テンペル襲撃
平和なひと時だった。
のどかな真昼時をテンペルは迎えていた。
聖堂騎士レオニート(Leoniyt)はあい方のキシャム(Kischam)と並んで歩く。
「なあ、キシャム?」
「なんだい、レオニート?」
「ヴァルキューレ隊では誰が狙い目だと思う?」
「誰って……そりゃなんだい?」
レオニートはキシャムに女性の話を振っているのだ。
キシャムはあくびを出した。
今日の訓練はヴァルキューレ隊との合同だった。
レオニートはヴァルキューレ隊の中で誰が好みかキシャムと話をしたかったのだ。
「レオニートは女の子の話ばっかだな」
「当然さ! かわいい女の子とお近づきになりたい! 男として当然のことだろうが!」
「ぼくは女の子より食べ物のほうが重要だからね」
キシャムはぽっちゃりした体型をしていた。
その体つきからわかる通り、キシャムは食べ物に目がない。
レオニートとキシャムは親友同士だった。
二人は食堂で昼食を取った後、テンペルの中を歩いていたのだ。
「俺としてはライザちゃんがいいと思っているんだ。あの凛としたたたずまい……なかなかいけてるからな!」
「そんなに気になるんだったら、話しかけてみたらどうだい?」
「あのなあ、あまり露骨に話しかけたら不審がられるだろうが。ここは不自然じゃないようにアプローチするべきだ」
「ふうん、そんなものかな」
キシャムは興味がなさそうにしている。
キシャムはただ聞いているだけだ。
「ただ、ナターシャちゃんも捨てがたい! くう、たまんねえ!」
「結局、どっちなのさ?」
「知ってるだろ? あのアンシャル副長が婚約したって話?」
「まあ、ねえ……」
アンシャルの婚約はテンペルで大々的に報じられている。
アンシャルは聖堂騎士団の副団長でもある。
アンシャルが特定の女性と婚約したことは驚きを持ってテンペルに迎え入れられた。
これまでアンシャルには女の影はなかったのだ。
一般の騎士はアンシャルに先を越されたと思ったようである。
「でも、あの副長が婚約だものねえ……人生ってわからないものだな」
「副長にも春が訪れたんだ! 俺たちだって恋愛してもいいだろ!」
レオニートはアンシャルに触発されて、自分の恋愛を考えているのだ。
騎士たちはヴァルキューレ隊員に好奇の目を向けていた。
実際、レオニートたち一般の騎士は女性と縁があまりないので、どうしてもヴァルキューレ隊員に関心を抱くのだ。
ただ、ヴァルキューレ隊は恋愛には厳しいという。
「スルト団長にはそういう人はいないのかな?」
キシャムが疑問を投げかける。
「バカだなあ……あのスルト団長だぜ? 硬派を地でいってる人だ。そんな人いるわけないだろうが」
このようにレオニートとキシャムは取り留めのない話をしていた。
今は昼休み、騎士たちもばらけて話をしていたり、思い思いに過ごしている。
レオニートキシャムは共に二十代、若さを満喫していた。
そんな時である。
テンペルの地面に魔法陣が出現した。
「ん? なんだ、あれは?」
「レオニート?」
魔法陣は回転すると、中からキノコのような怪物をはき出した。
キノコと花が一つになったような外観のモンスターで、名はキノコバナという。
キノコバナはレオニートを見かけると、すみやかに襲いかかってきた。
「キシャム! 武器を取れ!」
レオニートはキシャムと共にモンスターに剣で斬りつけた。
「レオニート! こいつら、敵だよ!」
「ああ、こちらの昼休みを狙ってきやがった! とにかく、バラバラに戦ったらまずい! どこかで仲間と合流しよう!」
テンペルが襲撃された瞬間だった。
聖堂騎士たちは不意を突かれた。
時間がお昼時だったこともある。
ありていに言えば、油断していた。
聖堂騎士たちはバラバラでキノコバナと戦わざるを得なくなった。
だが、こんな戦いをしていては敗れることぐらい、一般の騎士でもわかる。
騎士たちはどうにかして態勢を立て直そうとしていた。
「くっ!? こんな時間に攻めてくるなんて! こちらはバラバラだ!」
「とにかく、仲間と合流しよう! 中隊別に集まるべきだ!」
聖堂騎士たちはここバラバラで戦ったら、その戦力を発揮できない。
聖堂騎士の真価は、密集隊形で小隊、中隊、大隊と集まって発揮される。
「テンペルの皆さん! 敵襲です! すみやかに中隊別に集まってください! 各中隊長は中隊単位で部隊行動をしてください!」
シエルが放送で聖堂騎士たちに呼びかける。
スルトは聖堂騎士団を中隊レベルで運用して、キノコバナを各個撃破するつもりだった。
騎士たちは中隊旗が掲げられたところに集まり、キノコバナと交戦していく。
当初は不意を突かれた騎士たちも、軍団の強さを発揮すると、瞬く間にキノコバナを駆逐していく。
キノコバナはあまり強いモンスターではない。
ただ、その牙に軽い毒があった。
戦いはヒートアップしていった。
一方、ヴァルキューレ隊もキノコバナと交戦していた。
ヴァルキューレ隊の指揮官はナスターシヤ隊長だ。
スラブ系シベリア人である彼女は槍の扱いにかけてはスルトでさえ、舌を巻く。
「隊員はすみやかに戦闘態勢を取れ! 私が道を切り開く! 私に続け!」
「「「おう!」」」
隊員たちがナスターシヤ隊長に続いて、キノコバナに攻撃を仕掛ける。
キノコバナも密集していたが、指揮統制されていなかったため、ナスターシヤが亀裂めがけて斬りこむと、瞬く間にキノコバナは蹂躙されていった。
戦いは集団戦になった場合、その部隊運用が勝敗を分ける。
ヴァルキューレ隊はナスターシヤのもとに優秀な女戦士たちがそろっている。
彼女たちは槍を縦横無尽に振り回し、キノコバナを倒していった。
ヴァルキューレ隊は女性のみで構成された、テンペルの部隊だ。
聖堂騎士には少ないながらも、女性の騎士も存在する。
ヴァルキューレ隊は数を頼みに群がるキノコバナを次々と駆逐していった。
その姿はまるで神話に出てくるヴァルキューレを思わせた。
彼女たちの活躍は獅子奮迅だ。
「それにしても、いったいどこの誰がテンペルを襲撃したのか……こんなモンスターを送ってくるような者だ。一人とは思えない。何人かで陰謀を企てているのか?」
ナスターシヤ隊長の疑問には答えられる情報がなかった。
一人高いところからウンベルトがテンペル全体を眺めていた。
ウンベルトの目にはキノコバナが次々とやられていくありさまだった。
「ほっほっほっほ。さすがにテンペルはやるのう。キノコバナ程度では相手にならぬと見える。指揮が整っていない真昼時を狙ったのじゃが、テンペル相手には通用しそうもないのう……」
ウンベルトは悲観的だったが、それでも余裕を失わない。
「まあ、最終的に目的さえ達成することができればそれでよしとするかのう」
ウンベルトは陰険な笑みを浮かべていた。
ウンベルトにとってキノコバナは使い捨てのコマにすぎない。
いくらキノコバナが死んだところで、ウンベルトには痛くないのだ。
「ほっほっほ。我らの真の戦力は『召喚獣』じゃ。さて、中盤戦……スルトはどう出てくるかのう……それが楽しみじゃ」
ウンベルトは邪悪な顔をしていた。
それは陰謀を企む者の顔だった。




