アオイとのデート
スルトとアンシャルは聖堂執務室で今回の襲撃について話していた。
「アンシャルよ、何者がテンペルを襲撃したと思う?」
「そうだな。私たちと敵対する勢力だろうが……敵は『使徒』と言った。これが何を意味するかは分からないが……」
アンシャルは思慮深い。
アンシャルは腕を組んで考えていた。
「私は『ザンツァ』という名を聞いた」
「奇遇だな。私もだよ」
アンシャルはザンツァという名は知らない。
ザンツァとはいったい何者なのだろうか?
未知の敵だろうか?
「私の前にはローデと言う女が現れた。私を抹殺するつもりのようだった」
「そうか。私の前にはヒュオンとグランシャイトというやつらが現れた。どうやら敵は召喚魔法を使うらしい。強力な魔物を召喚してきたよ」
敵が召喚したのはかなりの強さの魔物だった。
そこら辺にいる野良モンスターとは違う。
ということは敵は闇の力を持っているのではないか?
テンペルと敵対する闇の勢力なら考えられる。
そもそも敵は昼を攻撃に選んできた。
つまりテンペルの動きを事前に調べていたということだ。
情報戦では後れを取っている、と認めざるを得ない。
「そちらもか? 私の方も黒龍を召喚してきた。通常の騎士では太刀打ちできなかっただろう」
「この件については諜報部隊に調べさせた方が良さそううだな?」
「うむ。この事件の背景を探らせた方が良さそうだ。ツバキ!」
「はっ!」
音もなく一人のくノ一が現れる。
諜報部隊の隊長にして、ヤパーナー系シベリア人のツバキだ。
「今回襲撃してきた敵のことを調べよ。できる限り敵の情報が欲しい」
「はい、かしこまりました。できる限り情報を集めてまいります」
そう言うとツバキは消えた。
ものすごい身のこなしだ。
「しばらくは、警戒を強める必要がありそうだな。いつでも敵の不意打ちに備えておくべきだ」
「うむ。それにしても、今日のおまえは休暇中だろう?」
「ああ、偶然、宿舎にいたんだ。テンペルが襲撃されたから出てきた。さすがにこの状況で休暇というわけにもいかないだろう?」
さすがにアンシャルも休暇中として、味方を見捨てるわけにもいかない。
ゆえにアオイと共に参戦したのだ。
「こちらが油断しなければ、敵は第二の攻撃はしてこまい。おまえは休暇に戻ってもいいぞ」
スルトが勧めてくる。
「いいのか?」
「ああ、かまわん。休暇は権利だからな」
「それでは、休暇に戻らせてもらおう」
アンシャルは再び休暇に戻った。
アンシャルはアオイと共にフライ・マルクト(Freimarkt)を訪れた。
フライ・マルクトは個人個人が品物を持ち合って、店で売るというスタイルを取っている。
フライ・マルクトは新市街地の共和国広場にあった。
ここでは毎日休日に品物の販売をしている。
主に雑貨が扱われている。
「すごいですね、アンシャルさん。ツヴェーデン人はこんな技芸に通じているなんて……」
扱われている品物はアマチュアが作ったものとは思えないほど精巧だった。
この巧みさはツヴェーデン人の特徴でもあり、マイスター制度で活かされている。
マイスター制度は伝統的手工業の維持のための考えられた。
ツヴェーデンと言えば、哲学と物理学の国というイメージがあるが、マイスターのように手工業も盛んである。
そのせいか、一般の国民でも手工業を趣味とする人が少なくない。
「こういったところはシベリア人にはないな。どれ、よく見てみるとしよう。Guten Tag!」
アンシャルとアオイが市場に入っていく。
アオイは装飾品に興味を示した。
「アンシャルさん、見てください。あそこに宝石がついた装飾品がありますよ?」
「そうだな。きれいだ。アオイ……欲しいのか?」
「え? それは……」
アオイがもじもじし出す。
そんな反応をアンシャルはかわいいと思い、ふと笑う。
「もう! 笑わなくてもいいじゃありませんか!」
アオイが抗議する。
「すまない。アオイの反応が分かりやすくてな。よし、何か記念にプレゼントしてあげよう」
「いいんですか?」
「ほかならぬ婚約者のために、ね」
「それなら……」
アオイは翡翠がついたネックレスを選んだ。
緑の宝石が輝いている。
「これならどうですか?」
「ふむ……店主、これをくれ」
「はい、ありがとうございます」
アンシャルは支払いを済ませると、アオイにネックレスを差し出した。
「ありがとうございます、アンシャルさん……」
アオイは照れていた。
赤面している。
「さっそくつけてみてくれないか?」
「はい……どうでしょうか?」
アオイの胸の前で、翡翠が輝く。
「ああ、似合っているよ。すてきだ」
「よかったら、ほかにも見てくれないかい?」
店主の男性が勧めてくる。
「ほかには何があるのだろうな」
「アンシャルさん、見てください! あそこにぬいぐるみがありますよ!」
「おっ、本当だ。アオイ、あれも気に入ったのか?」
「記念に買っていこうと思います。今度は私が出しますからね?」
「ああ、わかったよ」
アオイが見つけたのはクマのぬいぐるみだった。
テディという愛称で知られる。
アンシャルはそんなアオイと幸せなひと時を過ごした。
こんな時がずっと続けばいいと思いながら……。




