エスカローネとの再会
セリオンはスルトから聖堂執務室に呼ばれた。
こうして呼ばれるのは初めてではない。
また、任務が与えられるのであろう。
セリオンはそんな事を思いながら執務室までやって来た。
「セリオン、入ります」
「うむ……入ってくれ」
セリオンはドアを開けて執務室に入る。
「それで、また何かあったのか?」
「うむ。話が早くて助かる。実はなデッサウ(Dessau)という村が襲われた」
「襲われた? いったい誰に?」
セリオンはけげんな表情をした。
「それはな、アンデッドの盗賊団だ」
「どうしてアンデッドが村を襲ったんだ?」
「それはわからん。現時点では何者かに操られていると推測される。犯人は自分たちのことを『ガイコツ盗賊団』と名乗っているらしい」
「それで、俺にどうしろと?」
セリオンは必要な情報を聞き出そうとスルトに続きを促した。
「おまえに頼みたいのは、この事件の調査と解決だ。準備できしだい、出発してもらいたい」
「わかった」
セリオンが背を向けた。
セリオンは考えが決まればすぐに行動に移す。
セリオンはアクティブだった。
そのセリオンにスルトが言葉を付き添える。
「ああ、それと」
「? なんだ? まだ何かあるのか?」
セリオンが振り返る。
「エスカローネが帰ってくるそうだ」
「え?」
エスカローネが帰ってくる……。
それはエスカローネと再会できるということだ。
エスカローネに会える!
エスカローネに会いたい!
セリオンのほおが自然と緩む。
セリオンは聖堂執務室を気づいたら外に出ていた。
聖堂の内陣にて。
「セリオン?」
「?」
セリオンはまばゆく輝くような長い金髪の髪をした女性に声をかけられた。
この女性は……もしかして……。
「君は……エスカローネか? やっと会えたな!」
「ええ、そうね!」
エスカローネは5年の歳月で美しく成長していた。
エスカローネの美しさ……。
光沢を放つようなまばゆい金髪に、青い瞳、そして服の上からもわかる肉感的なプロポーション……。
セリオンはエスカローネにくぎ付けになった。
少しの変化も見逃したくない。
「そんなに見ないで……」
エスカローネが恥じらった。
「あ、ああ、つい。見とれてしまった……」
エスカローネはほおを赤らめた。
「そう? うれしい……」
「アンシャルや母さんには会ったか?」
「まだよ。これからスルト総長に報告をしようと思って」
「そうか。スルトなら執務室にいる」
「ありがとう。ねえ、セリオン?」
「何だ?」
「後で時間があるかしら?」
「ああ、任務は与えられたが、至急じゃない」
「後で、話がしたいんだけど……」
「俺もだ。エスカローネ、お帰り」
そういうとセリオンはエスカローネを抱きしめた。
エスカローネからいい匂いがする。
「あ……」
はずかしがるエスカローネ。
セリオンはエスカローネの体全体を感じるようにエスカローネを抱きしめた。
「「「「Prosit!」」」」
アンシャルの宿舎でブドウジュースによる乾杯が行われた。
参加メンバーはアンシャル、ディオドラ、セリオン、エスカローネの四人だ。
ディオドラは修道女でもあるため『酒は飲めない』。
そのため、ワインではなく『ぶどうジュース』で乾杯をしている。
時間は夜。
アンシャルは副長なので特別な宿舎を与えられている。
今日はめでたい日だった。
エスカローネが5年ぶりに帰ってきたのだ。
そのため、ディオドラは豪華な食事でもてなした。
それにこの四人は家族でもあった。
「こうして帰って来れて私はうれしいです。やっぱりこの四人は家族だって思いますね」
エスカローネが言った。
「そうだな。私たちは血はつながっていないが、一つの家族だ。ほかの誰が否定してもこのことは変わらない。今日は私たちが集まることができてうれしく思う。エスカローネ、よく帰ってきてくれた」
アンシャルが嬉しそうに述べた。
「やっぱり、エスカローネちゃんがいないと私たちは一つになれないわ。それにセリオンったら、エスカローネちゃんを想っていたのよ? ウフフフフ!」
ディオドラが愉快そうに語る。
「母さん……そのことは……」
セリオンは恥ずかしかった。
今はまだ、エスカローネはセリオンの気持ちを知らない。
「へえ……セリオンは私に会えなくて寂しかった?」
「ああ、エスカローネがいなくて寂しかったよ。やっぱり、俺にはエスカローネが必要だってわかった」
「そう? ありがとう、セリオン」
エスカローネは少し赤面しているようだ。
セリオンはこの四人が家族として愛し合っていることを知っている。
しかし、セリオンは個人的にエスカローネを愛していた。
セリオンはエスカローネの想いを知らない。
なまじ家族として接してきただけに家族以上の関係になれないのだ。
セリオンはエスカローネと恋人になりたいと思っている。
しかし、エスカローネはどうなんだろう?
エスカローネは俺のことをどう思っているのだろうか?
兄妹と思っているのか?
それともそれ以上の関係を望んでいるのか……。
セリオンはそれが分からず悩んでいた。
「エスカローネはどんな魔法を学んだんだ?」
セリオンがエスカローネに問いかける。
セリオンは魔法は使えない。
適性がないのだ。
アンシャルは光と風の魔法を使うことができた。
「そうね……光魔法を体系的に学んだわ。特に大魔法の習得とコントロールに時間を使ったわ」
「それ以外には何を学んだんだ?」
「ハルバードの扱いを基礎から学んだわ。ツァーラ師は魔法だけじゃなくて武術も使えたから、徹底的に仕込まれたわね。セリオンはこの5年間何をしていたの?」
「俺か? 俺は闘気を習得した」
「闘気って、スルト団長と?」
「そうだ。初めは緊張したけど、コツをつかむとうまくできるようになった。スルトとの修行だったから結構楽しかったよ。スルトは俺にとって第二の父だからな」
「ウフフフ……セリオンはスルト総長のことが昔から好きだったわね」
「エスカローネにとってツァーラ師はどんな人物なんだ?」
「うーん、そうね。私にとってもツァーラ師は父親のような人だったわ。私はツァーラ師から戦うことの技術を学ぶことができたわ。だから、私はセリオンの隣で戦えるのよ?」
「エスカローネ……」
セリオンは感激した。
エスカローネがいっしょに戦ってくれるならこれ以上の幸せはない。
それは『パートナ―』ということだからだ。
エスカローネもそれを意識しているのか頬が赤かった。
「はっはっは! 二人とも仲がいいな」
「二人は昔から仲が良かったわねえ……大人になってもそれは変わらないのね」
アンシャルとディオドラの言葉にセリオンとエスカローネは赤面した。
二人にとって5年という歳月は障害にはならなかった。
むしろ互いの大切さを再認識させられた。
その後、食事と和やかな時間が過ぎた。
会話が済むと、セリオンはエスカローネと二人きりになった。
二人の間にはいとおしいムードがあった。
宿舎の外で二人は風に当たる。
月光が二人を照らしていた。
「エスカローネ……サーシャのことを覚えているか?」
セリオンは話を切り出した。
「サーシャお姉ちゃん? それがどうしたの?」
「実は……」
セリオンはサーシャのことをエスカローネに説明した。
サーシャがよみがえったこと。
サーシャが何者かに操られてセリオンと戦ったこと。
サーシャを倒したこと……。
「そう……セリオンにはつらい戦いだったわね……」
「ただ、一つ心の決着はついた」
それはセリオンのウソ偽らざる気持ちだった。
「ねえ、セリオンはサーシャ姉さんを愛していたの?」
「……ああ、俺はサーシャを愛していた」
「そっか……」
エスカローネが寂しそうな表情をした。
「ただ、それも一種の憧れだったのかもしれないな」
「憧れ?」
「ああ。大人の女性への憧れだったと思う。今となってはそう思うんだ」
セリオンの好みは『大人っぽい人』である。
セリオンがサーシャを愛したのはサーシャが大人っぽかったからだ。
「私じゃ……」
「ん?」
エスカローネが何か言いかける。
セリオンはそれを待った。
エスカローネは何を言いかけたのだろう?
「う、ううん。なんでもない」
エスカローネは取り繕うように言う。
何か言いにくかったのだろうか?
「そろそろ冷えてきたみたい。私は今日はアンシャルさんの家に泊まるけど、セリオンはどうするの?」
「俺は寮に戻る」
「あ、そうだ!」
「? どうした?」
「あのね、セリオン、スルト様からなんだけど……」
エスカローネはもじもじし出した。
何かあるのだろうか?
セリオンはふしぎに思った。
「あのね……今回の盗賊団の任務に私はセリオンについていくように言われたの」
「そうなのか? まあ、今回はアンデッドが相手だ。光魔法が使えるエスカローネがいると心強い」
「うん、よろしくね。それじゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ」
セリオンはそう言うと、エスカローネを再び抱きしめた。
エスカローネのぬくもりがセリオンに伝わる。
「あ……」
「エスカローネのことは俺が守る。心配しなくていい」
「うん……」
セリオンはエスカローネのほおにキスをすると、そのまま別れて寮に戻った。




