天地創造
この作品を今は亡き故人であり、親友でもあったコウジに捧げる。
初めにGottは天地を創造された。
Gottは言われた。
「光在れ」
すると光があった。
Gottは光を良しとみられた。
Gottは光と闇を分けられた。
Gottは光を昼と名付け、闇を夜と名付けられた。
夕べがあり朝があった。第一日。
主はアブラムに言われた。
「あなたはあなたの土地、あなたの親族、あなたの家を離れて、私が示す地に行きなさい。そうすれば私はあなたを大いなる国民とし、あなたを祝福し、あなたの名を大いなるものにする。あなたは祝福となりなさい。私はあなたを祝福する者を祝福し、あなたを呪うものを呪う。地のすべての部族はあなたによって祝福される」
人は新しいぶどう酒を古い革袋に入れたりはしない。
そんな事をすれば革袋は裂け、ぶどう酒は流れ出て、革袋もダメになる。
新しいぶどう酒は新しい革袋に入れるものだ。
そうすれば両方とも保てる。
修道院にて。
空が黒雲に覆われつつあった。
空はゴロゴロと雷を伴っている。
じきに雨が降り出すだろう。
その時、空が光った。
稲妻が空を駆け抜ける。
それから空から雨が降り出した。
本格的な雷雨だ。
雨は強烈な雷と風と同時に降った。
一人の修道女が建物から出てきた。
突然の雷雨だったため、修道女は洗濯物を取り込みに行ったのだ。
修道女は焦っていた。
このままでは洗濯物が濡れてしまう。
その時だった。
雷が修道女に落ちたのだ。
修道女は雷の直撃を受けた。
そのまま彼女は倒れる。
雨が修道女を濡らしていく。
異変に気づいたのであろう。
建物の中から二人の修道女が来て、倒れた修道女を助けた。
その日、倒れた修道女は目を覚まさなかった。
夢の中――
修道女は心地よい感覚を覚えた。
修道女はこれは夢だと思った。
だが、まるで海の中にいるかのような心地よさを感じる。
このままずっとこの中で感じていたい。
だが、それはかなわぬ夢。
そもそも夢なのだから。
修道女はしかしけげんに思った。
夢ならばなぜこれほどリアリティーがあるのだろうか。
ある意味でふしぎだった。
「Ave,Diodora,Dominus tecum.」
突然声がした。
声の主は上から降りてきた。
その人物は背中から白い翼をはやしていた。
「おめでとう、祝福されし人。神があなたと共におられます」
「私が祝福されし人?」
修道女はいぶかった。
そもそも何が祝福なのだろう?
自分は一人の修道女だ。
特別な存在ではない。
目の前の人物――天使は金髪のロングヘアに桃色の衣を着ていた。
にこやかに修道女にほほえみかけてくる。
「私の何が祝福なのですか?」
「あなたは『雷の息子』を身ごもりました。あなたのおなかに宿った子供は『神の子』です」
修道女は大きく目を見開いた。
それは信じられないという気持ち、修道女はそんなことはあるはずがないと思った。
「どうしてでしょう? 私は一介の修道女です」
つまり男と関係を持ったことはないということだ。
女天使は相変わらず、ほほえみを浮かべてくる。
「神はあなたの信仰を御存じです。あなたは選ばれたのです。不滅の名誉を成し遂げる『英雄』の母に。私はレミエル(Remiel)。私はこのことを伝えるためにあなたのもとを訪れました。私は幻視の天使でもあるのです」
「その……まさか……本当に私が来るべき英雄の母になったのですか? 私はまだ15歳です。あまりの重たさに私は押しつぶされそうです。お願いです、レミエル様……私といっしょに息子を育ててくれませんか?」
修道女はすがるようにレミエルに言った。
「それはできません。あなたは自らの力で幼子を育てねばなりません。ですが、安心しなさい。あなたの兄アンシャル(Anschar)も幻視を見ています。彼は修道院で起こったことを知るでしょう。あなたの兄アンシャルが幼子をいっしょに育ててくれるでしょう」
そう言うとレミエルは修道女を抱きしめた。
柔らかなぬくもりが修道女を安心させる。
修道女は母に抱きしめられた時を思い出した。
温かい……心の中から不安が消えていくかのようだ。
「ありがとうございます、レミエル様……私はアンシャル兄さんといっしょにこの子を育ててみせます。約束します」
その言葉には修道女の決意が満ちていた。
「安心しなさい。あなたは一人ではありません。ほかならぬアンシャルがあなたについています。私もあなたがたを見守っていますよ。もちろん、主なる神もあなたの不安を御存じです。ですが、恐れてはいけません。あなたが息子に与えるのは無償の愛だけでいいのです。あなたから愛されれば、息子は自然と愛することを学ぶでしょう。すべての愛の根源となるのは母性愛です。それこそが一対一の個と個の愛につながっていくでしょう」
レミエルが彼女を離す。
「あなたはあなたの定めを受け入れなさい。あなたの役目は来るべき英雄の母となること。それを主も望んでいます」
「ああ、レミエル様……私は主の意思に従います。主の望み通り、この身になりますように」
「それでは、私は行きます。主の祝福があなたにありますように」
そう言って大天使レミエルは去っていった。
その瞬間、修道女は目を覚ました。
修道女は部屋のベッドの上にいた。
修道女はおなかを押さえた。
修道女にはわかった、自分の身に赤子が宿ったことが。
修道女は再び一人になり、不安で押しつぶされそうになった。
レミエルが言った通り、自分は神の子を育てねばならない。
修道女はレミエルを信じた。
修道女は現実的に考えた。
自分は修道院に留まり続けることはできないだろう。
同僚たちは神の子を宿したなどとたわごとは信じず、姦通をはたらいたと疑うだろう。
どのみち修道院に留まり続けるという選択肢はないのだ。
兄アンシャルを頼ろう。
この子を自分一人で育てることは無理だ。
そのためにはぜひともアンシャルの助けが必要になるだろう。
朝日が窓から室内に入り込んでくる。
修道女は起き上がると、荷物の整理を始めた。
正直不安はある。
不安がないと言えばウソになる。
ましてや来るべき、英雄の母になったのだ。
どんな愛情を注げば、息子は愛することのすばらしさを知るだろうか。
修道女は兄アンシャルのことを想い浮かべた。
アンシャルならばきっと息子を導いてくれるに違いない。
自分一人では息子を育てることはできない。
だが、力を合わせれば、息子を育てることはできるはずだ。