ケルベリアーナー
セリオンたちの前に、黒い戦士部隊が立ちはだかった。
彼らはみな不敵な笑みを浮かべていた。
セリオンは直感で分かった。
こいつらは強い!
彼らも戦士として戦いに身を置く者なのだろう。
セリオンたちと同類というわけだ。
彼らは黒い体にフィットするボディースーツを着ていた。
ツヴェーデン軍の軍服も黒だ。
だが、この者たちはデザインが違うスーツを着用している。
部隊は総勢で30人程度か。
数は大したことはない。
だが、セリオンは彼らから何とも言えない不気味な気配を感じ取った。
部隊を率いるのは三人の男たちのようだ。
一番前の男が接近してくる。
「俺はドレイク(Dreyk)。アルテミドラ様直属の部隊、『ケルベリアーナー』の部隊長を務めている」
ドレイクは長い黒の髪をオールバックにし、黒い額縁メガネに、白いマントをはおっていた。
「ケルベリアーナー? 聞いたことがないな」
サラゴンが首をひねる。
「俺もだ。魔女の直属だそうだが……」
セリオンは彼らが強敵だと思って、いつでも戦えるよう構えている。
「セリオン、サラゴン、気をつけろ」
「アンシャル副長?」
「アンシャル?」
アンシャルがきつい目つきをする。
アンシャルは何かを感じているのかもしれない。
「こいつらは今までの兵士とは違う。戦闘のプロフェッショナルだ。さらに、こいつらは闇の力を受けている」
「闇の力?」
セリオンはそれが危機感の正体かと思った。
ケルベリアーナーは大魔女アルテミドラと『血の契約』をかわすことによって、闇の力を手に入れた者たちである。
いわば魔女の『狂犬』と言える。
彼らは魔女の血を飲んで、あふれるばかりの力を手にした。
この契約は主人の血を必要とするため、あまりたくさんの者とは契約できないのだ。
それにこの力には代償もあった。
「フッ、我らに勝てると思うなよ」
「クッククク! こんな奴らぶっ殺してやるぜ!」
ジュナイドとガウルスが吠える。
セリオンはそれを見て闘志を燃やした。
「アンシャル、俺はドレイクと戦う。ほかの二人は任せる」
「いいだろう。サラゴン、あの短髪の男と戦ってくれ。私は長髪のをやる」
「わかりました!」
セリオンVSドレイク。
アンシャルVSジュナイド。
サラゴンVSガウルス。
この三組ができ上った。
残りのケルベリアーナーは聖堂騎士たちと戦う。
アンシャルはジュナイドと対峙した。
ジュナイドは手にハルバードを持っている。
「アンシャル・シベルスクが我の相手か。フッ、我が力の前に敗北するがよい!」
ジュナイドからは勝利の自信を感じた。
アンシャルは口元を歪める。
ジュナイドは若い者特有の傾向を持っていた。
つまり、一種の傲慢さである。
「さて、そううまくいくかな? 来い、相手をしてやろう」
「フン! その余裕、いつまで持つかな!」
ジュナイドが動いた。
そしてそのままハルバードで突きを繰り出す。
「フン、調子に乗るなよ!」
ジュナイドが言った。
そしてそのままハルバードで突きを繰り出してくる。
アンシャルはそれを受け流す。
ジュナイドは若い。
それゆえに短気で浅慮という欠点があった。
「うおおおおおお!」
ジュナイドの荒ぶる連続攻撃。
アンシャルは軽く読んでさばいていく。
「ほう……若いくせになかなかやるな」
アンシャルはジュナイドに余裕を見せる。
ジュナイドはそれが気にくわないらしい。
むしろ怒りを見せる。
「ほざけ!」
ジュナイドがハルバードの斧部で打ちつけてくる。
アンシャルはそれを的確にガードする。
「どうした? そんな攻撃ではこの私には通じないぞ?」
「なめるなあ! 地爆殺!」
ジュナイドはハルバードから岩の槍を出す。
アンシャルは横にかわして無事だった。
アンシャルはジュナイドの攻撃を予測できる。
ジュナイドは直情的だ。
そのため、アンシャルは年若いジュナイドの攻撃をかわすことができた。
しかも、ジュナイドはこちらの挑発に乗ってくる。
まことにアンシャルとしては戦いやすい。
ジュナイドはあしらわれていることに気づいていない。
「死ね! 地爆破!」
ジュナイドのハルバードから岩の塊が出させる。
これは範囲内にいたら、防御も回避も不可能だ。
しかし、アンシャルには手がないわけでもない。
相殺ならできる。
「風月斬!」
アンシャルは風の刃で岩の塊を押し返す。
「なんだと!?」
ジュナイドが驚く。
ジュナイドにとってはさきほどの攻撃は必殺の一撃だった。
それを迎撃されたことが、ジュナイドには信じられなかった。
だが、ジュナイドにとっておよそありえないことであっても、アンシャルにとってはそうではない。
「風切刃!」
アンシャルの技『風切刃』は風のカッターを放つ技だ。
技の発射スピードは速く、しかも強力な切断力を持っている。
技には三種類あり、三つに分類されている。
初級技、中級技、上級技の三つである。
この内、『風切刃』は初級技に当たる。
風のカッターはジュナイドに正確無比に向かって行く。
ジュナイドはハルバードを振るってそれをかき消す。
「無駄だ! そんな技など……!?」
アンシャルは一気にジュナイドの前に移動する。
ジュナイドからしたら、消えたように映ったであろう。
アンシャルは『風切刃』でジュナイドの意識を別の方向に誘導すること。
アンシャルは接近すると、長剣でジュナイドを突き刺した。
「がっ!?」
ジュナイドは愕然として、膝を付く。
その目は大きく見開かれていた。
「私の勝ちだ」
アンシャルは長剣を引き抜く。
ジュナイドはそのまま倒れた。
「くっ……この、私が……」
ジュナイドは息絶えた。
一方、サラゴンとガウルスは……。
「へへへ! 俺の相手はおっさんかよ! こいつは楽勝だな!」
ガウルスがサラゴンを見下す。
サラゴンからすればこれは失笑を禁じ得ない。
戦うのなら、油断したり、見下したりしていた相手の方が戦いやすい。
そこには慢心が生じる。
「フン! わたしはまだ30だ!」
サラゴンもそこは強調する。
まだまだサラゴンは若者に席を譲る気はない。
「へん! 30はもう立派におっさんだろ!」
ガウルスが舌鋒鋭く口撃してくる。
ガウルスからすればサラゴンはザコに見えるらしい。
サラゴンは愛用の黒い長剣を抜いた。
その名は黒曜の長剣『オブシディアン(Obsidian)』。
「いっくぜえ!」
ガウルスがジャンプして、サラゴンをクローで攻撃してきた。
サラゴンはそれを長剣で受け止める。
重い!
ガウルスの一撃はサラゴンが思った以上の攻撃だった。
ガウルスはほくそ笑むと、クローですさまじい連続攻撃を繰り出した。
サラゴンは重い一撃一撃を防ぐので精一杯だ。
ガウルスの攻撃は嵐を思わせた。
その時、ガウルスは蹴りを出した。
「うおあっ!」
サラゴンはガウルスに吹き飛ばされる。
油断していたわけではない。
それでもサラゴンはこの蹴りをかわせなかった。
サラゴンは地面に倒れる。
この戦士は本当に闇の力を得て、魔女の狂犬となったのだろう。
ガウルスは今までサラゴンが戦った敵の中でも強敵だ。
「いたたた……」
サラゴンはすばやく立ち上がる。
サラゴンは目でガウルスをにらんだ。
再び長剣を構える。
ガウルスは調子に乗った。
「へへっ! タフなおっさんだぜ! 命乞いでもするか? 苦しくないように殺してやるよ!」
ガウルスの言葉がサラゴンの気に障る。
サラゴンは不快感を隠さなかった。
戦いはガウルスが優勢だった。
サラゴンは技量ならアンシャルに匹敵するほど高いが、パワーとなるとセリオンには劣る。
サラゴンが苦手なのはパワーと技量、両方を備えているタイプだ。
ガウルスはこのタイプに当たった。
「誰が、命乞いなどするか! 私をなめるなよ!」
サラゴンは立ち上がって長剣をガウルスに向ける。
サラゴンの闘志はこんなものでは揺るがない。
それにサラゴンには戦う理由がある。
サラゴンには娘がいる。
まだ10歳の一人娘だ。
名はダキ・ダンスカ(Daki Danska)。
サラゴンには妻がいた。
名はリナ(Rina)と言った。
彼女はある事件で命を失った。
サラゴンは愛する妻を失った。
サラゴンは呆然自失となった。
自分はなぜ生き残ってしまったのか、それが分からない。
自分はなぜ生きているのか?
これからどうすればいいのか?
娘を自分一人で育てられるだろうか?
サラゴンは真剣に悩んだ。
そんな時だった。
アンシャルが声をかけてくれたのだ、テンペルに入らないかと。
サラゴンもシベリア人であった。
資格なら十分にある。
そしてサラゴンは娘を守るため、戦いに身を投じた。
サラゴンの長剣から『黒いもの』が出た。
それは黒い炎だった。
「な、なんだ、そりゃあ!?」
こうも驚いてくれるとはおもしろい反応をしてくれる。
これはサラゴンの炎技『黒炎剣』だ。
「これは炭火の炎だ。言っておくが闇の炎ではないぞ? さあ、勝負だ!」
それを見て、ガウルスが不敵に笑う。
「へっ! そんなものにビビるかよ! 死にやがれ! 金剛爪!」
ガウルスが力いっぱいに、土属性の技で攻撃してくる。
あんなものを受けたらサラゴンでもやられてしまうだろう。
しかし、黒炎剣は金剛爪を完全に止めた。
「うそだろ!?」
「今度はこっちの番だ!」
今度はサラゴンが攻勢に回る。
サラゴンは黒い炎で乱舞する。
サラゴンによる黒い炎の猛襲。
「ぐっ!?」
ガウルスが顔をしかめた。
明らかにサラゴンはガウルスを追いつめている。
ガウルスはクローでサラゴンの攻撃をしのいでいるが、しだいに劣勢になってきた。
このまま行けば、サラゴンはガウルスに勝てるだろう。
「くそが! ここでやられるかよ! 金剛昇!」
ガウルスが土の魔力を上昇させる。
これはガウルス自慢の一撃だ。
だが、その時サラゴンはガウルスの背後にいた。
実はサラゴンの一番の強みは、その脚力による瞬発力であった。
それこそが、サラゴンの隠された武器だったのだ。
ガウルスは技の発動で隙だらけだった。
この隙を見逃してやるほどサラゴンは甘くない。
サラゴンはガウルスを長剣で斬りつけた。
ガウルスはそのまま倒れた。
「く、くそったれ……」
ガウルスの意識は闇に落ちた。




