デート
セリオンは女子寮の前でエスカローネを待っていた。
今日はエスカローネとデートの日なのだ。
セリオンはいつもの服ではなく、青いシャツに青いジーンズを着用していた。
待ち合わせの時間は9時。
セリオンは15分前に女子寮の近くで待機していた。
テンペルでは男性は女子寮に入ることはできない。
デートの約束はセリオンからエスカローネにした。
エスカローネはほほえみながらOKしてくれた。
実はセリオンはエスカローネに断られるんじゃないかと不安だったのだ。
お互いに想いあっているとは思うが、セリオンはエスカローネの気持ちを口に出して聞いたことはない。
エスカローネは俺のことをどう思っているんだろうか?
セリオンは誇り高い。
セリオンは勇敢だ。
それでもエスカローネの気持ちを知るのは不安だった。
セリオンはエスカローネの気持ちを知りたいという欲求はある。
そんな事を考えていると、エスカローネが姿を現した。
「セリオーン! おまたせー!」
「エスカローネ……」
セリオンは思わず、エスカローネに見とれた。
エスカローネはいつものストレートの髪に、ボタンがついた黒いワンピースを着ていた。
エスカローネの豊かな胸が服の下から自己主張している。
「えへへへ……どう?」
エスカローネはセリオンに問いかける。
「あ、ああ……すてきだ」
セリオンの視線はつい胸にうつってしまう。
悲しいかなセリオンも男である。
エスカローネの体が豊満であるのは服の上からもわかるのだ。
普段はそんなに意識しないのに、デートとなるとエスカローネを意識してしまう。
エスカローネがセリオンの腕を取った。
エスカローネの大きな胸がセリオンの腕に当たる。
セリオンの神経はそこに集中する。
「エ、エスカローネ……近くないか?」
「ダメ?」
「ダメじゃ、ないが……」
「よかった……」
「それじゃあ、行こうか」
「ええ!」
二人は新市街地に歩き出した。
シュヴェリーンは主に新市街地と旧市街地で構成されている。
旧市街地は歴史的建築物の宝庫で、城や教会、宮殿などの王族や貴族が建てさせた観光名所が多い。
また一般建築も赤いレンガ屋根の建物があり、新しい建物に対する規制もある。
それに対して、新市街地は娯楽や経済など近代に入ってから新しく建てられた。
テンペルも新市街地の中にある。
二人はまずは映画を見ることにした。
「なあ、セリオン。何を見ようかしら?」
「そうだな。ホラーなんかどうだ?」
「え? ホラー?」
エスカローネは不安そうな顔をした。
「どうした、エスカローネは怖いのか?」
セリオンがからかう。
「だって……ホラーってゾンビとかアンデッドが出るんでしょう?」
「ああ、そうかもしれないが……」
「セリオンに抱きついてもいいならいっしょに見てもいいのよ?」
「それは……」
今度はセリオンが赤面する番だった。
結局二人はホラー映画を見ることにした。
セリオンはアンデッドに対して免疫があるのであまり怖いとは思わなかった。
しかし、エスカローネは感情を豊かに変化させ、怖がってセリオンに抱きついてきた。
アンデッド自体はエスカローネも戦った経験があったが、こうして映画にされると怖いらしい。
「はあ……怖かった……」
映画館から出てくるなり、エスカローネは感想を漏らした。
「そんなに怖かったか?」
「だって、怖く描かれていたんだもん……」
エスカローネはがっくりと肩を落とした。
上映中のエスカローネはずっとセリオンの手を握っていたが、セリオンはそっちの方が恥ずかしかった。
どうやらエスカローネはホラーは苦手らしい。
エスカローネの手はふるえていた。
「さて、ちょうど昼だ。どこかで食事しよう」
「そうね。どこで食事するの?」
セリオンはしばらく考えた後。
「ノヴァーリア(Novalia)風のパスタ専門店なんてどうだ?」
パスタは南の国ノヴァ―リアの特産品で、郷土料理でもある。
ノヴァ―リア人の国民食でもあり、ノヴァ―リア料理を食べられる店がシュヴェリーンにはあった。
「いいわね。そうしましょう」
エスカローネも同意した。
二人は映画館を出てパスタ専門店に向かった。
店は昼時ということもあって混んでいた。
二人はしばらく待たされた後、席に通された。
セリオンとエスカローネはカルボナーラ(Spaghetti alla carbonara)を注文した。
しばらくすると料理が運ばれてきた。
ベーコン、チーズ、卵、黒コショウが精彩を放っている。
「「いただきます」」
二人ともフォークでパスタを食べていく。
「おいしい! チーズが甘くてとろけるようね!」
「うまいな。ベーコンがジューシーだ。コショウもよく効いている」
セリオンとエスカローネはカルボナーラに大満足だった。
二人は温かいうちにカルボナーラをいただいた。
「ふう……食事も済んだことだし、どこかで休憩したいな」
「どこで休憩するつもり?」
「ダーヌ川沿いの公園に行こう。そこでゆっくりしたいな」
「それじゃあ、行きましょうか」
二人ともおなかいっぱいだったので、どこかで休みたかったのだ。
自然公園はシュヴェリーン新市街地での市民の憩いの場である。
セリオンとエスカローネはベンチに座った。
「ふう……風がさわやかね」
エスカローネの髪が風で揺れた。
セリオンとエスカローネの距離は肩がくっつくか、くっつかないかというところだった。
セリオンンはエスカローネの存在を全身で意識する。
公園には、中を歩く親子や、サッカーをする子供がいた。
「エスカローネは強くなったな」
「? どうしたの?」
「いや、このあいだの任務でエスカローネはアンデッドの群れを一気に殲滅しただろう? 修行はつらかったんじゃないのか?」
セリオンが言いたいのは、どれほどの修業をすればあれほどの魔法を使えるようになるのか、ということだった。
「ええ、つらいこともあったわ。修行は厳しかったもの。でも……」
「でも?」
「いつかセリオンの隣で戦うんだって思ったら、つらいことも、苦しいことも、厳しいことも乗り越えられたの。それが私の希望だったのよ」
セリオンはそんなエスカローネをすごいと思う。
セリオンはスルトとの修行でそういう厳しさには慣れている。
しかし、女性がこれほどの戦闘力を手に入れるのは並大抵のことではできないだろう。
「エスカローネはきれいになった」
「え?」
エスカローネがきょとんとしてセリオンの顔を見る。
セリオンはエスカローネの瞳をまっすぐに見る。
エスカローネの瞳は青い。
まるで宝石のようだ。
セリオンは引き込まれた。
「つまり、その、美しくなったってことさ」
「ウフフフフ……」
セリオンがエスカローネの手を握る。
エスカローネはセリオンと密着する。
二人は目を閉じると、そのままくっついていた。
心臓がバクバクと音を立てて止まらない。
セリオンは恥ずかしさと心地よさを感じながらそのままでいた。
エスカローネからセリオンにエスカローネの体の柔らかさが伝わる。
セリオンはこの時間は幸せだった。
セリオンにとってエスカローネとの恋愛は初めてではない。
セリオンの初恋の相手はサーシャだ。
サーシャのことはエスカローネに伝えてある。
エスカローネもサーシャがセリオンの想い人だったことは知っている。
セリオンの好みが大人っぽい人であることも……。
二人は共に20歳、大人の恋愛をするにはちょうどよかった。




