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英雄叙事詩 Das Heldenlied  作者: 野原 ヒロユキ
~Himmel und Erde~
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漆黒の三魔女バシュヴァ

セリオンは赤いバラを求めて花屋にやって来た。

花屋には色とりどりの花が置いてあった。

セリオンは母ディオドラに花をプレゼントするために買いに来たのだ。

バラはディオドラが好きな花だった。

「お花をありがとうございます。大切にしてくださいね」

女性店員の声がかかる。

「ありがとう。Danke,schön」

セリオンは日々の感謝を伝えるためにバラの花を買ったのだ。

ディオドラはきっと喜んでくれるだろう。

いまからディオドラの笑顔が浮かぶようだ。

セリオンはディオドラに喜んでもらいたかった。

セリオンは通りを歩き出した。

そこには都会特有の喧騒があった。

セリオンは突然違和感を感じた。

セリオンはいつしか別の空間に引きづりこまれた。

「……罠か。いったい何者だ?」

セリオンは大剣を出す。

「ようこそ、セリオン・シベルスク。我々は漆黒の三魔女バシュヴァ(Baschwa)。おまえの命――我々がもらい受ける!」

目の見えない長い黒髪の女が言った。

「きさまの命――ここで果てるのだ!」

「あんたなんかやっちゃうんだからねー!」

敵は三人だった。

バシュヴァとはこの三人組を言うのであろう。

「私はモルヴァン(Morwan)」

「我はマヴァハ(Mawaha)」

「あたしはネヴァハ(Newaha)」

セリオンはバラの花束を地面に置いた。

できればこれを傷つけたくない。

「モルヴァン、マヴァハ、ネヴァハか。おまえたちはなぜ俺の命を狙う?」

「それはおまえが我々にとって脅威となるからだ。危険な芽は今のうちに摘み取っておかねばならない。いざ参る!」

三人の魔女たちは黒い翼で飛翔してきた。

三人は黒い槍を構えて、セリオンに攻撃してくる。

セリオンはマヴァハとネヴァハの槍を大剣で受け止める。

「俺を殺したいのなら、本気で来い。でないと、そちらが死ぬぞ?」

モルヴァンが上から槍で斬りつけてくる。

セリオンは蒼気でマヴァハとネヴァハを吹き飛ばす。

「うおっ!?」

「ぎやあっ!?」

マヴァハとネヴァハが悲鳴を上げる。

モルヴァンの攻撃はセリオンは大剣でガードする。

そのまま、モルヴァンは槍で連続突きを繰り出してきた。

セリオンはそれを鮮やかに防ぐ。

モルヴァンの突きは一流だが、それだけではセリオンに届かない。

「くっ……これほどとは……」

バシュヴァは三人で集まった。

三人とも槍に黒い闇の魔力を込める。

「私たちは三人で一組! その力は三人同時に攻撃してこそ発揮される!」

「こいつで終わりだ!」

「これを見ても平然としていられるかなあ!」

バシュヴァが嬉々とした。

彼女たちの魔力が上がる。

「死ぬがいい! 闇投槍あんとうそう!」

闇をまとった槍がセリオンに投げつけられた。

セリオンは光の大剣を出してそれを相殺する。

闇がセリオンを包み込む。

「……」

「死んだか?」

「あれをくらって生きているわけがないよ!」

闇の中から光の刃が現れた。

光の刃はモルヴァンたちに向かって飛んでいく。

モルヴァンたちは翼をはばたいてそれを回避する。

「何……!?」

「まさか!?」

「そんな!?」

バシュヴァが驚愕の叫びを上げる。

セリオンは無傷で立っていた。

モルヴァンがけわしい表情をする。

彼女は見えない目でセリオンを見つめる。

「……今回は我らの負けだ。だが、次はそうはいかぬ! 次の機会におまえの命をもらい受ける! 覚悟しておくのだな! マヴァハ! ネヴァハ! 撤退する!」

「……わかった」

「次はそうはいかないよ!」

バシュヴァは亜空間から去った。

セリオンは元の空間に戻ってくる。

セリオンはバラの花束を大切に手にした。



セリオンはディオドラのもとに戻ってきた。

ディオドラは聖堂で花に水をやっていた。

「母さん」

「あら? セリオン? どうしたの?」

「これを母さんに」

セリオンは赤いバラの花束を渡した。

「あらー! きれいなバラね! いい香りね……どうしたの、こんなものを買ってきて?」

セリオンは二っと笑った。

セリオンは深くディオドラに感謝していた。

ディオドラは日々、テンペルの戦士たちの食事を作っている。

ディオドラは糧食部の部長でもあった。

ディオドラは毎日食事作りで忙しい。

時間が開いた時に、ディオドラは祈ったり、ガーデニングなどをしていた。

そんなディオドラに感謝の想いをセリオンは伝えたかったのだ。

「普段の日々の感謝を込めて。母さんのために買ってきたんだ」

「あらあら、まあまあ、それはうれしいわね。ありがとう、セリオン。私はうれしいわ。このバラは花瓶に移させてもらうわね」

よかった。

ディオドラは喜んでくれたようだ。

セリオンの想いはディオドラに伝わった。

俺は口にしないと伝わらないこともあると思う。

俺は毎日の激務をこなしている母さんを見て、感謝すべきだと思った。

なんでもいい。

セリオンは何か感謝のためにお礼がしたかったのだ。

シベリア人は成人すると親元を去る。

そうして独立した生活をするようになるのだ。

セリオンが母に対してここまで献身ができるのは、母親からそれだけ分離、独立しているからでもある。

「セリオン、帰ってきたのか」

「アンシャル」

「アンシャル兄さん」

アンシャルがディオドラが持っているバラを見る。

「そのバラは?」

「セリオンが買ってきてくれたのよ」

「ほう……セリオンが花をな……」

アンシャルはほほえむ。

「とってもいい香りがするでしょう?」

「ああ、いい香りだ」

「アンシャル……」

「? どうした?」

セリオンはさきほどのバシュヴァの件を話そうとした。

「俺は魔女に襲われた」

「何だと?」

「そいつらは漆黒の三魔女バシュヴァと名乗った。アンシャルは知っているか?」

アンシャルは聖堂博士と呼ばれるほど博識であった。

それゆえにセリオンは敢えてアンシャルに尋ねたのだ。

アンシャルなら何か知っているだろうか。

アンシャルはかぶりを振った。

「いや、私も初めて知る名だ。よく無事に帰って来れたな」

「ああ、三人同時攻撃をしてきた。手ごわい相手だったよ。アンシャルはどう考える?」

「そうだな。何者かがおまえの命を狙っているのだろう。おまえがファーブニルを倒したことは子供でも知っている。それだけ、おまえを危険視しているのだろうな。ともかく、よく帰ってきてくれた」

アンシャルは心配してくれたのだろう。

安堵しているのが分かる。

「誰が俺の命を狙ったのだろう?」

「さあな。見当もつかない」

「セリオン……あなたの命はあなただけのものでもないわ。私も、エスカローネちゃんも心配するわよ?」

「わかっている」

セリオンは断言した。

セリオンはディオドラを心配させたくなかった。

だが、脅威が去ったわけではない。

しばらくセリオンは警戒をすることにした。

セリオンにはエスカローネがそばにいることになった。

エスカローネがいっしょなら心強い。

セリオンとしても安心だった。



「おまえたちにあの男を殺せと命じた覚えはないが?」

「は……」

赤い魔女がひざまずくバシュヴァの面々に告げた。

この赤い魔女は魔女の中の魔女、大魔女だった。

彼女はモルヴァンたちのあるじだ。

モルヴァンは赤い魔女に対して恐怖を感じる。

だが、赤い魔女はセリオン暗殺の失敗を聞いても気分を害しなかった。

それどころかむしろ楽しんでいるように思える。

モルヴァンは下を向き、赤い魔女に視線を合わせない。

今回のセリオン襲撃はモルヴァンたちバシュヴァの独断だった。

セリオン・シベルスクは我々の脅威となる、そう思っての行動だったのだ。

この赤い魔女はモルヴァンたちの心理を見抜いている。

赤い魔女は人間の心理を読み取るすべにたけていた。

そのため、モルヴァンたちの恐怖が彼女には手に取るようにわかるのだ。

「フフフ……おもしろいな」

「おもしろい?」

モルヴァンは不信に思う言葉を聞いた。

私が聞き間違えたのだろうか?

「おもしろい、と言ったのだ。聞こえなかったのか?」

「いえ……」

モルヴァンは戸惑った。

我らがあるじは何がおもしろいのだろう?

うまくいかないのなら、問題があるはずではないか。

うまくいってこそのはず。

モルヴァンにはあるじの考えが分からない。

「フフフ……モルヴァンよ、理解できないという顔だな?」

「はい……」

モルヴァンは今度は魔女の顔を見る。

もっとも、視力の無いモルヴァンでは赤い魔女の顔は見えないのだが。

「私はことがうまくいかないのを楽しんでいるのだ」

「楽しい? なぜですか?」

モルヴァンは問うた。

ことはうまくいく方がいいはず……モルヴァンにはあるじの考えが理解できない。

それともあるじには深謀遠慮があるのだろうか。

「私はことがうまくいきすぎても面白くないと思っているのだ。セリオン・シベルスクはおまえたちバシュヴァの襲撃を退けた……それが私の心を燃え上がらせる」

「……」

赤い魔女は笑って、雰囲気をやわらげた。

「安心しろ。私はおまえたちのは敗北を望んでいるわけではないのだ。私にとっておまえたちは大切な部下だ。部下が死んでおもしろいと思うか?」

「……思いません」

「そうだ。では、おまえはどう思う、シュヴァルツ(Schwarz)よ?」

赤い魔女の前に一人の黒い鎧騎士がいた。

彼はシュヴァルツ。

歴戦の戦士だ。

シュヴァルツはモルヴァンの同僚だった。

共に赤い魔女に仕える部下だ。

「わたくしは必ずセリオン・シベルスクを抹殺してごらんに入れます。この私に機会を!」

シュヴァルツが重い声で願い出る。

バシュヴァとシュヴァルツは仲が良くない。

あるじの寵愛を得ようと競い合っているくらいだ。

「よかろう。やってみるがいい。見事セリオン・シベルスクをしとめてみせよ」

「はっ!」

シュヴァルツは立ち上がると、くるりと回って退出していった。

「くっ……」

それを見て、モルヴァンは悔しがる。

セリオン・シベルスクを倒せなかった失態を犯しただけでなく、その相手の抹殺任務を奪われるとは!

このままではバシュヴァの名が廃る。

「悔しそうだな、モルヴァンよ」

「当然でございます」

「そうか。フフフ、フフフフフフフ……」

赤い魔女が妖艶な笑みを浮かべる。

こうしてセリオンを狙った陰謀が行われつつあった。

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