アレイマニオス
「ここだな。ここに瘴気の跡がある」
そこには巨大な混沌の蛇がいた。
カーオス・シュランゲ(Chaosschlange)だ。
セリオンとスルトは遠くからカーオス・シュランゲを眺めた。
「むう……ここからでは核がいったいどこにあるか、わからないな。若き狼よ、今回は私が戦おう。おまえはここでホグといっしょに見ているがいい」
「ああ、わかった。武運を祈ろう」
「フッ、当然だ」
スルトは自信家だ。
彼は自分が負けるとは、つゆほども思っていない。
スルトはカーオス・シュランゲの前に堂々と正面から歩いて行った。
カーオス・シュランゲがそれに気づく。
すぐさまカーオス・シュランゲは攻撃態勢を取った。
「この私が相手をしてやろう」
スルトは大剣を出して構える。
カーオス・シュランゲは尾をナイフに変えて薙ぎ払った。
周囲の木が斬り倒される。
スルトは楽々とそれを片手で受け止める。
カーオス・シュランゲは全身をぴくぴくとけいれんさせた。
力を入れているのだろう。
スルトは全く動じていない。
スルトのガードは完璧だ。
スルトの周囲に雷が落ちる。
カーオス・シュランゲの尾が焼き斬れる。
「雷霆よ!」
スルトは雷をまとった斬撃をカーオス・シュランゲに繰り出す。
カーオス・シュランゲの頭部が一撃で吹き飛んだ。
再生が始まる。
しかし、スルトは容赦がなかった。
カーオス・シュランゲの体に雷霆で攻撃した。
「雷霆斬!」
スルトの雷霆がカーオス・シュランゲを胴体から真っ二つにした。
スルトは雷を次々とカーオス・シュランゲに降り注がせる。
核がどこにあろうが関係ない。
どこかには核があるのだ。
ならばすべてに雷霆を打ち込むのみ。
どこかに必ず核はあるのだから、容赦なく攻撃すればいい。
カーオス・シュランゲは原型をとどめないように破壊された。
「やれやれ……人使いが荒いねえ……」
ホグが道中不満を漏らす。
「うるさい。生かしておいてやっているだけでもありがたいと思え」
セリオンが大剣をホグの背中に突き付ける。
「わかってるよ! ほんの冗談さ!」
すると辺り一面が瘴気に汚染された地帯に三人は足を踏み入れた。
「こ、これは……」
ホグが愕然とする。
恐怖にひきつりおびえたような様子だ。
「ひっ!?」
「? どうした?」
「こ、ここはやばいって! 危険なところだよ! なあもういいだろう? ここまで案内してやったんだ! あたしを解放しておくれよ!」
「どうする、スルト?」
セリオンはスルトと顔を見合わせた。
これ以上ホグがいる必要はない。
もう解放してもいいんじゃないか。
戦闘の役には立たなそうだし……。
「……まあ、いいだろう。ご苦労だった。行け」
「ほんじゃさいならー!」
ホグは一目散に逃げていった。
「やれやれ、臆病な奴だ」
ホグのような奴には自分より格上の相手には逆らえないということだろう。
「若き狼よ、ホグの言っていたことは本当だ。この洞窟の奥に瘴気の源がいる」
「何だって?」
「気をつけろ。来るぞ!」
セリオンとスルトは武器を構えた。
洞窟の中から『影』が現れた。
全身は黒く、液体の体をした人型の怪物だ。
「クーククククク! 我が名はアレイマニオス(Areimanios)! 混沌の主なり! きさまらは久しぶりに生きがいい獲物だ。この機会に喰らってやろう」
アレイマニオスの声は低く重かった。
「おまえがカエルや蛇の化け物の主か! 俺たちがおまえを倒してやる! 行くぞ、スルト!」
セリオンが気勢を上げる。
だが。
「若き狼よ」
「何だ?」
「全力を出すことを許可する。おまえ一人でこいつを倒すのだ」
「……スルトは見ているだけか?」
「おまえ一人で戦わねば修行にならん。せめてこの程度の敵は一人で戦ってもらわねば困る」
「わかった。全力出していいんだな?」
「かまわん。好きに戦え」
「そうさせてもらおう」
セリオンは大剣の刃を氷で包み込んだ。
セリオンの技『氷結刃』だ。
セリオンが使える属性は氷・光・雷の三つだ。
「クークックックックック! かかってくるがいい!」
セリオンはその瞬間消えた。
セリオンは一瞬にしてアレイマニオスに接近し、氷の大剣を振り下ろす。
それをアレイマニオスは右手を刃に変形させてガードする。
「ずいぶんぬるいな。涼しいぞ?」
アレイマニオスが口元を歪める。
だが、セリオンも不敵に笑う。
アレイマニオスはそれが気にくわない。
「なぜ、そんな顔をする? この我の力を見くびっているのか?」
「フン! 戦いがいがあると思ってね!」
セリオンはアレイマニオスに斬りかかる。
アレイマニオスは右手のブレードでセリオンの斬りを斬り払う。
その戦いぶりは互角に見えた。
互いに白熱して戦いを演じる。
セリオンの愛用の武器は大剣で、この大剣は神剣サンダルフォンではなく、スルトから貸し与えられているものだった。
それでも一流の品でもある。
スルトには武器のコレクションを集めるという趣味があった。
「氷狼突!」
セリオンが氷の突きをアレイマニオスに出す。
アレイマニオスはセリオンの突きをもろに受ける。
セリオンはその時後退していた。
アレイマニオスの体から口のようなものが鋭い牙を出し、セリオンを呑み込み、喰らいつこうとした。
「ぐぬう……残念だ。。よくかわしたものよ」
アレイマニオスが残念そうにつぶやく。
この攻撃を受けたら、セリオンはアレイマニオスに取り込まれていただろう。
「俺はそんな簡単にはやられない!」
「強がりを言う。これでもくらうがいい!」
アレイマニオスは右手をかざした。
するとそれは鋭い触手となって、アレイマニオスの右手が分かれた。
セリオンは華麗なステップでそれをかわす。
アレイマニオスは両手をかざした。
今度は両手で触手を出してきた。
セリオンは回避は不可能と悟った。
セリオンに触手が迫る。
セリオンの大剣が光輝いた。
金色の光がセリオンの大剣からあふれ出た。
セリオンの大剣はアレイマニオスの触手を斬った。
「!? な、何だ、その力は!? 光!? 闇を斬り裂く光か!?」
光はアレイマニオスが最も苦手な属性だった。
逆のことを言えば、アレイマニオスに最も対抗できるのは光属性なのだ。
そしてセリオンはその使い手だった。
「ぐっ……だが、光とて闇の力の前には無力! 無意味! ソル・ニゲル(Sol
Niger)!」
アレイマニオスが小型の太陽を作り出す。
その大きさはボールくらいだった。
「闇の力の前に屈するがいい!」
アレイマニオスが闇のボールを投げつける。
闇がセリオンを呑み込み広がっていく。
「フハハハハハハ! この闇は光では防げまい!」
アレイマニオスが哄笑する。
アレイマニオスは己の勝利を疑っていなかった。
闇の中から光が輝いた。
セリオンの大剣はきらめく星のようだった。
「バカな……」
アレイマニオスが愕然とする。
「今のが全力か?」
セリオンは挑発するかのようにアレイマニオスに事実を突きつける。
「フハハハハハハハ! あの程度の攻撃をやり過ごしたくらいでいきがるな! この我の全魔力をこの闇に注ぎ込んでくれるわ!」
アレイマニオスが手を上に上げた。
すると、巨大な闇の太陽が形成された。
「クククククク! これが闇だ! この全力の闇の前に、きさまはなすすべを持たぬ! さあ、闇の太陽に呑まれて、消え去るがよい!」
闇の太陽がセリオンに向けられた。
セリオンは迎え撃つ態勢を取る。
セリオンは黒い闇の太陽に斬りかかった。
セリオンの斬撃は闇の太陽を霧散させていく。
闇の太陽は形を維持することができず、爆発した。
「バカな!? この我の力をありったけ込めたのだぞ!? それを斬るなどと……ありえない!」
セリオンは動揺するアレイマニオスに接近する。
アレイマニオスは左手でセリオンの斬りを受け止めようとした。
セリオンの輝く大剣はアレイマニオスの腕を切断した。
「ぎいやああああああああ!?」
アレイマニオスが苦しむ。
アレイマニオスは右手の爪を伸ばしてセリオンに斬りつけた。
アレイマニオスの爪がセリオンを襲う。
セリオンは輝く大剣でアレイマニオスの爪をガードする。
セリオンの大剣に光子が集まっていく。
それは美しい、光子の乱舞だった。
「な、何だ、それは!?」
アレイマニオスが驚愕する。
この技はセリオンの光属性の中でも最上位の技。
光子の斬撃を放つ技だ。
「くらえ! 光子斬!」
セリオンの攻撃がアレイマニオスを斬り捨てる。
「ぐぎゃはあ!?」
セリオンの光の斬撃はアレイマニオスの胴を斬り、通過した。
そしてこれはアレイマニオスに致命的なダメージを与えた。
アレイマニオスは倒れた。
「この、この我が……バカな……」
アレイマニオスは黒い粒子と化して消えていった。
そして、周囲の瘴気も浄化された。
「ふう……光の攻撃が有効だったようだな……」
「見事だ、若き狼よ。これで混沌の諸力も滅んだであろう」
「ああ、そうだな。それじゃあ、これでこの森にいる必要もなくなったな」
「そうだ。帰還だ」
セリオンとスルトはそれからテンペルに帰還した。
スルトはワシの召喚獣レースヴェルク(Leeswerk)をテンペルに送って受け入れの準備をさせた。
スルトとセリオンの帰りをアンシャルとディオドラが待っていた。
「アンシャル、ディオドラ、出迎えご苦労」
「何、私たちにはこれくらいしかできないからな。セリオン……また強くなったようだな?」
アンシャルがセリオンにほほえむ。
「? わかるのか?」
「フッ、おまえの体から闘気を感じる。また新しい力を手に入れたというわけか。さすがだな」
「ありがとう、アンシャル。コツをつかんだら、案外簡単に習得できた」
「セリオン……わかっているだろうが、闘気の力は強い。強力な力に呑み込まれるなよ?」
アンシャルは心配しているのだろう。
闘気の力は強力だ。
その力は人を歪めかねない。
聖堂騎士は闘気を操る専門家だ。
その力を何のために扱うのか、それを一人一人に考えさせられる。
「わかっている。俺はこの力を大切な人を守るために使う。アンシャルが心配するような、力に溺れることはないさ」
「セリオン……あなたならそう言ってくれると思っていたわ。さあ、二人のために食事を用意してあるわよ。温かいうちに召し上げりなさい」
「ああ、いただくよ。スルトはどうするんだ?」
「私か? 私は少し仕事をする。体力が有り余っているからな」
スルトは基本的に今回の修業では見ているだけだったので体力に余裕があるのだろう。
「そうか。あまり無理はするなよ? それではセリオン。私たちは食事に行こう」
「セリオン、行きましょう?」
「ああ、わかっている」
セリオンは思った。
この二人は家族で、自分が帰ってこられるところだ。
セリオンは心から二人のもとに帰ってきて幸せだった。
これでエスカローネがいればもっといいのだが……。
こればっかりはしょうがない。
セリオンは夜空を見上げた。
空の星が、まるで希望のように輝いていた。




