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英雄叙事詩 Das Heldenlied  作者: 野原 ヒロユキ
~Himmel und Erde~
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相談

セリオンは夜、アンシャルのもとを訪ねた。

セリオンはアンシャルに相談したかった。

「おまえがここを訪ねてくるとは珍しいな。いったいどうした?」

「アンシャル……俺はアンシャルに相談したいことがある」

セリオンの顔は真剣そのものだ。

アンシャルはにこりとほほえむ。

「ああ、いいぞ。さあ、中に入れ」

セリオンはアンシャルの家に入った。

ここに来るのはエスカローネと再会してからだ。

「母さんは?」

「ああ、ディオドラなら厨房にいる。……ディオドラには聞かれたくない話か?」

「まあ、そうだな」

「なるほど……まあ、座れ」

「ああ」

セリオンは用意された席に座った。

セリオンはどこかバツが悪そうだった。

「それで、何に悩んでいるんだ?」

セリオンは意を決して話す。

「俺はエスカローネを愛している。ただ……」

「ただ?」

「俺はエスカローネに性欲を抱いている……これは正しいことなのか?」

「フフッ、なるほどな。思いつめていると思ったが、そういうことか」

アンシャルは苦笑する。

アンシャルはセリオンがなぜ悩んでいるのか理解できた。

これは男ならだれでも直面する問題だからだ。

セリオン

セリオンはエスカローネを性欲の対象として見るのは正しいことなのか、そう考えているのだ。

セリオンは罪悪感を抱いているのだろう。

はたして性欲は善なのか、悪なのか。善であればそのまま解放してもかまわないだろう。

悪なら抑圧しなければならないだろう。

セリオンは悩んだ末にアンシャルに相談に来たのだろう。

「おまえは少し硬すぎるように思える。まあ、結論から言えば性欲は善でも悪でもない。中立だ。一つ言えることがある」

「それは何だ?」

「性欲のままに行動すると虚しくなるということだ。つまり、後悔する」

「後悔……」

「おまえが本当にエスカローネを愛し、大切に想う時、性欲は高次のものになる。おまえが性の欲求のままに行動したら、不幸をもたらす。要はおまえは自分の性欲と付き合い方を考えなければならないということだ」

「俺はどうすればいいんだ?」

「エスカローネに性欲を抱くということは、おまえはエスカローネに魅力を感じているということだ。性欲の前におまえ自身の愛が大切だ。愛と共に在れば性欲は甘美なものになる。ただ、性欲に翻弄されるな。それをうまく解放しろ。私に言えるのはそれだけだな」

「解放、か……難しいな」

セリオンは難しい顔をした。

セリオンはまだ性欲との付き合い方が分からないのだ。

セリオン自身戸惑っているのだろう。

セリオンは自分の中で性欲が愛より大きくなることを恐れていた。

「まあ、そう難しく考えるな。おまえがエスカローネを大切に想っているなら、彼女を不幸にすることもない」

「少し、わかったような気がする。ありがとう、アンシャル。参考になった」

「ああ。エスカローネのことを愛してやってくれ。彼女もおまえから愛されたいと思っているだろう」

「本当にそうなのだろうか? エスカローネは俺を愛しているのだろうか?」

セリオンにとってはそれは不安。

「私はおまえとエスカローネが結ばれてくれるとうれしい。私はおまえを息子だと思っている。私はエスカローネを娘だと思っている。どちらも大切な存在だ。まあ、まずはおまえからエスカローネに告白するんだな」

「告白か……」

「怖いのか?」

「ああ……」

セリオンは正直に答えた。

アンシャルにはセリオンの心理がよくわかった。

しかし、はたから見れば互いに愛し合っている二人が、こう悩むとは……。

アンシャルには恋愛経験があるが、どれも結びつかなかった。

アンシャルは自身の恋愛より、セリオンを育てることを優先したからだ。

「そうか……相手の気持ちを知るのは不安だ。だが、いつまでもそのままでいることはできないぞ? 時間を無駄にする」

「ああ、いろいろとアンシャルに相談できてよかった。今日はもう帰る。おやすみ」

「ああ、おやすみ」



セリオンがアンシャルのもとにいたとき、エスカローネはディオドラのもとを訪れた。

ディオドラは厨房を掃除していた。

「あの、ディオドラさん……ちょっといいですか?」

「あら? エスカローネちゃん? どうしたの?」

ディオドラはエスカローネを食堂に案内する。

「ディオドラさん……私、相談したいことがあるんです」

「セリオンのことね?」

「はい……」

ディオドラは勘が鋭い。

直観的にわかるのだ。

エスカローネはセリオンのことに悩んでここに来たのだろう。

ディオドラはエスカローネが落ち着くように紅茶を入れた。

エスカローネがカップに口をつけるのを見て、ディオドラも紅茶を飲む。

「エスカローネちゃんはセリオンを愛しているのね?」

「はい、そうです」

「いったい何が不安なのかしら?」

「私は……セリオンから愛されているのでしょうか?」

「どうしてそう思ったの?」

ディオドラは真面目な顔で受け答える。

「セリオンから愛していると言われないんです。それで……」

「それで不安になったわけね?」

「はい」

ディオドラがほほえんだ。

エスカローネが悩んでいるのはセリオンとの恋愛である。

セリオンの気持ちが分からないのであろう。

ディオドラから見ればセリオンも、エスカローネも互いに愛し合っているように見えるのだが……。

まあ、ディオドラは恋愛の経験ないのでわからないこともあるのだが……。

「エスカローネちゃんから告白してみたら?」

「私はセリオンから告白されたいです」

「告白して拒絶されるのが怖いのね?」

「はい、そうです」

「フフフ……きっとあの子から告白してくれるわ。セリオンもエスカローネちゃんを大切に想っているからこそ、軽々しく言えないのだと思うのよ。セリオンを信じなさい。セリオンはきっとあなたの気持ちに答えてくれるわ」

「はい、私はセリオンを愛しています。私はセリオンと結ばれたいです」

ディオドラはエスカローネの想いにうなずく。

ディオドラはエスカローネに寄り添ってあげたいと思った。

ディオドラにとってエスカローネは義理の娘とはいえ、実の娘同然だ。

ディオドラはセリオンもエスカローネも愛している。

それにしても、この二人は恋愛に奥手なように思える。

これもセリオンが誠実なことの裏返しなのだろうが……。

ディオドラにはいつか二人が結ばれればいいと思う。

この二人はなまじ距離感が近かったせいか、本当に近づけないのであろう。

「私は、セリオンを愛していいのでしょうか?」

「? どういうこと?」

「私以外にも、セリオンを好きな人はいます。ヴァルキューレ隊でもセリオンは人気です。私はそうした人たちに勝てるでしょうか?」

どうやらエスカローネ以外にもセリオンを狙っている女がいるらしい。

まあ、セリオンは『英雄』だ。

もてないわかがない。

「エスカローネちゃんには強みがあるわ」

「強み?」

「あなたは幼少のころからセリオンを知っているわ。あなたたちは幼なじみだから……ほかの誰よりもセリオンのことを知っているでしょう? それはほかの女の子にはないものよ」

「でも、ただの幼なじみとしか思われていなかったら……」

エスカローネは不安そうな顔をした。

それを見てディオドラが苦笑する。

「自分に自信が持てないのね? エスカローネちゃんはとっても魅力的よ」

「そうでしょうか……」

「ウフフフフフ……」

その夜、エスカローネはディオドラにお礼を言って帰っていった。

ディオドラが紅茶のカップをかたづけようとした時、一人の男性が来た。

それはアンシャルだった。

「そちらにはエスカローネが来たか?」

「アンシャル兄さん……」

「私のところにはセリオンが来た。恋愛の相談だった」

「あら、そうなの。二人とも似てるわね」

「二人とも不器用なのかもしれないな」

「でも、あの二人はいつか結ばれるわ。これは私の勘なんだけど……」

「フッ、おまえの勘は当たるからな。なら、そうなんだろう。私たちにできるのは、ただ見守ることだけだ。まあ、あとは時間が解決してくれるさ」

「そうね。私はレミエル様に祈ってみるわ」

「レミエル様ならわかってくださるかもしれないな」

この日、兄と妹の会話は終わった。

この二人は互いを深く理解し合っている。

二人はセリオンとエスカローネが結ばれるよう祈るのだった。

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