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関西

「真美久しぶり~っ」


「あ~、ゆづ! 久しぶり~」


 大阪でのトークショー終えた翌日。1日お休みを頂いていたので、私は実家の京都に戻って来た(山下さんと田村さんは一足先に東京へ帰った)。


 実家ではお父さんと弟と一緒にご飯を食べた。ウチは両親が離婚していて、母親が居ない。離婚の理由はお母さんの不倫だったと言う。現在は、私はお母さんとは年に一度くらいのペースで会っている。私の活躍も見てくれているそうだ。


 お母さんが不倫をしてしまったのは最低だ。けれどそのことに対して私はとやかく言うつもりは無い。人間は完璧じゃないし、当人同士にしか分からないこともあるだろう。


それに、当のお父さんがお母さんのことを悪く言ったりしない。今更言ったって仕方ないしな~、と。潔くお母さんを許せるお父さんを私は尊敬している。だから母親が居なくても、私達家族は幸せだった。


 今日は中・高が同じ親友のゆづと会っている。帰省する際にまず連絡するのがゆづだ。ゆづは3か月に一度くらいの頻度で東京に来てくれるから、大して久しぶりでもない。ただ何回会っても楽しめるから、本当の友達なのだと思う。


「昨日トークショーやったんやろ。お疲れ様」


「え、来てへんの。私頑張ったのに」


「行ってないわっ、こちとら仕事じゃっ。私は彼氏ちゃうねん、何処にでも行けるわけとちゃうからな。私には私の生活があるから」


「え……、私と仕事どっちが大事なん……?」


「急にメンヘラ女出してくんなっ!」


 関西人と喋ると、自然と関西弁に戻る。ノリも一緒に。身に沁みた習慣とは不思議だ。


 私達は、三条京阪の鴨川前で落ち合った。金閣寺や銀閣寺や、嵐山や宇治など、京都には観光名所が多くある。けれど中心は四条だ。2人で三条大橋を、渡り始める。


 天気は快晴で、私は上機嫌だ。鴨川と青空の相性は抜群に良い。空を舞うかもめが、良いアクセントになっている。


 橋の上は風がよく流れる。12月に入っていて、風は冷たい。私は新作のダウンにマフラーを巻き、完全防備だ。下は薄いブルーのワイドデニムにアディダスのスーパースターで、動きやすい恰好をしている。


「よ~し、まずは何処行く?」


 私の声は自ずと大きくなった。


「テンション高いなあ。私に会えてそんなに嬉しいか」


「京都に帰って来れて嬉しいんです~。あっちじゃあんまり伸び伸び出来ひんからさ」


「そうか。でもアンタ、こっちでも相当人気やで。普通にバレるんちゃうん?」


「そうなん? 私も結構やるなあ。でも誰も声掛けてこおへんで」


「それは気遣っとんねん。京都人の心遣いや。慎みやんか。それは分かれや」


「流石は私の生まれ故郷。皆ありがと~」


 私は両手を天に向かって上げる。


「アホや」


 ゆづがすかさずツッコんだ。


「ほらほら、早よせな置いてくで~」


 私は橋の上を小走りする。


「はいはい、急がない。急ぐと転ぶから気い付けなさいよ」


「嫌で~す」


 ゆづと一緒に居るのは楽しい。すぐに学生の頃に戻れる。芸能人でも何者でもない頃の、素の私に。


 そんな相手はどんどん減っている。だからこそ貴重なのだ。


 私達はバカ話しながら、京都の繁華街に入って行く。新京極通りと寺町通りがある商店街に入ると、人が一気に増えた。東京と違って京都で遊ぶ場所は限られている。だから人が密集するのだ。


 気が付けば、何処かからクリスマスソングが流れていた。至る所にイルミネーションが施され、各店内にクリスマスツリーやデコレーションが見受けられる。こういう所も、私が冬を好きな理由の1つだった。私は大人になって社会の汚さや怖い部分を知ってしまったけれど、夢や希望は捨ててない。この人工的な装飾が、それを思い出させてくれる。


「アンタ、クリスマスはどうすんの」


 ゆづが聞いてくる。


「そんなん仕事に決まってるわ。そっちは」


「私はゆうやと会うなあ。なんかホテルのディナー取ったって張り切ってたわ。子ザルみたいに」


 ゆづと彼氏のゆうや。2人は高校時代から付き合っている。同じグループだった私はゆうやとも仲が良い。何を隠そう、2人をくっつけたのはこの私だ。ゆうやから相談され、ゆづと繋げた。いわば私は2人の恋のキューピットなのだ。


 高校生の頃は、私の彼氏を含めた4人でよく遊んだ。自分で言うのもなんだが、校内ではそこそこ有名な4人組だった。私の全盛期だ。


「えっ、それってそういうこと?!」


「ん~、かもなあ」


「きゃ~っ! ゆうややるやんっ。おめでたやんっ」


 1年前くらいから、ゆづから結婚について相談されていた、ゆうやと結婚や子供の数、共働きについて話すようになったと。


 ゆづはやや迷ってはいたものの、結婚について前向きだった。ゆうやとの付き合いで特に不満は無かったらしく、私も応援していた。


「この先もう誰とも恋愛せんのかなって思うと、それもどうなんかなあと思うけどなあ」


 そう言うゆづを、私が引き止めた。ゆうやは馬鹿だけど、誰よりゆづを大切にしていることを知っていたから。


「そっかあ。ゆづが結婚かあ。なんか感慨深いなあ」


「まあなあ。これでプロポーズじゃなかったら一生の笑い種やけどな」


 私は噴き出してしまう。


「ホンマそれな。そうなったらゆうやのことディスりながら飲もうや。アイツ空気読めてへんわあ、言うて」


「そうしよ。まあどちらにせよアンタにはすぐ連絡するわ。結婚するなら式挙げたいし、そうなったらアンタは来てくれんの?」


「そりゃあ行くよっ、親友の結婚式やねんから」


「いや、アンタ有名人やからさ、出席出来ひんかもしれんと思ってさ」


「絶対出席します。ちゃんとスケジュール抑えるから、マネージャーに指示して」


「あのやたらお洒落なマネージャーさんな。私ちょっと苦手やけど」


 以前ゆづと岩下さんは一度会っている。ゆづが東京に遊びに来た時に、鉢合わせていた。


「前からそれ言ってるよなあ。何でなん?」


「いやあ、メッチャ『大人の人』って感じがするから」


「ああ――」


「なんか感じるねんなあ。あの人絶対強かやん。どんな環境でも生きて行けるタイプやん」


「それは分かる」


「強さだけじゃなくて、狡さとか生命力がある人やと思う。なんかウチのエリアマネージャーとそっくりやねん」


 ゆづは高校卒業後、某有名化粧品メーカーで働き出した。現在も勤務中だ。


「だからその計算高さが見えてしまって。ヤクザとかの暴力とか高圧的な恐怖じゃなくて、腹黒くて人として怖いみたいなやつ」


「オッケー。今度山下さんに言うとくわ」


「止めて。私消されたくない、この世から」


「なんぼほど山下さんに力あるねん。それに消す理由無いわ」


「あるやろ。例えばアンタの仕事の邪魔になってるとか。

 まあマネージャーさんのことは置いといてや、なんかそわそわしてきたわ、クリスマス」


「ええやん、ええやん。ゆづ可愛いとこあるやん」


「アホか。どう見ても私はか弱い乙女や。乙女を具現化したような女や。


だってさ、これが最後かもしれんのやで? そう思うと色々考えるやろ」


 ゆづが遠い目でアーケードの天井を見る。


「ゆづが平均的な乙女っていう世界やったら、きっと男女の力関係は逆転するやろなあ――。

 でもそれはさ、贅沢な悩みなんやで。結婚したくても出来ひん女子は沢山おるんやから」


「まあな。っていうかそういうアンタはさ、彼氏おらんの。そんだけ人気やったら引く手あまたなんちゃうん。俳優とか同じモデルとか芸能人の卵とか周りにいっぱい居るんちゃうん」


「ん~、そうでもないかな。私程度の人間は大勢居るしな」


「そらそうか」


「いや、私レベルの女は殆ど居らんのやけどな? 皆私が高根の花過ぎて声掛けづらいんかもしれん」


「軽く殺意が芽生えるわ」


「てへっ」


 私は自分で自分の頭を小突いてみせる。


「次それやったら鴨川に沈める。白鳥の餌にする」


「やれるもんならやってみいっ!」


 私はゆづの左肩を殴って逃げる。


「おいっ!」


 ゆづが追い掛けてくる。


 2人でわちゃわちゃしながら、商店街のアーケードを駆け抜けた。


 

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