表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/287

アオイの家

アオイの家は中規模の一軒家だった。

ヤパーナー伝統の木造家屋である。

ヤパーナーの家は土足厳禁である。

ヤパーナーはこの文化をツヴェーデンでも続けていた。

この文化のルーツはヤーパン時代にまでさかのぼるらしい。

「こちらです」

アオイが家まで二人を案内してくれた。

柵が長方形の家を取り囲んでいる。

ヤパーナーの家は壁や柵で仕切られていることが多い。

「これは……雅な家だな」

アンシャルはそう評した。

アオイの家は昔ながらの古風な作りであった。

門を通って、玄関まで三人は進む。

「おばあ様、ただいま帰りました」

アオイが玄関を開ける。

すると中から一人の老婆が出てきた。

「アオイ、帰ったの? あら? そちらの方々は?」

「こちらはアンシャルさんにディオドラさん、シベリア人の代表です。シゲミツおじい様から、もてなすように言われてきました」

「あらあらそう。何もない家ですが、よろしければどうぞ、お入りください。私はアオイの父方の祖母カガミ・トキコです」

「アンシャルだ」

「ディオドラです」

トキコは二人に頭を下げた。

どうやら歓迎されているらしい。

トキコは灰色の着物を着ていた。

「あ、お二人とも、靴はここで脱いでくださいね」

アオイがチェックする。

シベリア人は靴を脱ぐという習慣がない。

アオイはそれを知っているのだろう。

アンシャルとディオドラは素直に従った。

これも含めて異文化コミュニケーションだからだ。

「失礼するよ」

「失礼します」

アンシャルはあらかじめヤパーナーの文化も調べていたので、これは驚きではなかった。

アンシャルたちは居間に通された。

座布団が用意されて、アンシャルたちは座った。

「今、お茶をご用意しますね」

「ありがとう」

「ありがとうございます」

アンシャルとディオドラがお礼を言う。

「ふふふ、これはお客様に対して当然のことです」

アオイが笑顔を浮かべた。

アオイは奥へと去っていった。

アンシャルとディオドラだけが残される。

「さて、どうしたものかな」

アンシャルはディオドラを見る。

「ヤパーナーは礼儀正しいって聞いていたけど、そのとおりね」

「そうだな、ただ……」

「ただ?」

「感情の交流がほしいな」

アンシャルはヤパーナーの礼儀正しさを認めながらも、どこか不満があった。

つまり、感情の交流である。

アンシャルが言いたいのは、儀礼が過ぎると、本音のやり取りがなくなるということだった。

ヤパーナーは本音と建て前を区別するという。

ましてや、お客様に対しては一層礼儀を重んずるだろう。

それは悪いことではないが、人間としての血が通った交流が失われるという欠点もある。

ツヴェーデン人のヤパーナーへの評価は『慇懃無礼いんぎんぶれい』であった。

ツヴェーデン人はあまりに礼儀正しいヤパーナーを見ると違和感を感じるらしい。

「アンシャル様」

「ツバキか」

庭に忍びのツバキがひざまずいていた。

何か報告でもあるのだろう。

「お気を付けください。政庁にヤパーナーの忍びと思える者が入りました。何か企んでいるかもしれません」

「企んでいる?」

「はい、その御身に危害が加えられるかもしれません」

「つまり、暗殺か?」

「その可能性が高いかと」

「わかった、気をつけるとしよう。それで、おまえのほうの調査はどうだ?」

アンシャルがツバキに現状の報告を求めた。

ツバキはよくやっているだろうか?

ツバキももとヤパーナーだ。

そのツバキも今はシベリア人である。

シベリア人の民族的定義とは『価値観を共有する人』なのである。

つまり、シベリウス教を信じ、シベリア文化を受け入れたのなら、血とは関係なくシベリア人になれる。

シベリア人の中にはヤパーナー系シベリア人もいる。

ツバキの配下たちももとヤパーナーであった。

それに対して、ツヴェーデン人とは『同じ血を持つ者』である。

あくまで、ツヴェーデン人は血統を重んじる。

「探りを入れていますが、難航しています。ヤパーナー自治区には何かあることまでは突き止めたのですが、潜入が難しく、難儀しております」

「そうか。何かつかんだらすぐに報告に来てくれ。情報の共有は重要だからな。それにしても……」

「いかがいたしました?」

「元同胞のスパイをやるのにつらくはないか?」

アンシャルはツバキたちを気づかっているのだ。

ツバキたちは同胞だ。

ヤパーナーの諜報をするのに何か精神的につらいことはないのだろうか?

「はっ、私たちはテンペルに拾われました。私たちはテンペルに絶対の忠誠を誓っております。テンペルの不利益になるようなことはいたしません。無用の心配でございます」

「わかった。引き続き諜報活動を頼む」

「はっ!」

ツバキはその場から消えた。

ツバキは優秀なくノ一だ。

必ずや有力な情報を持ってくるに違いない。

「お茶が入りました」

アオイが居間に入ってきた。

手には三つの茶わんをお盆に乗せていた。

茶わんは熱いのか湯気が立っていた。

アオイがお茶を二人に渡してくる。

「いただこう」

「いただきます」

「はい、ごゆっくりどうぞ」

アンシャルはお茶を飲んだ。

風味といい香りといい良質だった。

「これは高いのか?」

アンシャルがアオイに質問する。

「そうですね。お客様用なのでそれなりに値はします」

アオイも正座して座布団に座った。

「お二人は今日はどうされますか?」

「? というと?」

「ヤパーナーは客人をおもてなしする文化があります。もしよろしければ、夕食をごいっしょにいただきませんか? それと泊っていって結構ですよ?」

「いいのか?」

「ええ、もちろん」

アンシャルはディオドラの顔を見た。

ディオドラはどう思っているのか?

「私も兄さんに付き合うわ。今回はご好意に甘えましょう」

「わかった。まだ夕食には時間があるな。できればヤパーナー自治区を見て回りたい。アオイ殿、案内を頼めるだろうか?」

「いいですよ、私でよければご案内します」

「ディオドラはどうする?」

「私はここに残るわ。トキコさんと話してみたいの」

こうしてアンシャルとアオイはヤパーナー自治区の観光をすることにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ