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ノヴァーリアの観光

アンシャルとアオイはホテル・ロマーノに戻ってきた。

「ふう……やっぱり、部屋の帰ってくると落ち着きますね」

「アオイは、町の喧騒は苦手か?」

「いえ、そういうわけではないのですが、やっぱり二人きりだと落ち着きます」

「アオイ……」

アンシャルはアオイの手を取った。

そして、その甲にキスをする。

「アンシャルさん……」

アオイが真っ赤になってうつむく。

アンシャルとしては騎士道精神のつもりだったのだが、アオイはあまりこの手のキスには慣れていないようだった。

「アオイはこの旅行でどうしても行きたいところはあるか?」

「私ですか? そうですね……アンシャルさんが行きたいところが、私の行きたいところです」

「そう言ってくれるとうれしいよ」

アンシャルとしてはこの旅行で古代レーム関係を尋ねてみたいと思っていた。

古代レーム帝国はもう滅びているが、その影響は現代にまで及んでいる。

現代のノヴァ―リア共和国と古代レーム帝国には文明としてのつながりはない。

ただ、ノヴァ―リアが古代レーム帝国の遺産を管理しているのは確かだった。

ノヴァーリアは軍事的には弱体であり、周辺諸国から狙われてきた歴史を持つ。

現在のノヴァ―リアは遺跡、美食、温泉、芸術の国だった。

特にレーム帝国の本国だったこともあって、遺跡は豊富である。

古代の神殿や、街道が今でも存在している。

古代レーム人はメンテナンスの重要性を知っていた。

そのため、遺跡はもはやメンテナンスされなくなって、放置されても、現代まで残っているのだ。

「アンシャルさん、そういえば温泉に行きませんか?」

「そう言えばそうだな。よし、温泉に行こう」

アンシャルは二つ返事でうなずいた。

温泉もノヴァーリアの文化の一つだ。

これは古代レーム帝国時代から残って継続されており、ノヴァ―リア人のお国自慢になっている。

「水着を忘れないようにしないとな」

「そうですね」

ノヴァーリアでは裸で入るのは厳禁である。

ノヴァーリアの温泉は水着で入るのだ。

ノヴァーリアには火山があり、そのため、温泉が出るのだ。

もっとも火山活動として、地震も多いのだが……。

二人は水着を持ってコンチェルト浴場に行くことにした。



コンチェルト浴場にて。

この浴場はメッチーナの代表的な温泉で、美肌効果があるという。

温泉側も積極的にそれを宣伝している。

温泉は男女別に分かれており、水着を着用して入浴する。

アンシャルはアオイと別れて、温泉に入ることにした。

アンシャルは長い髪を縛って、温泉に入れる準備をする。

「よし、これでいいな」

アンシャルは水着を着て施設に入った。

中は多くの客で込み入っていた。

髪の色合いから、いろいろな観光客がいることがわかる。

アンシャルのように金髪の人もいれば、茶髪、赤髪、黒髪、など様々だ。

浴場ではまず、体を洗う。

それから、温泉に入る。

もっとも古代レーム時代は裸で入っていたそうだが、現在は宗教的倫理観のせいか、水着着用が義務づけられている。

ツヴェーデンではサナトリウムなど温泉を利用した治療施設くらいにしか、浴場はない。

アンシャルは温泉につかった。

ツヴェーデンはエウロピア大陸の覇権国だ。

そのため、ツヴェーデン語は国際語となっていた。

この浴場の利用法もツヴェーデン語とノヴァ―リア語との二国語表記だ。

アンシャルたちシベリア人はツヴェーデン語はネイティブと同じくらいできる。

ツヴェーデン語は名詞に三つの性別があり、男性名詞、女性名詞、中性名詞と分かれている。

それに主格、属格、与格、対格と四つの格がある。

その分、動詞の変化は難しくない。

形容詞は三パターンの変化がある。

ノヴァーリア語は名詞の性別は男性名詞と女性名詞のみだが、動詞が主語に応じて複雑に変化する。

ノヴァーリア語は動詞で挫折すると冗談で言われているほどである。

アンシャルが理解できる言語はまず母語のシベリア語、ツヴェーデン語、ノヴァ―リア語、ガスパル語、ラティーナ語、グリーヒェン語である。

ラティーナ語は古代レーム帝国の言語で、ノヴァ―リア語の母言語だった。

現在のノヴァ―リア人は古代レーム人の子孫のはずだが、軍事的には脆く、政治的にも一流とは言えにくい。

さて、アンシャルのこれからの予定は古代レームの遺跡を巡る旅だ。

ただ、ノヴァ―リアは古代レームの遺跡だけではなかった。

南ノヴァ―リアは古代グリーヒェンラントの海外植民都市も多かった。

南ノヴァ―リアとシキリア島はグリーヒェン語圏であった。

そのため、レームの遺跡とはまた違った古代グリーヒェンラント式の遺跡がある。

現在、ノヴァ―リア語は三つに分けられ、北部、中部、南部と分かれている。

そのうち標準語として外国人が学ぶのが中部のルーマ(Ruma)の方言である。

アンシャルはまずは、古代の遺跡をアオイと訪れることにしていた。

「ふう……いいお湯だな」

「お、兄さん、観光客かい?」

「?」

アンシャルに黒髪で、ひげの生えた恰幅の良い男が話しかけてきた。

「ああ、そうだが?」

「そうかい。どこの国から来たんだ?」

「ツヴェーデンからだ」

「ツヴェーデンかい……北国じゃないか。寒いのかい?」

「まあ、そうだな。ノヴァ―リアと比べたら、寒いな」

アンシャルは肩をすくめた。

アンシャルはノヴァ―リア語で答えた。

この男性はノヴァ―リア人らしい。

「一人で来たのか?」

「いや、婚約者といっしょに来た」

「ヒュー! そいつはいいね! ラブラブかい?」

「まあ、良好な関係は結んでいるよ」

一般にノヴァ―リア人は人懐っこいと言われる。

初対面の人でも恥ずかしがらずに話すのだという。

朗らかだというのだ。

それはアンシャルは半分は当たっていて半分は間違っていると思う。

ノヴァーリアは北部と南部では国民性が違う。

中世に北部はツヴェーデンに支配されてきた歴史があり、南部はヒスパニア(Hispania)に支配されてきた歴史があるからだ。

ノヴァーリアは穀物や、ワイン、オリーブ油などの栽培が盛んである。

「それで、何をしにノヴァ―リアに来たんだ?」

「遺跡を観光しに。古代レーム時代の遺跡を巡りたいと思ってね」

ちなみに今アンシャルは休暇が延長されていた。

その空いた時間を使って、ノヴァ―リア観光にアンシャルはやって来たのだ。

「はっはっは! そうかい! 兄さんは、学が深いのかい?」

「まあ、哲学と歴史を学んでいるよ」

アンシャルの専門はもちろん宗教と軍事だ。

アンシャルは大学では哲学を学んでいたし、興味本位で歴史を学んだら、はまってしまった。

「私はそろそろのぼせそうなので、先に上がらしてもらう。それでは失礼する」

アンシャルは湯から上がった。

「観光を楽しんでくれ。Ciaoチャーオ!」

Grazie(グラッツィエ、Ciao!」

アンシャルはノヴァ―リア語によるコミュニケーションができてよかったと感じた。

ノヴァーリア語は発音が美しく、しかも音楽的だ。

独特な歌うようなイントネーションもある。

ノヴァーリア語を学ぶ最大の魅力はその流麗さにあるという。

ノヴァーリア人はツヴェーデン語を学ぶ際、Hの発音で苦労する。

なぜなら、ノヴァ―リア語ではHの音がないからだ。

この音のたいしてノヴァ―リア人の対応は三パターンに区別できる。

1 そのまま発音できる人。

2 Kで代用する人。

3 まったく無視する人。

2と3が圧倒的に多い。

アンシャルは温泉から上がると、アオイと鉢合わせした。

「やあ、アオイ、君も今上がったところか?」

「はい、そうです。美肌効果があるせいか、肌の滑りがいいです」

「外国人観光客はどうだった?」

「そうですね。いろんな民族の方がいましたね」

「ノヴァ―リアは観光地だから外国人が良く集まるんだ」

「た、大変だ―!」

「? アンシャルさん!?」

「何だ?」

声はホールにまで響くほど大きかった。

何か緊急の事態が発生したのだろうか?

「海賊だ! 海賊が攻めてきた!」





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