだ。
アンシャル・シベルスク!
なんて忌々しい奴だ!
「……アンニーバレ殿、少しは酒を控えられた方が良いのでは?」
グランシャイトがアンニーバレに声をかける。
当然だが、グランシャイトはアンニーバレの体のことなどまったく気にかけていない。
グランシャイトからすればアンニーバレが死のうが知ったことではない。
グランシャイトはアンニーバレに少しでも期待させようとしているだけだ。
アンニーバレが壊れたのならそれまでだろう。
所詮、これまでの男だったということだ。
ゴミは廃棄するに限る。
「ヒック……先生よお……もう終わりだ……部下はみんな死んじまった。俺だけ生きていても何にも出来ねえ……放っておいてくれ……」
「……」
さすがのグランシャイトもここまで病的だとは思わなかった。
まだ使い道があると思っていたのだが……。
洞窟には静けさが漂っていた。
この洞窟は海賊のアジトだ。
メッチーナに行くまではここには百人は部下がいた。
それが、今回の来襲でぱあだ。
かつては賑やかだった洞窟も今では静寂に満ちていた。
それがアンニーバレを孤独にさせる。
「フッ、部下がいなくなっただけでこのざまとはな。器の小さい男よ」
そこに一人の中年の男が現れた。
黒い髪をオールバックにしている。
服は黒い軍服に白いマントだった。
「オルドラーゴ(Oldrago)殿……」
グランシャイトとオルドラーゴは知り合いだった。
この男は闇の魔法を修めていたのだ。
「なんだあ? てめえは俺にケンカを売っているのか?」
「そう思ってくれたのなら結構」
「てめえ! 殺す!」
アンニーバレが殺気立つ。
アンニーバレは剣を抜いた。
このまま怒り続けたらほんとにオルドラーゴを殺害しそうだ。
「フッ、無駄なこと」
オルドラーゴが剣を抜いた。
アンニーバレは本気でレイピアで突いた。
オルドラーゴは一閃を放ち、アンニーバレの剣をはじく。
カキーンと音が鳴った。
アンニーバレの剣がはじき飛ばされた。
オルドラーゴはアンニーバレののど元に剣を運ぶ。
決着は一瞬だった。
「ぐっ!?」
「フン、その程度でよくも大言壮語をはけたものよ。身の程を知るがいい」
「オルドラーゴ殿、そのくらいにしておいてはくれませんかな」
「……いいでしょう。グランシャイト殿、あなたの頼みだ。感謝するのだな、アンニーバレよ」
「くそが!」
アンニーバレは吐き捨てた。
アンニーバレは再び酒を飲みに行った。
「……あんな男など見限ってはどうか、グランシャイト殿よ?」
「あんな男でもまだ使い道はあります。道具はすりつぶすくらい使いませんとな。ほーほほほほ」
「それで、アンシャル・シベルスクにどう対抗するつもりか?」
「ほーほほほ、海竜バルカ(Barca)を使います。海竜バルカを操れるのはアンニーバレだけです。まだ、彼は生かしておく価値があるかと」
「なるほどな。すべては闇の理のもとに。闇こそがこの世を統べる原理なのだから」
グランシャイトとオルドラーゴは互いに妖しい笑みを浮かべた。




