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英雄叙事詩 Das Heldenlied  作者: 野原 ヒロユキ
~Himmel und Erde~
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ドレイク

セリオンとドレイクの戦いが始まろうとしていた。

セリオンは大剣を、ドレイクは大型曲刀を持っている。

この二人の武器は形状こそ違ったが、その大きさは似ていた。

「フッフッフ! 俺はうれしいぞ、セリオン・シベルスクよ?」

ドレイクが曲刀を肩に担ぐ。

ドレイクの表情は彼のうれしさを能弁に語っていた。

ドレイクは心からセリオンとの戦闘を楽しもうとしているのだ。

それは戦士の顔だった。

「何がそんなに楽しいんだ?」

セリオンはそっけなく答えた。

セリオンとて戦士である。

戦いに身を置く人間である。

戦って楽しいという感情はセリオンにもあった。

ただし、セリオンは『戦闘狂』ではなかった。

目の前のこの男は『戦闘狂バトルマニア』にしか見えない。

セリオンは饒舌なタイプではない。

セリオンは行動の人だ。

行動こそ、セリオンを特徴づける。

「フッフッフ! 俺はツヴェーデン軍にいた時からおまえのことを知っていた。シベリア人に強い戦士がいるとな。どんな奴か興味があった」

ドレイクは口元に愉悦を浮かべる。

その眼光が蛇のようにセリオンをにらみつける。

ドレイクは例えるなら『蛇』だろうか。

「俺はおまえには興味がない」

セリオンは淡白に応じた。

「つれないな。俺はずっとおまえと戦ってみたかった! そして、今の俺はアルテミドラ様の戦士だ! さあ、存分に戦おうじゃないか!」

ドレイクが獰猛な笑みを浮かべてセリオンに斬りかかる。

セリオンはそれを迎え撃つ。

二人の剣が交差する。

セリオンはふしぎとこの男に怒りや憎しみは抱かなかった。

セリオンには闘志があふれていた。

自分の心にあるのは、自然に抱くこの気持ちはむしろ『憐れみ』。

魔女に魂まで売り渡しても自分と戦いたいという男への……。

セリオンはその挑戦を受けることにした。

今はまだ腕の探り合いだった。

ドレイクは心から戦いを楽しんでいる。

もっとも、戦いに生きるのはセリオンも同じだ。

セリオンも戦いでは気分が高揚する。

セリオンの20年は戦いの連続だった。

セリオンは戦士クリーガーだ。

それは戦いに生きがいを見出す人種ということだ。

セリオンもドレイクも互いに拮抗していたが、それは互いの力量を探っていたからだ。

まだ、二人は実力を披歴していない。

また、互いに大型武器を持っているだけあって、リーチは同じだった。

これは同じ間合いで戦うということだ。

「フッハッハッハッハ! どうした、セリオン・シベルスク! おまえの実力はこんなものか!」

これはドレイクの挑発だ。

ドレイクはセリオンに自分の手の内を披露させようとしている。

セリオンは当然その挑発には乗らない。

ドレイクが乱舞のごとき曲刀を振るう。

セリオンは大剣でそれを器用に受け流す。

互いに大型武器を使っているせいか、斬撃の応酬は重かった。

だが、まだ双方本気を出していない。

その証拠に互いの表情には余裕が感じられた。

セリオンは下から強烈な斬撃を出す。

ドレイクは曲刀を水平にして受ける。

セリオンはさらに攻める。

「ぐぬうっ!?」

ドレイクの顔が苦悶に歪む。

剣技ではセリオンの方が上らしい。

ドレイクは瞬時に後退した。

「……さすがだな。アルテミドラ様がおまえを危険視する理由がよくわかる。ここから俺の真の力を見せてやるとしよう。この俺はアルテミドラ様に恩義を果たさなければならないのだからな」

「いったい何の恩義があるんだ?」

「フッ、それは俺とアルテミドラ様の出会いを語らねばならないな」

ドレイクは曲刀を下ろした。

そのまま自分の過去を語りだす。

「俺はもともとツヴェーデン軍ではそれほど強くなかった。どちらかと言えば、社会の落ちこぼれと言ったところだった。俺が軍隊に入ったのは、軍隊は実力が優先される社会だからだ。少なくとも、貴族だからと言って優遇されるわけではない。昇進はあくまで実力による。俺の両親は共に軍人だった。だから、俺が軍に入ったのは必然とも言えた。俺は幼少のころから暴力ざたを起こしていた。社会の規範になじめなかった。今思えば俺は社会に反発していたのだ。学校にはろくに通った覚えがない。教師とはたえず対立していた。そんな俺も職に就く必要が訪れた。俺はもちろん軍隊に入った。軍隊では暴力も認められた。だが、俺の実力は壁にぶつかった。俺は所詮ただのチンピラでしかなかったのだ。それが俺の挫折だった。俺は自分を恨んだ。自分に怒った。自分を呪った。自分の限界に出くわしたわけだ。そんな時だった、アルテミドラ様と出会ったのは。あの方は言った、『闇の力を与えよう。そうすればおまえは強き戦士になる』と。そして俺は闇の力を受けた。それによって俺はツヴェーデン軍の中でも突出した存在になった! おまえの友人の『あの男』のようにな!」

ドレイクが一気に吐き出すように語りつくした。

ドレイクはおそらく社会の価値観に適応できなかったのだろう。

ドレイクは適応を拒否した。

むしろ、闇の力を得て反社会的な存在になったのだ。

ドレイクは社会に復讐したのだ。

自分を受け入れないもの……自分がなじめないものに対して、暴力で突きつけたのだ。

ドレイクにとって『力こそすべて』という価値ほど魅力的なものはない。

そして軍隊は彼の粗暴さを受け入れる装置だった。

セリオンにはかつて一人の『友人』がいた。

彼は自らの意思でツヴェーデンを去った。

今どこで何をしているかそれはわからない。

風の噂では死んだとも言われている。

「あいつはおまえとは違う。あいつの力はあいつ自身の力だ。おまえのように魔女から与えられたものじゃない」

「フッ、そんなことはもはやどうでもいい! 俺には力がある! そして俺はこの力を使いたい! さあ、来いセリオン・シベルスク! この俺がおまえを叩きのめしてやる!!」

ドレイクはセリオンに斬りかかる。

ドレイクの曲刀から炎が爆ぜた。

ドレイクの技『爆炎剣ばくえんけん』だ。

爆炎の中から現れたのは、セリオンの氷の大剣。

氷がセリオンの大剣を包み込んでいた。

セリオンの技『氷結刃』である。

「ほう、俺の炎を防いだか。だが、そうこなくてはな! 力こそすべてだ! シャアアアアアアア!」

ドレイクが蛇のように曲刀で爆炎剣を繰り出す。

ドレイクはセリオンの氷の大剣に打撃を与えていた。

セリオンは再び氷を形成する。

「さあ、とどめだ! もっと楽しみたいところだが、アルテミドラ様への報告もある……これで終わらせてもらうぞ! 爆炎一刀斬ばくえんいっとうざん! はあああああああ!!」

ドレイクは爆炎の波動をセリオンめがけて斬り下ろした。

爆炎はセリオンを呑み込んでしまった。

ドレイクは己の勝利を確信した。

セリオン・シベルスクは焼き焦げているに違いない。

ドレイクが口元を湾曲させる。

しかし……。

爆炎が収まった。

その中から無傷のセリオンが現れた。

ドレイクは愕然とする。

「なっ、バカな……無傷だと!?」

ドレイクには信じがたい光景だった。

あの技を受けても無傷とは……。

どんな手品を使った!?

「この技でなければ防げなかった」

セリオンの大剣には輝く氷の刃があった。

技には初級、中級、上級のランクがあり、この技『氷星剣ひょうせいけん』は中級に属する。

セリオンは氷星剣でドレイクを攻撃する。

「ぐうううううう!?」

ドレイクが苦しむ。

その瞬間、ドレイクの曲刀にひびが入った。

ドレイクは大きく後退した。

そしてジュナイドとガウルスが倒されたことも知った。

「もう後がないぞ、ドレイク。降伏しろ」

「……」

ドレイクは苦虫を嚙み潰したような顔をする。

その胸には屈辱感があるのだろう。

必死に怒りに耐えている。

ここで暴発しても、返り討ちにあうことが分かっているのだ。

「フン!」

ドレイクはそのままツヴェーデン軍の背後に消えていった。



ケルベリアーナーの敗北はパウルスを恐怖のどん底に叩き落した。

主君アルテミドラから兵力を与えられ、さらにケルベリアーナーまで失ってしまたら、パウルスの命はいくらあっても足りないであろう。

パウルスにはもはやただ一つのことしか頭になかった。

すなわち。

「くっ、くそ! 撤退だ! 撤退する!」

パウルスはジープを反転させると、さっそうと逃げ去っていった。

残ったツヴェーデン兵たちも潰走した。

かくしてテンペルは守られた。



罪と罰……。

ツェツィーリエンホーフの王のではドレイクの苦しむ叫び声がこだましていた。

ドレイクは床の上でのたうち回っていた。

ホールではアルテミドラが竪琴を演奏していた。

アルテミドラが竪琴を奏でるたびに、ドレイクは床で苦しみ、のたうち回る。

これは『血の契約』の代償だった。

主人に絶対従属するのだ。

「セリオン・シベルスクに負けてむざむざ帰ってくるとは……無能者めが……」

アルテミドラが冷たく言い放つ。

アルテミドラは竪琴を奏でながら思案する。

テンペルは二度もこちらの攻撃を退けた。

二度もだ。

これはもはやただの偶然でかたづけられる問題ではなかった。

戦略の見直しが必要だった。

テンペルはマイヤー、パウルスと二人の攻撃に耐えた。

この事実は無視できない。

さらに直属のケルベリアーナーまでもやられたとあっては、アルテミドラのメンツは丸つぶれである。

「それにしても、テンペル! テンペル! 忌々しい組織だ! ここまで戦力を投入しても潰せないとは! ツヴェーデン軍も思ったほどには使えんな! 役立たずどもが! どいつもこいつも無能ぞろいか!」

アルテミドラが吐き捨てるように言い放つ。

実際、ツヴェーデン軍を粛清してしまったのはアルテミドラなので、その責任はアルテミドラにあるはずだが、それは彼女の頭の中にはないらしい。

アルテミドラからすればツヴェーデン軍が無能だからテンペルを落とせないのであって、アルテミドラ自身が悪いわけではない。

アルテミドラは怒りを抑えるように息をはいた。

「許しは聞き入れた、パウルス司令官……」

アルテミドラの前には一つの氷の塊があった。

それはパウルスであった。

パウルスの最期の言葉は『お許しを! 慈悲を! アルテミドラ様!』だったが、パウルスの失態は『死によって』許された。

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