ドゥオマ
アンシャルは部隊を整列させていた。
聖堂騎士たちは並んで、アンシャルが出撃を命じるのを待っていた。
今回は聖堂騎士の役割はヤパーナー地区に残っている人の救助である。
それと同時に現地を本格的に調査するという任務もあった。
「よし、全員揃ったな。私たちはこれよりヤパーナー地区へ行く。どんな危険があるか分からないが、私たちは無事にミッションをやり遂げなくてはならない」
「アンシャルさん!」
「アオイ? どうした?」
アオイは袴姿だった。
「私も連れってってください!」
「!? 何を言っているんだ!? これは軍事活動なんだぞ?」
「おばあさまが心配なんです!」
「それなら君がいなくとも私たちに任せればいい」
「私もテンペルの戦士です。それではいけませんか?」
「……」
「アンシャルさん、お願いします!」
「……わかった。ただ、一般の騎士と同じ扱いをするぞ? 婚約者だからと言って特別扱いはしないからな?」
「ありがとうございます!」
こうしてアンシャルたちはアオイも加えてヤパーナー地区に行くことになった。
セリオンはテンペルから巨大怪物を見ていた。
一目で言って禍々しい。
明らかに邪悪な存在だ。
善良な存在とは思えない。
人に災いをもたらすものだ。
「セリオン、行くの?」
「エスカローネ……」
セリオンは黙ってエスカローネを抱きしめる。
エスカローネの肉感がセリオンには感じられた。
「俺はバハムートと共にあの巨大怪物のもとに行く。心配はいらない」
「うん、私はセリオンを信じているから……それにセリオンは私のもとに帰ってきてくれるでしょう?」
セリオンはエスカローネの顔を正面から見た。
セリオンのアイスブルーの目がエスカローネを映す。
「何がいるかは分からない。だが、約束する。俺はエスカローネのもとに帰ってくる。俺はエスカローネと共に在る」
セリオンはそう言うとエスカローネにキスをした。
そして、セリオンはエスカローネに背を向ける。
「来い、天龍バハムート!」
セリオンが右を上げると、上空に青い魔法陣が現れた。
青はバハムートの色だ。
青い龍が魔法陣から飛び出てきた。
バハムートはセリオンの前に降り立つと、セリオンにこうべを垂れた。
バハムートはセリオンが打ち負かして、主従の契約を結んでいる。
セリオンはバハムートの肩に乗った。
「じゃあ、行ってくる!」
バハムートはセリオンを乗せて、上空を飛翔した。
アンシャルたちはヤパーナー地区で生存者を探した。
アンシャルは部隊を班単位に分けて、周辺を捜索させた。
アンシャルはアオイと共にトキコの家に向かった。
「おばあ様!」
トキコの家はそのままだった。
門をくぐると、玄関が開いた。
その中からトキコが姿を現す。
「おばあ様、無事だったのですね!」
「まったく、使えない子だね。いつになったら忌まわしい光の勢力の人間を殺すんだい?」
「おばあ、様?」
そこに穏やかなあのトキコはいなかった。
彼女は怒りの表情をしていた。
アオイには失望の目を向ける。
「あなたは『あれ』について何か知っているのか?」
アンシャルが尋ねる。
「ああ、そうさ。あれはヤパーナーの怨念だよ。あれは妖樹ドゥオマ(Duoma)。ザンツァ様が復活させたのさ! ドゥオマの根はシュヴェリーン全土を覆ってこの町を破壊しつくすのさ!」
「使徒ザンツァのことを知っているのか? あなたにはどうやら聞かねばならないことが増えたようだな。私たちとご同行願おう」
「いやだね」
「いやでも来てもらう」
「なら、力づくでしてみな」
「何?」
トキコが魔力を解放した。
それは膨大でよくそんな魔力を隠していたものだ。
彼女の体から触手のようなものが現れた。
「おばあ様……その姿は……」
アオイが慄然とする。
「あっははははははは! 私はもう人間なんてやめてるんだよ! これこそ、ドゥオマの力さ! さあ、この力の前にひざまずきな!」
アンシャルは風王剣イクティオンを、アオイは霊刀・月華を出した。
「くっ、この魔力……ミカドや長老より上だ!」
「アンシャルさん……私はおばあ様を倒します。もはや人間をやめた以上、私たちとは関係が切れています。少なくとも、私たちの手で闇を終わらせることができるでしょう」
「ああ、そうだな。行くぞ、トキコ!」
アンシャルはトキコに斬りつけた。
「無駄だよ!」
トキコは触手でガードする。
触手がアンシャルを襲った。
このまま突き刺すつもりだ。
アンシャルは右によけてそれをかわした。
触手はアオイにも容赦はしなかった。
実の孫でも敵、ということらしい。
「はっ!」
アオイは刀で触手を斬り捨てる。
トキコの攻撃はあまりパターンがあるわけではないようだ。
触手を叩きつけてくるか、貫こうとしてくるか、だ。
それにトキコ自身もあまり戦闘経験があるとはいえなかった。
アンシャルは一流の戦士だ。
だからトキコの弱点が分かる。
だが、アンシャルは躊躇した。
トキコを殺すなら話は早い。
だが、アオイの気持ちはどうなのか。
「アオイ……」
「いいんです、アンシャルさん。祖母は人を捨てました。もはや遠慮はいりません」
「わかった。トキコにとどめを刺す」
「何ほざいているんだい! 死にな!」
アンシャルに向けられて触手の大軍が襲いかかってきた。
もはや回避は不可能。
「風巻!」
アンシャルの周囲を渦巻く風が防御した。
触手はすべてアンシャルの風に斬り刻まれた。
「風月斬!」
「フン! そんなもの!」
トキコは触手でガードしようとした。
だが、アンシャルの斬撃は触手をもろともトキコを斬った。
「があっ!?」
トキコはアンシャルによって袈裟懸けに斬られた。
トキコが倒れる。
「くっ……イザナミ様……私も御許に……」
それがトキコの最期だった。
セリオンは巨大怪物上空にたどり着いた。
ドゥオマの上には巨大な花が咲いていた。
「まったく……何なんだかわからないな」
「今にわかるようになる」
「!?」
セリオンはバハムートに攻撃を受けた。
そのため、彼は宙に放り出された。
セリオンはそのまま花の上に着地する。
セリオンはすぐに大剣を出す。
そこにはプレートスーツに身を包んだ、黒い翼をはえた男がいた。
「おまえは誰だ?」
「フッ、我が名はザンツァ(Zxanza)。使徒が一人なり」
「使徒か……闇の王は手下が豊富らしいな」
「フューラー様への侮辱は許さんぞ?」
「なぜ、こんなものを出現させる?」
「それはシュヴェリーンを壊滅させるためだ。ドゥオマの根はシュヴェリーンを崩壊させる」
「ドゥオマ?」
「おまえたちが巨大怪物と呼ぶもののことだ。こいつは動物でもあり、植物でもある」
「意味が分からない」
「そうだろうな。こやつはそこまで区別できんのだ。さて、おまえがここに来たということはドゥオマを守らねばならんな」
ザンツァが剣を出した。
それも両手剣だ。
セリオンは大剣で攻めた。
大剣を振るってザンツァを攻撃する。
セリオンの攻撃をザンツァはあっさりと受け止めた。
「なっ!?」
膂力が違いすぎる。
ザンツァはニヤリと笑った。
「フッフフフ……私の力はこんなものではないぞ? はあっ!」
ザンツァが剣を振るう。
セリオンはその衝撃で吹き飛ばされた。
セリオンは空中でくるりと回転して着地する。
もっともドゥオマの花の上だったが……。
セリオンは大剣を水平に構える。
それからセリオンは大剣で突きを連続でザンツァに繰り出した。
「フハハハハハハハハ! 無駄だ! そんな攻撃は通じん!」
ザンツァはそれをすさまじいスピードで回避する。
だが、しだいにセリオンの攻撃のスピードは上がっていった。
突きと斬りを交互に混ぜる。
ザンツァも剣で対応しなければならなかった。
ザンツァは上空に舞い上がった。
「ほう……少しはやるようだな。だが、私は飛べるという絶対的なアドバンテージがある。おまえは飛べまい? この差は埋められない。くらうがいい! 我が闇の剣技! 闇黒斬!」
ザンツァは闇の斬撃を出した。
ザンツァの斬撃はセリオンに叩きつけられる。
セリオンは光輝刃でガードした。
「くっ!?」
セリオンは光の大剣でザンツァの攻撃をやり過ごす。
ザンツァは強い。
彼の実力は口だけではない。
セリオンは自分より強い相手と戦わねばならない。
だが、セリオンには自分より強い相手と戦った経験がある。
それがセリオンをザンツァに立ち向かわせる。
「生きていたか……さきほどの一撃で殺すつもりだったが……なかなかうまくいかないな。これならどうだ! はっ! 闇黒刃!」
ザンツァは闇の刃を上空から放った。
セリオンは飛べない。
ザンツァは一方的に闇の刃を撃ちだせるのだ。
セリオンは防戦一方に追い込まれた。
セリオンは闇の刃を迎撃するので精一杯だ。
「死ね! シュヴァルツ・フェーダー(Schwarzfeder)!」
ザンツァが黒い羽を発射してきた。
セリオンは別の足場に移って、この攻撃を回避する。
「闇黒長剣!」
ザンツァは闇を収束してロング・ダーク・ソードとしてセリオンに斬りかかってきた。
セリオンも光の大剣で受け止める。
セリオンは押された。
「くうっ!?」
さすが使徒だ。
使徒だけあってザンツァの闇は深かった。
それは圧倒的だ。
だが、セリオンも負けるわけにはいかない。
セリオンの肩にシュヴェリーンの未来がかかっているのだ。
ここで負けたら、シュヴェリーンは壊滅するだろう。
セリオンが勝たない限り、この惨劇を回避する方法はない。
セリオンはいつでも希望だ。
セリオンは歯を食いしばって闇の斬撃に耐える。
そしてそれを押しのける。
「な、なんだと!?」
ザンツァは理解できなかった。
なぜこれほどの力がある?
いかに神の子とはいえ、所詮は人間ではないか。
人間になど我ら悪魔が後れを取るなどありえない。
セリオンの刃がザンツァを押しのける。
「ええい、しぶとい奴! これで終わりにしてくれる! 闇黒雷鳴斬!」
ザンツァは闇をまとった雷をセリオンに降り注がせた。
これはザンツァの最強の技だ。
爆発が起きた。
セリオンはこれを受けて消し飛ぶはずだった。
ザンツァはそう思った。
だが、爆発の中からセリオンが現れた。
「なっ!?」
ここで一瞬、一瞬だが隙が生じた。
セリオンは跳ぶ。
そしてザンツァに光の斬撃『光子斬』を叩き込む。
「ぐあああああああああああああ!?」
ザンツァが絶叫を上げる。
「バ、バカな……この、私が……」
ザンツァは落下していった。
そのまま見えなくなる。
「さて、このドゥオマを何とかしなくてはならないな。こいつが植物なら氷の技が効くはずだ。氷粒剣!」
セリオンは最強の氷技を出した。
氷の粒子が大剣にまとわれる。
セリオンはその剣をドゥオマの花の中心部に叩き込んだ。
その時、ドゥオマの花が砕け散った。
続いてドゥオマ本体に亀裂が走る。
「まずい! ドゥオマが崩壊する! バハムート!」
セリオンはバハムートを呼び寄せると、その足首につかまった。
バハムートは周囲を回ると、そのままテンペルへと戻っていった。
エスカローネもドゥオマの崩壊を感じ取っていた。
「セリオンがやったのね! セリオン!」
エスカローネたちはすでヤパーナー地区の被救助者を救出し、テンペルに戻っていた。
そこにセリオンとバハムートがやってくる。
セリオンはそのままバハムートから降りた。
そして、エスカローネの前に立つ。
「エスカローネ、ただいま!」
「ええ、おかえりなさい、セリオン」
セリオンはエスカローネを抱きしめる。
セリオンにはエスカローネの存在がこの上なく大事に感じられるのだった。
二人は幸せそうだった。
聖堂の前で二人は笑っていた。
この二人はアンシャルとアオイだった。
アンシャルは白いタキシード、アオイは純白のウエディングドレスで人々の前に現れた。
この日二人は結婚式を挙げた。
多くの人が祝福してくれた。
セリオンとエスカローネも拍手した。
「ねえ、セリオン?」
「何だ?」
「私たちもいずれ、あんな服を着れるのかしら、ね?」
エスカローネが腕をセリオンにからませてくる。
「ま、まあそうだな」
セリオンは赤面した。
きっとそういう未来もあるに違いない。
今はまだそこまでいかないが、きっとそう遠くない未来で。




