休暇中
アンシャルはヤパーナーの一件が片付いて、休暇を与えられた。
アオイはシベリア市民権を取得した。
つまり、アオイは晴れてシベリア人になったということだ。
ささやかながら、パーティーが催された。
聖堂の前で人々は賑やかに談笑を楽しんだ。
「おめでとう、アオイさん!」
「おめでとう、アンシャルさん!」
この場でアンシャルとアオイの婚約も発表された。
人々は口々に二人を祝福し、めでたい祝賀に乾杯した。
豪華な料理が提供された。
もちろん、ワインもふるまわれた。
アリオンは食べることで意識を集中させていた。
それを見て、シエルとノエルはあきれていた。
スルトが祝いの進行役を務めた。
「二人の、麗しいカップルに乾杯! 二人に祝福あれ!」
スルトがワイングラスを上にかかげる。
みんなもそれについて乾杯した。
女性陣の中にはアンシャルが結婚するということで、地団駄を踏むものもいた。
アンシャルははっきり言ってもてる。
美形だし、知性と教養もある。
テンペルの副長としての強さもある。
これでもてないはずがない。
しかし、もてることと恋愛がうまくいくことはイコールではない。
アンシャルも戦士だ。
その隣には同じ戦士しか立てない。
実のところ、ヴァルキューレ隊にもアンシャルはもてていたのだが、涙を流す隊員が続出したという。
アンシャルとアオイのもとにはいろんな人があいさつに訪れた。
二人はその対応に追われた。
まずはスルトだった。
「このような慶事はテンペル始まって初めてだ。アオイ殿、アンシャルのことを支えてほしい。アンシャルの至らないところをサポートしてほしいのだ。ヤパーナリン(ヤポニ人女性)なら、よくわかっていよう」
「はい、わかっています。アンシャルさんは完璧に見えて、抜けているところがあるので、私がしっかり支えてあげたいと思います」
アオイははっきりと答えた。
アオイはアンシャルの腕を取る。
こういうところはアオイもヤパーナーだなとアンシャルは思う。
男性を立てようとするところだ。
実際、純粋なシベリア人なら、対等なパートナーになるところだ。
セリオンとエスカローネがそうであろう。
アンシャルはアオイという伴侶を見つけることができた。
それは幸運だし、運命的なものを感じる。
スルトがアオイに期待しているのはアンシャルにはない側面だ。
アンシャルも父性を持っている。
父性とは切断の原理だ。
善と悪、光と闇、ものごとを切り分け、区別する。
アンシャルは知性が鋭い。
それは時に、人を傷つけかねない。
スルトがアオイに期待しているのは、アンシャルの父性を和らげることだ。
「兄さん、アオイさん、婚約おめでとう。兄さんにもとうとう春がやって来たわね。うふふ」
ディオドラが二人にあいさつした。
「ディオドラ……ありがとう。私はアオイを幸せにするよ」
「もちろんよ。兄さんには今までセリオンのことで頭がいっぱいだったでしょう? 今度は兄さんが幸せになる番よ。アオイさん、兄さんと幸せになってね」
「はい、ありがとうございます、ディオドラさん。私はアンシャルさんといっしょにいるだけで幸せですよ」
アオイが笑顔を浮かべる。
ディオドラの目から涙がこぼれた。
「ディオドラさん!?」
アオイが狼狽する。
何か失礼なことをしただろうか?
「違うの……兄さんが幸せをつかんだと思ったら、うれしくなっちゃって……だって、兄さんはずっと自分の幸せをあきらめてきたんだから」
「ディオドラ、これまでありがとう。私もうれしいよ」
そう言うと、アンシャルはディオドラを抱きしめた。
「ディオドラ、おまえも自分の人生を歩んでいいんだ。おまえも自分の幸せを追求するといい」
「兄さん……私は『神の女』よ? 私は神に自分の人生を捧げようと思ているの」
「そうか……なら止めはしない。おまえ自身で自分の人生を歩めばそれでいい」
次にあいさつに来たのはシエルとノエル、アリオンだった。
「アンシャル副長! 婚約、おめでとうございます!」
「アンシャルさん、お幸せに!」
「アンシャルさん、幸せになってください!」
アリオン、シエル、ノエル順であいさつした。
「やあ、三人とも。おまえたちは仲がいいのか悪いのかわからないな」
アンシャルはそう言って苦笑する。
「こんな奴らと仲がいいわけがないじゃないですか。副長、からかわないでくださいよ」
アリオンは不満げだ。
アリオンからすれば、シエルとノエルはお子様なのだ。
そもそも、機会があるたびにセリオンに甘えているではないか。
「むっ、なによ、アリオン! あんたなんかと私たちが仲いいわけないでしょ!」
シエルが烈火のごとくやりこめる。
「そうだよ。私たちはセリオンお兄ちゃんと仲がいいんだから」
「おまえらなあ……セリオンにはエスカローネさんがいるんだから、二人っきりにしてあげろよ」
三人はアンシャルの前で口論を始めた。
「もう、そのくらいでやめておけ。今日は祝いの日だ。おまえたちも楽しむといい」
さすがにアンシャルは見てられなくて三人を止めた。
シエルとノエルは顔を赤くする。
「「はーい」」
三人に代わって、サラゴンが現れた。
「アンシャル副長! 今日はめでたいでありますなあ!」
「アンシャル様、婚約おめでとう!」
「やあ、サラゴン、ダキ、うれしいよ」
サラゴンは一人娘のダキを連れていた。
ダキの年齢は10歳だ。
桃色の髪が印象的だった。
「いやはや、副長が結婚するとは意外ですな」
「サラゴン、それはどういう意味だ?」
「はっはっは! 副長は禁欲的だったので、女には興味がないのかと」
「お父さん! アンシャル様に失礼だよ!」
すかさずダキが注意する。
「私も男のはしくれだ。女性に興味がないわけがないだろう。セリオンとエスカローネが独立したから、心に余裕ができたんだ」
「そうですな。我ら聖堂騎士団一同、アンシャル副長が一人の女性と幸せになることを祝福しております。それでは!」
サラゴンは再び、料理の前に行った。
娘のダキがサラゴンを注意していた。
アンシャルとアオイはしばらく、あいさつを済ませると、二人だけになった。
「アオイ……私は君となら幸せになれそうな気がする」
「はい、私もアンシャルさんとなら幸せになれそうです」
「今このことをセリオンとエスカローネにも伝えたい」
「私はお二人と会えるのが楽しみです」
「君と同じくらいの年だ。きっと仲良くなれるに違いない」
アンシャルはその心配はしていない。
アオイならセリオンやエスカローネともうまくやっていけると思っている。
「あの二人は今ごろ何をしているだろうな……」
アンシャルは今ここにいない二人に想いを馳せて、想像するのだった。
一方、セリオンとエスカローネは……。
セリオンは浜辺にいた。
一人立って、海を見つめている。
南国の海はすごくきれいだ。
まるで宝石のようだ。
緑がかかった海はすごく美しい。
セリオンは今、休暇中だった。
期間は一か月。
エスカローネも同じく一か月の休暇を与えられた。
この休暇はアルテミドラ戦争の勝利によってもたらされた。
セリオンたちは闇黒の大魔女アルテミドラと戦争をした。
厳しい戦いだったが、セリオンたちはアルテミドラに勝った。
この戦いで聖堂騎士団は貴重な実戦経験をさらに積むことができた。
非常に実りが豊かだった。
セリオンの休暇も終わりに近づいてきていた。
兵士には休暇が必要だ。
だが、休ませすぎてもいけないのである。
そのあたりのさじ加減が必要なのだが、スルトもアンシャルもそこはわかっていた。
セリオンは休暇が終わりに近づいてきているがゆえに、再び戦いに身を投じる覚悟を決めていた。
「セリオーン!」
「エスカローネ……」
セリオンは愛しい恋人にささやきかける。
セリオンとエスカローネは恋人同士になった。
エスカローネは青いワンピースを着ていた。
エスカローネのきらめくような金髪と、雪のような白い肌に青い服は似合っていた。
よく見ると、胸が強調されていた。
エスカローネがセリオンの腕を取る。
この休暇で、エスカローネは『セリオンのもの』になった。
セリオンはエスカローネに独占欲を抱いている。
エスカローネもそうだ。
エスカローネはセリオンにもたれかかる。
「いつ見てもきれいな海ね」
「そうだな。本当にきれいだ。もっともエスカローネの方がきれいだと思うが?」
エスカローネはほおを赤らめる。
「もう、何言ってるの!」
セリオンはエスカローネの存在を感じ取る。
エスカローネの体が、弾力性を持っていた。
二人は幸福の絶頂にいた。
「アンシャルから手紙が届いた」
「アンシャルさんから?」
「ああ、婚約したらしい」
「婚約!?」
エスカローネが驚く。
まあ、無理もない。
アンシャルの禁欲ぶりは有名だった。
「そう、なのね……よかった……本当に良かった……」
エスカローネは泣き出してしまう。
エスカローネもアンシャル自身の幸せを願っていたのだ。
「そうだな。アンシャルは俺たちを育てるために、自分の人生を捧げた。だから、これからはアンシャルが幸せになる番だ」
「そうね。アンシャルさんには幸せになってほしいわ」
「きっとそうなるさ」
「それじゃあ、私たちも幸せにならないと、ね?」
エスカローネが見上げるように見つめてくる。
この姿勢だと、エスカローネの豊かな胸を上からのぞくようになってしまう。
そして、セリオンはそれを無視できない。
セリオンは何とか視線をずらしてそれに耐えた。
やれやれ、エスカローネは刺激的過ぎる。




