デーネマルク
デーネマルク(Dänemark)はツヴェーデンの北にある島国である。
主にメトランド(Metland)島を中心に大小さまざまな島で構成されている。
デーネマルクの歴史は古代レーム帝国時代に、デーネ族が侵入し、定着したころから始まる。
デーネ族は王制を築いていた。
デーネ族は王を頂点とした、体制を整備し、小国ながらもデーネマルクは中央集権的な国家だった。
もっとも当時は王と言えば、野蛮の代名詞であり、否定的にとらえられていた。
これはレーム帝国では王を否定し、王制を廃止したことがあったことから、歴史的な記憶であり、これ以後、王はレーム帝国の政治から姿を消した。
デーネは小国であったため、王が強大な権力を持つことができた。
ただし、王制とは言え、世襲原理は当初には確立されてはいなかった。
国王は選挙で選ばれていたのである。
国王にとっては選挙で選ばれるとなると、キングメーカーの存在を無視できない。
つまり、有力諸侯への配慮をせざるを得ない。
それが王の権限を弱めていく。
王は貴族と対立し、自らを絶対的な存在へと確立しようとする。
貴族は貴族で『貴族の自由』を捨てる気はさらさらない。
そうなればもはや戦争しかない。
そして実際に戦争が起こった。
民衆を無視したこの戦争は、民衆から皮肉られた。
最終的に国王と貴族の間で妥協が成立し、現在の体制に落ち着いた。
そしてそのデーネマルクは目下のところ重大な危機に直面していた。
ホーコン王(Hookon)は頭をかかえていた。
彼は苦悩していた。
彼は国王であり、国民の良き父だった。
彼の苦悩は彼自身が誠実な人柄であることから生じていた。
「あなた……苦しんでいらっしゃるのですね……?」
「シャルレ(Scharle)……」
ホーコンは力なく笑った。
シャルレ王妃はホーコンの手を取る。
おそらく少しでも安心させようとさせているのだろう。
「すまんな、私には力がなくて……」
「何おっしゃっておられます? デーネマルクが今日のような栄華を享受できるのは陛下が善政を敷いたからではありませんか? 陛下は間違ってなどおりません」
「だが、今の私は『奴ら』に対してあまりに無力ではないか」
「それは陛下だけではないでしょう。誰がその時に為政者となってもあの忌まわしいものには太刀打ちできなかったでしょう」
シャルレ王妃は力説する。
ホーコンはシャルレにとって良き夫にして、良き父だった。
二人の間にはイセリア(Iselia)という娘がいた。
イセリアは王女である。
ホーコンの苦悩はシャルレ王妃が言う忌まわしい存在……ティタン(Titan)と呼ばれる巨人がデーネマルクに侵攻してきたのだ。
ティタンはデーネマルクの村や町を襲い、忌まわしいことに人間を食べるのだ。
ティタンに襲われた村や町は住んでいた人間は皆殺しにあったという。
たとえ子供でも容赦はされなかった。
このまま無策でいれば、ティタンどもは首都のコーペルハーゲン(Kopelhagen)にまでやってくるだろう。
ティタンは狂暴だった。
ティタンたちが何をしようとしているのかは分からない。
デーネマルク政府にもティタンに関する情報は少ないのだ。
密偵を各地に派遣しているが、成果は芳しくない。
ティタンには指揮・統率する上位の個体も存在することから、誰かがティタンを操ってると考えられてきた。
少なくとも、デーネマルクの学者たちはそう結論づけた。
ホーコンの悩みは、このティタンどもをどう殲滅するか、どう占領された島々を奪回するかということだった。
現在のデーネマルク軍には国土防衛の指令が発令されているが、首都を守るだけで精いっぱいだ。
とても首都から外せる状況ではなかった。
ならば隣国から支援を頼めばいいではないか、と言う考えもあろう。
だが、隣国とは仲が悪いのが国際情勢というものである。
デーネマルクの隣国はいくつかあるが、一つはツヴェーデン。
しかし、ツヴェーデンとはデーネマルク南部のキール(Kiel)を巡って領有問題があった。
北の隣国はシュヴィーデン(Schwieden)。
このシュヴィーデンともヘルムホルツ(Helmholz)島の領有問題を抱えていた。
唯一友好的なのは、国境線が明確なフィンスキア(Finskia)である。
そしてその場にイセリア王女が現れた。
イセリアは玉座の間を堂々と歩いていく。
イセリアは銀色の髪をおさげにして、前に垂らしていた。
王女ということもあって着ている服はドレスである。
イセリアはどこか決然たる眼光を持っていた。
「お父様……お話があります」
「おお、イセリア……いったい何の話かね?」
「お父様……戦況は相当悪いのですか?」
「それは……先日アスタード(Astaad)が落ちたところだ。住民は何とか避難さえることができたが……」
それを聞いて、イセリアは決意を固めたようだった。
「それでは、テンペルに救援を求めてはいかがですか?」
「テンペル?」
「そうです。シベリア人の宗教軍事組織であり、民族共同体です。彼らなら私たちに力を貸してくれるかもしれません」
イセリアの言葉にホーコンは希望の灯火を見た。
ホーコンはこのところふさぎこみがちであったが、イセリアの意見を聞いて、光明が差し込んでくるような感じがした。
しかし、娘に諭されるとは……娘も成長したものだ。
「わかった。それでは使者を派遣することにしよう」
「いいえ、それには及びません」
「? なぜなの?」
ホーコン王のそばにいたシャルレ王妃が疑問を呈する。
「私自らテンペルに行ってきます」
「なっ……」
ホーコンもシャルレも共に絶句した。
まさか自分で行くとは思わなかったからだ。
「イセリア……危険ではないかね? 誰か別の人物ではだめなのか?」
ホーコンにとってイセリアは目の中に入れてもいいくらいの可愛い娘だった。
ホーコンはイセリアを愛していた。
そんな娘を危険にさらすなど、ホーコンにはできない相談だった。
「私行けば、テンペルに誠意を見せられます。それに私が直接行った方が、テンペルを説得でると思います」
「……意思は硬いか。わかった。おまえはテンペルに行ってきてくれ。親書を今すぐに準備する」
「ありがとうございます。きっとテンペルならティタンを撃退してくれることでしょう」
かくして、デーネマルクの王宮で事態が動きつつあった。




