演劇
会議室にメンバーが現れた。
会議室の机は円形であった。
メンバーはスルト、アンシャル、ディオドラ、セリオン、エスカローネ、ナスターシヤだった。
スルトがまずあいさつする。
「さて、皆に集まってもらったのはほかでもない。劇の上演についてだ。劇の上演は我々の伝統だが、今年は何の劇をやるのがいいか、ここで決めようと思う。今回決定していることはセリオンとエスカローネを主演にするということだ。この二人を主演にすると、どんな物語がいいだろうか?」
「はい」
「何だ、ディオドラよ」
「セリオンが王子役、エスカローネちゃんが王女役をやるのはどうですか?」
「ふむ……そういう物語があるだろうか」
「はい」
「ナスターシヤよ」
「ベラ(Bella)ならどうでしょうか?」
「『ベラ』か。ほかの者たちはどう思う?」
「私はいいと思う」
アンシャルがまず賛同した。
「いいんじゃないか」
「いいと思います」
セリオンとエスカローネも同意する。
徐々に合意が形成されてきた。
「いいんじゃないかしら」
ディオドラも同意し、これでメンバー全員が納得した。
スルトは話をさらに進める。
「それでは今回の劇は『ベラ』をやることにする。キャスティングはどうするか?」
「セリオンが王子様役、エスカローネちゃんがベラ役でいいと思います」
ディオドラが提案する。
「後は悪い母親役はどうする?」
アンシャルが言う。
「僭越ながら、私がやらせていただけるとうれしいです」
ナスターシヤが手を上げた。
少し、緊張しているのだろうか。
「スルト、いいと思うぞ」
真っ先にアンシャルが認める。
それにスルトも同意した。
「ふむ……反対もなし、か。よし、それではナスターシヤに決定だ」
「ありがとうございます!」
ナスターシヤが礼を述べた。
ナスターシヤの目は輝いていた。
よほどやりたかったのであろう。
これで主要な人物のキャスティングは決定した。
後は、細部を決めていくだけだ。
こうして、劇の上演と練習が決まった。
劇は旧市街地にある半円形広場で上演される。
この日を広告で知らせていたので、大勢のシュヴェリーン市民が広場に集まった。
観客で席が埋まっている。
人々は劇の上演を今か今かと楽しみにしていた。
セリオンとエスカローネはひそかに観客を眺める。
「うわー、たくさん見に来ている人がいるな」
セリオンは緊張してきた。
セリオンはこんなに多くの人々が来てくれるとは思わなかった。
「それはそうよ。テンペルの劇と言ったら有名だもの」
二人はもう舞台衣装に着替えていた。
セリオンは王子のコスチューム。
エスカローネは貧民のコスチュームをそれぞれ着ていた。
「エスカローネは初めて劇に出るのか?」
「ええ、そうよ。セリオンは?」
「俺も初めてだ。うー……緊張するな」
「ウフフフ! セリオン様も緊張するんですかー?」
「こらこら、ナターシャ」
そこにライザとナターシャがやってくる。
二人も出演する。
もっとも、二人の役はヒロイン『ベラ』の義姉でベラをいじめる役だ。
「これなら、剣舞祭や武闘大会のほうが緊張しないな。それにしても、二人ともにあっているじゃないか。しっかり役を務めてくれよ?」
「もちろんですー!」
「わかっております」
ナターシャとライザが首肯する。
二人ともテンションが高いのか、ほおが上気していた。
この二人も劇の出演は初めてだ。
今回の劇では初出演者が多い。
それに年齢も若い人がいた。
「練習の成果を出すときね!」
かくして劇が始まった。
オープニング。
ベラと二人の義姉ポリーヌ(ライザ)とマヤ(ナターシャ)。
「ベラ! ここがまだ汚れているぞ! いったいどこを見て掃除しているんだ!」
ポリーヌがベラを叱責する。
ポリーヌはベラに厳しい。
というより一方的に嫌っていた。
ポリーヌはベラをいじめたくて、口実を探しているのだ。
「ごめんなさい……すぐに掃除します……」
ベラはしょんぼりしながら掃除を始める。
こうしたことはよくあった。
さっきもポリーヌはわざと汚して、ベラに掃除させたのだ。
ポリーヌの義妹へのいじめは陰湿だった。
「あーら! ごめんあそばせ!」
マヤがベラを突き飛ばした。
ベラはそのまま前に倒れてしまう。
「ほんといやねー! 鈍感でまるで豚ね!」
マヤが暴言を吐く。
ベラはよろよろと立ち上がった。
この二人はベラの義姉妹だった。
ベラの父シャルルはベラの義母アンヌ(ナスターシヤ)再婚して家族になった。
父シャルルは戦争で遠くに行っているため、それをいいことに義妹のベラは二人の義姉に散々いじめられていた。
ベラはこの程度のいじめはもう慣れてしまった。
この二人はベラの美しさに嫉妬していた。
それがいじめの理由だった。
そのため、この二人はベラにできる限り地味な服を着せ、召使のようにこき使っていた。
掃除の汚れなど言いがかりにすぎない。
彼女たちはいくらでも口実を設けてベラをいじめる。
そんなベラにとって唯一の楽しみは本を読むことだった。
本を読んでいると、すべての嫌なことを忘れて、本の世界に没頭できる。
ベラは本を読んでいるとき幸せだった。
家には父の蔵書があって、さすがにそれはポリーヌやマヤでも傷つけることはできなかった。
書斎でベラが本を読んでいると、そこに義母のアンヌがやってくる。
「まったく、よくそんなことをしていられるね。もう少し、活動的になったらどうなんだい? 本を読むなんて、陰湿なやつのすることさ」
それは明らかに偏見であった。
アンヌからすれば、アクティブとは何らかの身体的行動を意味するのだろう。
場面変化。
王国には国王と王子がいた。
国王は王国をよく収めた。
国王ルイは近年、その財務知識によって財政基盤を確立し、国の経済力を高め、さらに税制改革を行って、国をよく治めていた。
そのため、名君との誉れが高かった。
ただそんな国王にも悩みがあった。
それは息子王子に婚約者がいないことだった。
王座に座って国王が告げる。
「王子アンリよ、私はおまえに不満がある」
「それは何でしょう、陛下?」
「おまえももう年頃だ。そろそろ妃を見つけて孫の顔を見せてもらいたい」
「それは……」
「結婚は王族の義務だ。そなたは王朝の系譜をつなげねばならぬ」
王子は息がつまった。
この話は耳がタコになるほどもう聞いた。
国王はしきりに縁談を薦めてくる。
王子はそれに反論できなかった。
それは理にかなっていたし、王族の義務だったからだ。
本来なら王子の意見など無視して決めてもいいのである。
王族の結婚と言えば政略結婚と決まっている。
王子はため息をついた。
「今週の夜に晩餐会を予定している。それまでの間に王妃を探せ。もしこれを断るようであれば、強制的に決めるぞ?」
国王が恫喝してくる。
王子は仕方がないとして承諾した。
これは結婚のためのイベントだ。
自分はどうして王子などという身分に生まれてしまったのであろうか。
一般の、市政の子供に生まれていれば、好きな人と結婚できたであろう。
だが、俺は王子だ。
この国の王子であり、王族であり、将来の国王だ。
将来の妻を見つける必要は絶対にあった。
こうして王子は晩餐会での約束に同意した。
「わかりました。今度の晩餐会で姫君を見つけましょう」
かくして王宮主催の晩さん会が催されることになった。
晩餐会のニュースは街中を駆け抜けた。
アンヌや、ポリーヌ、マヤの耳にもこのニュースは入った。
「お母さま! この晩餐会はチャンスです! わたくしは見事王子様のハートをゲットしてごらんに入れます!」
ポリーヌは大はしゃぎだ。
いったいどこがそんなにいいのだろうか。
「私こそ、将来の王妃に立候補いたしますわ! ああ! バラの未来が見えそう!」
マヤは恍惚としていた。
もはや頭の中では王子を射止めているに違いない。
「おまえたち? 晩餐会はさぞ着飾って行くのですよ? 王子様の気持ちをつかみなさい!」
「「はい!」」
ベラはそれを興味もなく聞いていた。
自分には関係のない話だ。
自分のような娘にとって王子様は雲の上の存在――それに王宮に着ていくような服は持っていない。
晩餐会の話しはベラの耳にも届いていた。
しかし、ベラは興味を示さなかった。
「あっはははは! ベラには無関係な話ね!」
「ベラなんて、王宮に来る価値もないわ!」
ポリーヌとマヤはさんざんベラをバカにした。
ベラはもう慣れっこなので気にしない。
自分には関係ない。
それは真実であるように思えた。
ベラは読書に戻った。
私には本があればいい。
本の世界は魅力的で、好奇心を刺激してくれる。
ベラは本が大好きだった。
晩餐会当日。
ポリーヌとマヤは美しく着飾って、王宮に向かった。
ベラはいつもと同じように書斎で、読書していた。
「あら? あなたはどうしたの? 今夜は晩餐会よ?」
そこに来たのは妖し気な人物――女性。
「? あなたは?」
「私は魔法使いのおばさん(ディオドラ)よ。あなたは晩餐会にはいかないの?」
「私には関係ありませんから……」
ベラは皮肉の笑みを浮かべた。
本当はベラも王宮に、晩餐会に行きたかった。
だが、自分にはその資格もない。
ただの小汚い娘だからだ。
「そんなことはないわよ。あなたは元がきれいなのだから、着飾れば、必ず王子様の気を引くわ」
「そうでしょうか?」
ベラは自虐的だ。
今の自分に何ができる?
「はい! これは魔法よ!」
ボンと音がした。
するとベラの服は美しい青いイブニングドレスに代わった。
「これは……」
長い髪は結い上げてあり、彼女の美しさを引き立てている。
そして靴はガラスだった。
「ほら、見て! きれいでしょう?」
おばさんは鏡を見せてくる。
ベラは鏡に映った自分を見つめた。
信じられなかった。
「これが、私……」
「さあ、時間がないわ。馬車を用意してあるからそれで王宮にまで行きなさい!」
「はい!」
ベラは車に乗り込んだ。
御者は猫の妖精だった。
「ほな、行きまっせ!」
猫さんは馬に鞭を入れる。
「そうそう、魔法効果は十二時までしか効果がないわ。気をつけるのよ?」
そうして、ベラは晩餐会へと向かった。
王宮で王子は物思いにふけっていた。
お妃候補を一応ざっと眺めてみたが、まったく興味を引かない。
このまま退場しようかと王子が考えていた時、周囲にざわめきが起こった。
その場に一人の貴婦人が現れたのだ。
その貴婦人は青いイブニングドレスを着ていた。
王子は一目でその貴婦人に引き込まれた。
王子は席を発った。
気づいたら、王子は行動していた。
そしてその貴婦人に声をかける。
「ああ、あそこのあなた! 私とダンスを踊ってくれませんか!」
「あ、はい……」
王子はダンスをリードした。
貴婦人はダンスの教養はあるのか、王子のリードに身をゆだねてくる。
それをほかの女たちは羨望のまなざしで見ていた。
「あなたは美しい。でもそれは外見の美ではなく、心の美なのですね。どうか、私の妃になってくれませんか?」
「えっと、その……」
王子は貴婦人に求婚した。
この人しかいないと思った。
私の妃はこの人だ。
その時、貴婦人は大時計を見た。
時計はあと五分で12時になる。
「ごめんなさい!」
貴婦人は駆け出していった。
王子はあまりのできごとに、とっさに反応できなかった。
「ああ、待って!」
王子の呼びかけもむなしく、貴婦人は去っていった。
王子は脱力した。
あれほどの人に出会えたのに、それを無駄にしてしまった。
それにしても、あれは誰だったんだろう?
名前さえ聞きそびれた。
そこに王子はガラスの靴が置かれているのを見つけた。
あの貴婦人が置き忘れていったものだ。
王子はそれを手に取った。
そして王子はそれを手がかりにして、あの貴婦人を探すつもりだった。
王子はガラスの靴が合う人を探した。
王子にはこれしか手がかりがない。
王子はもう、あの貴婦人を妃にすると決めていた。
ポリーヌとマヤが挑戦して、ガラスの靴をはこうとするが、まったくサイズが合わない。
メイド服を着ていたベラが靴をはくとぴったり収まった。
ベラは王宮に招かれ、王子様と結婚した。
めでたしめでたし。
劇の上演が終わった。
キャストが全員出てきて、観客たちの前に姿をさらした。
劇は観客の満場の拍手のもとに終わった。
劇は大成功だった。




