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英雄叙事詩 Das Heldenlied  作者: 野原 ヒロユキ
~Himmel und Erde~
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アルテミドラ

セリオンはホールに出た。

そこには闇黒の大魔女アルテミドラが玉座に座っていた。

彼女は黒く長い髪をポニーテールにして、垂らしている。

服は水色のドレスだ。

ドレスにはスリットが入っており、なまめかしい白い脚がさらけ出されていた。

アルテミドラはけだるそうにセリオンを見る。

アルテミドラの瞳がセリオンを映す。

この独裁者はあくまで余裕たっぷりらしい。

「よく来た、セリオン・シベルスク。この私のもとまでやってくるとはな。よもやこの私が自ら相手をしなければならないな」

アルテミドラが冷たく笑う。

アルテミドラはセリオンを脅威だと思っているが、自分より強いとは考えていない。

アルテミドラにとって自分こそ絶対的な存在なのだ。

セリオン・シベルスクなどただの小僧だ。

セリオンはそんなアルテミドラの実力を測ろうとする。

アルテミドラからは絶大な魔力が陽炎のようにうごめいていた。

セリオンはアルテミドラを倒すためにここまでやって来た。

セリオンは自分がテンペルの希望であると思っている。

セリオンがこの任務を果たさねば、テンペルは破滅するのだ。

セリオンは大剣をアルテミドラに突き付ける。

「アルテミドラ……もういいだろう。おまえの負けだ。軍の洗脳を解け。降伏するなら悪いようにはしない」

「アッハッハッハッハッハ! ふざけたことを! そんなことはありえない!」

アルテミドラはセリオンの言葉を嘲笑した。

アルテミドラには絶対の自信がある。

アルテミドラはセリオンは自分には勝てないと思っているのだ。

小童がたわけたことを言う!

だが、そんなセリオンは大まじめだ。

「フッ、この私に勝てると思っているのか。ドレイクやケルベロスを倒したことで天狗になっているのではないか? 勝つのは私だ。おまえは氷の魔法の真髄を知ることになるだろう。それではかかってくるがよい」

アルテミドラが玉座から立ち上がり、両手を広げた。

アルテミドラから氷の魔力が解き放たれる。

アルテミドラの周囲が気温を下げた。

アルテミドラが得意とするのは氷の魔法だ。

彼女は氷の魔法を極めている。

セリオンは彼女の恐ろしさを味わうことになるのだ。

アルテミドラは氷の剣を作り出した。

氷の剣『氷剣ひょうけん』がセリオンに襲いかかる。

アルテミドラが先制した。

セリオンは転がってそれらを回避する。

セリオンが体勢をもとに戻すと、再び氷剣が上から下へと落下してきた。

セリオンはとっさに後退してそれをかわす。

この程度の攻撃はアルテミドラにとって児戯にすぎない。

アルテミドラはまだ本格的な氷の魔法を温存している。

セリオンは正面から飛んできた氷剣を大剣で砕く。

氷剣は鋭かったが、硬さはそうでもない。

セリオンは大剣でそれを砕くことができた。

「ほう、やるな。だが!」

アルテミドラは氷の弾を出した。

氷魔法『氷結弾ひょうけつだん』である。

氷の弾がセリオンを狙って飛来する。

セリオンはそれも大剣で叩き壊す。

セリオンにとっては簡単なことだ。

「フフフ……楽しいな! これを受けよ! 氷結槍ひょうけつそう!」

氷属性魔法『氷結槍』――氷の槍を撃ちだす魔法である。

アルテミドラは自分の真上に氷の槍を形成すると、それを放ってきた。

セリオンは蒼気を出した。

蒼い闘気が周囲を圧する。

セリオンは蒼気を込めた一撃で氷の槍を砕く。

セリオンは再び大剣をアルテミドラに突き付ける。

「どうした? おまえの攻撃はこんなものか?」

セリオンは歯ごたえの無さを感じていた。

この程度なのか?

だが、まだアルテミドラは本気ではない。

アルテミドラは余裕を浮かべていた。

「フハハハハハハハ! いきがるな! 私の魔法力はこんなものではない! くらうがいい! 多弾・氷結弾!」

アルテミドラは多くの氷の弾を形成した。

そしてそれがセリオンめがけて飛ばされてくる。

セリオンは冷静だった。

これだけの数をセリオンは冷静に受けまった。

セリオンは蒼気を放つ。

凍てつく闘気がほとばし出る。

セリオンは大剣を振りかぶると、飛来する氷の弾を一撃で破壊した。

「つらら!」

アルテミドラがセリオンの上から氷のつららを作って落としてきた。

アルテミドラの氷の魔法がセリオンを徐々に追いつめる。

それはまるで狼を檻に誘導しているかのようであった。

セリオンはステップで氷のつららの落下をかわす。

「多連・氷結槍!」

今度は一度に多数の氷の槍が作られた。

アルテミドラはそれらを一度にセリオンに向けて発射する。

氷の槍がいくつも飛んでくる。

セリオンに逃げ場はない。

セリオンは蒼気を大剣にまとわせた。

そしてそのまま氷の槍に合わせて蒼気の斬撃を放った。

蒼波斬そうはざん!」

セリオンの技は氷の槍をことごとく粉砕した。

氷の槍はすべて破壊された。

「やるな。それに敬意を表してより上の魔法を見せてやろう!」

アルテミドラの周囲の気温が低下する。

セリオンはアルテミドラと戦いつつ、そのあいだ体が次第に凍てつく冷気に侵食されていくのを感じた。

アルテミドラの魔法は体温にまで影響を与えることができるのだろう。

セリオンは決戦を急がなくてはならなくなった。

このままでは体の自由が奪われる。

長期戦になればセリオンが不利だ。

氷塊ひょうかい!」

セリオンの上に氷の塊をアルテミドラは出現させる。

氷塊が落下してくる。

セリオンはダッシュでそれをかわし、アルテミドラに接近して大剣を振るった。

アルテミドラの前に氷の壁が出現する。

それがアルテミドラを守る。

「凍てつく氷よ! アイス・クロイツ(Eiskreuz)!」

氷の十字架が床から出現する。

それはまるで雪の壁のように噴出した。

セリオンはとっさに後退していたおかげで無事だった。

アルテミドラと距離を取る。

「よくかわしたものよ。ここからが私の本気だ。氷の魔法の真髄を、思い知るがよい! 氷天花ひょうてんか!」

デモ行進した市民たちを殺した魔法が、今度はセリオンに放たれた。

氷のつぶてがセリオンに雨のごとく降り注ぐ。

セリオンは蒼気を上方に吹き上げた。

氷のつぶてを吹き飛ばす。

「な、なんだと!?」

セリオンはアルテミドラの油断を逃さなかった。

セリオンは接近して、アルテミドラに斬りつける。

アルテミドラは氷の壁を出したが、セリオンの大剣はそれを貫き、アルテミドラにその刃を突き刺した。

「がっ!? バカな……!?」

アルテミドラは倒れた。

致命傷だ。

もはやアルテミドラは助からないだろう。

これが孤独な独裁者の最期であった。

アルテミドラは一人だ。

アルテミドラはどこまでいっても孤独だ。

彼女は誰も信用できなかったのだろうか。

彼女は自分一人で完結していたのだろう。

さびしい死だ。

「くっ……申しわけありません……『アルテミドラ様』……」

「何だって!?」

セリオンは自分の耳を疑った。

なぜ自分で自分の名をつぶやくのか……。

これではまるで別人のアルテミドラがいるかのようではないか。

<セリオン・シベルスクよ、聞こえるか?>

その時上方から声がした。

女の声だ。

セリオンはこの声に聞き覚えがあった。

どこかで聞いたことがある。

それはどこだったか? 誰のものだったか?

「その声……おまえはドリスか!?」

<そうとも。この私こそが本当のアルテミドラだ。おまえが倒したのは黒魔女ヘカテ(Hecate)。この私の影武者だ。フッフッフ……大活躍ではないか、セリオンよ。この私は幻宮ラビュリントス(Labyrinthos)にいる。おまえを招待しよう。聖堂にゲートを開けておく。この私のもとにまでやってくるがいい。私たちはおまえを歓迎してやろう。それではセリオン、おまえと戦えることを、心から願っているよ。フハハハハハハハハハ!>

「本物のアルテミドラか……いったんテンペルに戻るか」



エスカローネは聖堂で祈っていた。

セリオンは無事だろうか。

セリオンは単身で敵のもとに行った。

エスカローネがいては足手まといになる。

エスカローネはセリオンについていきたかったが、無理だった。

これもスルトの作戦なのだから。

セリオンはきっと勝つ。

それはセリオンが負けないという意味ではない。

セリオンは時に、負ける。

敗北そのものは悪くない。

セリオンはその後必ず挽回して勝つのだ。

だから、エスカローネはセリオンを信じられる。

セリオンは立派な戦士だ。

エスカローネの喜びは彼の隣で戦うこと。

エスカローネも一人の女戦士クリーガリンなのであった。

突然、パリンとガラスが砕けるような音がした。

「フフフ……神に祈っているのか?」

エスカローネが振り返る。

「あなたは……」

エスカローネの前に赤い前髪を角のように湾曲させた、深紅のドレスを着た女が現れた。

エスカローネはその女に既視感を覚えた。

この女性は魔女だ。

エスカローネには魔女の知り合いなどいない。

だが、この魔女には覚えがあった。

どこかで私はこの魔女と出会っただろうか?

エスカローネはどの瞬間、ひらめいた。

「あなたは……ドリス、さん?」

魔女の顔が称賛に満ちる。

「ほう……この姿の私を見抜くとはな。この私はアルテミドラ。暗黒の大魔女アルテミドラだ」

「そんな……アルテミドラは……」

「フッ、セリオンが倒しに向かったか? 残念だがあれは偽物だ。この私こそが正真正銘のアルテミドラだ。さて、エスカローネよ、おまえにはこの私と共に来てもらうぞ」

エスカローネが手に魔力を集める。

エスカローネの意思は拒絶を示した。

「あなたには従わないわ!」

「そうかな?」

アルテミドラが優雅に手をかざす。

するとエスカローネを黒い縄が縛った。

「ああ!?」

エスカローネが姿勢を保てずに倒れる。

だが、その目は反抗していた。

「フフフ、いい目だ。存分に私をにらむがいい。それでは行こうか。幻宮ラビュリントスにな」

エスカローネとアルテミドラを赤い魔法陣が包み込む。

刹那、二人は消えていた。

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