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暗殺

夜、アンシャルとディオドラは就寝した。

静かな夜だった。

二人は同じ部屋で、和服に着替えて寝た。

それを待っていた男がいた。

男は忍びだった。

全身を忍び装束に包んでいる。

部屋の天井が空いた。

男が下にいるアンシャルとディオドラを見る。

「フッフッフ……アンシャル・シベルスク……お命ちょうだいする!」

男が降りて、アンシャルを刀で突き刺す。

一瞬のできごとだった。

「フッ、死んだか……ムッ!?」

男は異変に気づいてふとんをめくった。

そこにはわら人形が置いてあった。

「こ、これは……!?」

「やはり現れたな」

「きさま!」

押入れの扉が開かれた。

そこにはアンシャルとディオドラがいた。

アンシャルは長剣を構えていた。

「おまえの動きは知られていた。今夜襲撃があると、私は予測していた。おまえに私の暗殺を指示した人物は誰だ?」

「……」

男は答えない。

忍者刀をわら人形から抜く。

そして逆手に構える。

男はアンシャルをあくまで暗殺するつもりらしい。

予想外のできごとに驚いている様子はない。

「答えないのか? それではおまえの名は何だ?」

「……ハンゾウ」

「ハンゾウか。おまえの行動はヤパーナーの意思か?」

「答える必要はない。おまえはここで死ぬ」

「あいにくだが、死んでやるつもりはない。私にはテンペルを率いる使命がある」

アンシャルの剣から光が放たれた。

アンシャルの長剣は風王剣『イクティオン』。伝説級の代物だ。

アンシャルの技『光明剣』が輝く。

「むうっ!?」

ハンゾウがそれに対しておびえるようなそぶりを見せる。

明らかに動揺している。

『光』に対して警戒するような感じだ。

「光が怖いか? 光を恐れているのか? やはり、ヤパーナーには闇があるようだな」

「うるさい! ここで死ね!」

ハンゾウが斬りかかってきた。

アンシャルはそれをたやすく、受け止める。

アンシャルは反撃する。

アンシャルは自在に長剣を振るう。

ハンゾウの体がはじけた。

「ぐふうっ!?」

ハンゾウはすみやかにアンシャルから距離を取った。

でなければハンゾウは全身を斬り刻まれていたかもしれない。

「くっ!?」

ハンゾウの顔は見えないが、苦渋に満ちているに違いない。

この展開はさすがのハンゾウも予測していなかっただろう。

「アンシャルさん、どうかしましたか?」

そこにアオイが入ってくる。

アオイは一瞬にして状況を把握した。

「これは!?」

ハンゾウはほかの人物が起きてきて、暗殺の失敗を悟ったのだろう。

戦意を喪失したようだった。

「どうする? ことが大ごとになってきたぞ?」

「……」

さすがにここに来て、ハンゾウも撤収を考えたらしい。

ハンゾウは胸から玉を取り出した。

そしておもむろにそれを床に叩き付ける。

煙幕がハンゾウの周囲を襲った。

アンシャルたちの視界が妨げられる。

「アンシャルさん!」

「来るな、アオイ!」

煙幕が収まると、ハンゾウの姿は消えていた。

どうやら逃げたらしい。

暗殺の失敗を悟ったからだろう。

アンシャルは長剣を収める。

「アンシャルさん! 大丈夫ですか!?」

「ああ、私たちは無事だ。そうだな、ディオドラ?」

「ええ、兄さんが守ってくれたから」

「これは……いったい何があったのですか!?」

そこにトキコがやって来た。

トキコは慌てていた。

お客人が襲われたのだ。

これは一大事だった。

「私たちが忍びの者に狙われた。おそらく、私とディオドラを狙ったのだろう。安心してほしい。奴は去った」

「そうですか……大事に至らなくてよかったです」

トキコが一安心する。

アオイも胸をなでおろしたようだった。

「でも、どうしてアンシャルさんが狙われたんでしょう?」

アオイが疑問を提起する。

理由はいろいろ考えられる。

テンペルの存在が邪魔だと思う者たちがいるのだろう。

おそらく、黒幕はヤパーナーだ。

ヤパーナーの一部に闇の存在がいるのだと、アンシャルは推測する。

こればかりは、向こうの出方と、ツバキの報告を待つしかないが……。

テンペルは光の存在の牙城だ。

闇のヤパーナーと対立する理由はある。

「さあ、な。私たちをテンペルの者と知っての行動かもしれない」

アンシャルとディオドラはその日は別の部屋で寝ることにした。



次の日――。

アンシャルとディオドラはアオイの家を去ることにした。

「いろいろと世話になった。特にアオイ、君には感謝しても感謝しきれない」

「いえ、私がしたくてしたことですから……」

アオイのほおは赤く染まっていた。

アンシャルはこれでアオイと別れると思うと胸がせつなくなった。

アンシャルは自分の欲望を把握していた。

このままアオイと別れたくない。

この出会いをつなげたい。

そう思うと、アオイに自然に声を出した。

「アオイ、ホームステイの件だが……どうする? 君が望むのなら、私が手配しておくが?」

「ぜひとも、お願いします! 私はシベリア人のことが知りたいです!」

アンシャルはうれしくなった。

アンシャルはアオイを迎え入れることにした。

テンペルには外国人のためのホームステイの制度がある。

アンシャルはホスト先となるのは初めてだった。

「また、アオイちゃんと会えるのね。楽しみだわ」

ディオドラも乗り気のようだ。

アンシャルとしてはアオイとディオドラの関係が良好であってほしいと思っていた。

これで別れではないと思うと、アンシャルは喜んだ。

この出会いは神がもたらしたものだと、アンシャルは信じることことができた。

アンシャルはアオイに好意を持っていた。

「それでは、アオイ、トキコさん、ありがとう。再会を楽しみにしているよ」

「ごきげんよう」

アンシャルとディオドラはそれぞれあいさつを済ませると、アオイの家を後にした。



テンペルにて。

アンシャルはスルトと話をした。

「交渉に向かったら、襲われた」

「そのタイミングでか? それではヤパーナーの何者かが、おまえを襲わせたのだろう」

「まあ、そうだろうな」

アンシャルは肩をすくめた。

アンシャルとしてはヤパーナー自治区と交渉するつもりだったが、こう襲われたのなら、交渉は中断せざるを得ない。

「おそらく、ヤパーナーは闇を持っている。それが何かはツバキの調査を持ってしかわからないが……」

アンシャルとしてはヤパーナーに闇の影があることを読み取っていた。

ヤパーナーの一部に闇の存在がいる。

光と闇は相反する。

これはぶつかり、戦い合う宿命ということだ。

「それでは今後の調査を待つとしよう。ごくろうだった。しばらくは休むといい」

「そうさせてもらおう」

テンペルは宗教組織であると同時に軍事組織でもある。

軍人は特別なミッションの後は休ませるのが原則だ。

「ああ、そう。一つ言い忘れていた」

「何だ?」

「ホームステイの申請をしたい」

「ホームステイ?」

「ああ、あとで申請書を出しておく」

「ほう……おまえがホームステイとは珍しいな。わかった。申請書を提出してくれ。それで、どんな人物が申し込んだのか?」

スルトもそれには気になるらしい。

アンシャルは背を向けて振り返った。

「アオイという女性だ。年はセリオンと同じらしい」

「ヤパーナーか?」

「そうだな。向こうで出会った。素敵な女性だ」

「フッ、まるで春が訪れたかのようだな?」

「ああ」

「おまえも自分のことを考えてもいいころだ。おまえはセリオンのことばかり考えていた。残りの人生は自分の伴侶のことを考えてもいいだろう」

「私もそう思う。残りの人生は有意義に使いたい」

そうしてアンシャルは聖堂を後にした。

アオイの笑顔がアンシャルには忘れられなかった。


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