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テンペル襲撃2

アンシャルはその日、宿舎にいた。

アオイもホームステイということでアンシャルの宿舎にいた。

アオイがお茶をアンシャルに入れてくれる。

アンシャルはテーブルの席についていた。

「はい、アンシャルさん」

「ああ、いただこうか」

アンシャルはアオイがいれたお茶を飲む。

温かい液体がアンシャルののどを通っていった。

「それにしても、アオイと出会って一か月か……本当にいろいろあったな」

「そうですね。いろいろありました」

「今までを振り返ってどう思う?」

「そうですね。短いけれど、とても濃密な時間だったと思います」

「私も人生の中でもっとも充実した日々だった」

アンシャルがほほえみかける。

「婚約したことを後悔はしていないか?」

「? どうしてですか?」

これはアンシャルのコンプレックスだった。

アンシャルは年齢のひらきを考えていたのだ。

「私はもうおじさんだ。つまりだな……私のような男をよく好きになったものだな、と思ってね」

「そんなことですか……私はアンシャルさんが父性的なところが好きなんです。ヤパーナーは母系の文化なので、父系の人に私は惹かれたのだと思いますよ」

「なるほど……確かに、シベリア人の文化は父系だ。シベリア人は父方の系譜を重視する」

「私はアンシャルさんの年齢は気にしていませんよ。むしろ、父親くらい年が離れていたからこそ、好きになったんだと思います」

「そうか……アオイはこれからどう生きていきたい?」

「? アンシャルさん?」

アンシャルは急ぎすぎないように話すことにした。

「私はずっと哲学を学んできた。哲学には人がどう生きたらいいか、そのエッセンスが入っている。私は思うんだ、自分の人生を、良きものにしていきたいと。人生は一度きりだ。だからこそ、悔いがない生き方をしたい」

「アンシャルさんはずっと自分の人生を押さえていたんだと思います」

「私は二人の子供を二十代から育ててきた。それ自体は間違っていなかった。それは神の意思だった。だが、子供はいずれ自立する。二人の子供は自立した。だから、私は残りの人生をアオイと過ごしたい」

「私もアンシャルさんと同じです。私はアンシャルさんといっしょにいたいんです」

「人がどう生きるべきか、それに絶対の答えはない。それはその人自身が自らの生で証明するものなんだと思う。だから、私はアオイを好きになったんだ」

アンシャルの人生はアンシャルにしか決められない。

哲学では、ある人は幸福のために生きるべきだという。

それも一つの答えであろう。

ただ、アンシャルはそれに満足していなかった。

アンシャルは思うのだ。

人は何かを自分の人生で為すために生まれてきたのだと。

アンシャルの人生はセリオンとエスカローネを育てることに費やされた。

それが終わった以上、アンシャルは次の目標を持たねばならない。

それがアオイとの関係だった。

アオイと共に在ること……アオイを愛すること……それがアンシャルの第二の人生の目的だ。

そんな事を話していた時、外で轟音がした。

「!? なんだ?」

「アンシャルさん! モンスターです!」

「何者かの襲撃か! アオイ、出れるか?」

「もちろんです!」

アンシャルとアオイは宿舎の外に出た。



宿舎の外はキノコバナがあふれていた。

聖堂騎士たちは中隊ごとにまとまって戦っているようだ。

軍隊はバラバラに戦うものではない。

聖堂騎士団も軍事組織だ。

軍は軍事の理で動く。

アンシャルはアオイと共に遊撃部隊として動くことにした。

そもそもアンシャルは休暇中なのである。

アンシャルとアオイの前に大量のキノコバナが現れた。

明らかに二人に敵意を持っている。

「召喚されたか……だが、私たちをなめるなよ? 風衝ふうしょう!」

アンシャルが風の衝撃波をキノコバナに叩き込む。

キノコバナは一瞬にして塵と化した。

アンシャルの攻撃はすさまじかった。

「月天光斬!」

アオイが月光の光を叩きつける。

キノコバナは生命力を失い、粒子と化す。

二人の存在を見て、キノコバナは密集し始めた。

キノコバナに何か動きがあった。

「? 何をするつもりだ?」

キノコバナは次々と合わさり、合体し始めた。

「アンシャルさん!」

キノコバナは膨れ上がり、巨大な姿になった。

大キノコバナだ。

「合体して大きくなったのか」

アンシャルは一目見て、この大キノコバナが油断できない相手だと見て取った。

アンシャルは直観的にこの相手は危険だと判断した。

しかし、ただ大きくなっただけではアンシャルの敵ではない。

大キノコバナは口から毒の息をはいた。

「そんなもの!」

アンシャルは風のシールドを展開して、毒をやり過ごす。

毒の息は拡散されていった。

おそらくこの毒は致死量だろう。

人間だけでなく、牛でも死ぬに違いない。

大キノコバナが大きく口を開け、アンシャルを呑み込もうとしてくる。

アンシャルはすぐに退避した。

アンシャルはその後、キノコバナの頭にめがけて、銀光の剣を突き刺した。

「ギエエエエエエエエエエエ!?」

大キノコバナが絶叫を上げる。

大キノコバナはそのまま、絶命していった。

「フッ、ただ大きいだけなら造作もない」

大キノコバナは茶色の粒子と化して消滅していく。

かくして、一局地戦で戦果が上がりつつあった。



スルトは一人でキノコバナを迎撃していた。

スルトの攻撃は強力なものが多い。

味方といっしょに戦っては、使いづらい攻撃があるのだ。

そのため、スルトは一人で戦っていたのである。

スルトからすればキノコバナなどザコに等しい。

スルトは大剣でキノコバナを貫く。

更にスルトは大剣を振るってキノコバナを斬り捨てていく。

それはまるで一人の獅子がハイエナを襲っているかのようであった。

「テンペルに襲撃をかけてくるなど、よほど自信にがあるのか? だが、この程度の相手では私の相手は務まらん」

「ほほほ、それはそうでしょうですわね」

「? 誰だ?」

スルトの前に赤いイブニングドレスを着た銀髪の女が現れた。

「初めまして。わたくしはローデ。使徒ザンツァ様の部下です」

「使徒? ザンツァ?」

ローデはニヤリと笑うと、キーワードを説明し始めた。

「死にゆく者には説明は不要と思いますが、いいでしょう、説明して差し上げますわ。使徒とはあのお方に仕える強大な存在です。わかりやすく言えば、あのお方の直属の部下ですわ。あなたがたが倒したアルテミドラも使徒のひとりでしたの」

「あのお方とは誰だ?」

「それは、闇の王です。すべての闇の源、闇の根源にして始原。それがあのお方なのです。わたくしたちはすべて闇の王に仕えております。そしてスルト・ボルグ総長、あなたの命が我々の目的ですの」

「私の命にずいぶん、面倒をかけるものだ。だが、私の命はそう軽いものではない。では、ローデと言ったか? おまえが私を殺す気か?」

ローデはいかにも愚かと思っているのか、吹き出してしまった。

「ウッフフフフフ……! 誰があなたの相手をすると言いました? あなたの相手はわたくしの召喚獣ゲニウスがいたします。せいぜいあがいて見せてあそばせ! 召喚獣ゲニウス! ドラゴニオン(Dragonion)!」

スルトの前に魔法陣が現れた。

回転する魔法陣から、一体の黒い龍が現れる。

それはまるで王者のごとく貫禄があった。

赤い目がスルトを凝視していた。

「黒龍か……相手にとって不足はない」

「それではスルト総長、ごめんあそばせ!」

ローデは魔法陣を発動させて消えていった。

後にはスルトと黒龍が残された。

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