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トークショー2


 トークショーの時間は、14時からの1時間だった。 


 トークショーの内容は、多岐に渡る。ファッション、美容、モデル、芸能、恋愛、私生活。まずはデベロッパーさんが用意してくれた質問に答え、その後ファンの子達からの質問に答える方式だ。


 最初はファッション関連の質問が中心だった。


「そろそろ冬本番ですが、今季はどのようなコーディネートに注目されていますか?」


「はい。私は冬のファッションが大好きなんです。バリエーションが多くて楽しいですし、その分それぞれの個性が出るので。

 この冬はですね、ちょっとボーイッシュなスタイルに注目しています」


「例えばどんなコーディネートでしょうか。どんなアイテムに注目しているとかあれば、教えて下さい」


「私は女性として凛とした印象が無いので、ファッションでカッコいい雰囲気を出せたらなと思います。具体的には男の人が着るようなアウターを着たいですね。例えばハードなライダースジャケットにコンバースを合わせたり、デニムのボアジャケットに下もフレアデニムで70年代ぽいのとか。いつもと違った印象を出せるのが、ファッションの醍醐味だと思うので」


「ありがとうございます。東條さんはご自身でブランドを運営されていますよね。今季の商品には、今仰ったテイストの物が多く含まれているんですか」


「はい、実はそうなんです。ダブルのライダースとかデニムジャケットが、新作で発売されます。定番の人気商品もカラーや素材を少しずつ変えて出すんですけど、目玉は今言ったメンズライクな商品ですね。本当にメチャクチャ可愛いんで今から期待していて下さい。シルエットや素材も拘って作っているので」


 用意された質問に答えていく。反応は上々だ。私のファンばかりなのだから当たり前なのだけれど、皆笑顔で楽しんでくれている。よく笑ってくれるから、話しているこちら側も気持ちいい。


 一通りの質問に答えると、ファンの子達との交流に移る。その際には多くの手が挙がった。それだけ私と話したいことがあったのだと思うと、嬉しくなる。


「こんにちは、まもりちゃん」


「あ~~、こんにちはっ。覚えてるよ、まこちゃんだよね。久しぶり~」


「また来ちゃいました~。いつも可愛いです、応援してますっ」


「ありがとう~」


「えっと、まもりちゃんみたいなポジティブな性格になりたいんですけど、どうすれば良いですか」


 まこちゃんは兵庫に住む女子高生で、関西でイベントをするといつも会いに来てくれる。私に憧れていると言ってくれる、可愛い子ちゃんだ。私の高校生時代よりよっぽど洗練されている。


 ファンの中でも、やっぱり古参の子と会えるのが一番嬉しい。日々新しいアイコンが生まれる中で、ずっと変わらず応援してくれる人は多くない。そういう私だって、次々に出て来る新しい芸能人やアイドルに目移りしてしまう。だからそこに悪気は無いのだということも、よく知っている。


「あ~、大切だよね、ポジティブ。でも私も昔はネガティブだったんです、まこちゃんなら知っていると思うけど。それこそ高校生の時とかはね、メチャクチャ暗かったよ。でも色々経験して今の私が出来上がったんだよね。


 そうだなあ。私がお勧めするのは、読書と食事かな。自己啓発本とか読んだら、思考回路が大きく変わるの。自分に合う合わないもあるから、幾つか読んだら良いと思うよ。自分のね、芯みたいなものが出来るから。


 食事も大事だね。メチャクチャ大事。良いバランスと栄養の食事をしていれば自ずとメンタルが安定するの。心は身体からなんだって。あとは睡眠。あんまり夜更かししないで、規則正しい生活を送る。6時間は寝る。寝過ぎない。毎日太陽の光を浴びる。これも大事。そんな感じかな~。


 多分この2つを実践すればちょっとはポジティブな自分になれるよ。良かったらやってみて~」


「ありがとうございますっ」


「こちらこそいつもありがとね~」


 司会の方が次のファンの子を指名する。


「では、そこのニット帽を被った男性の方」


 当てられた子が立ち上がる。まだ若く、大学生くらいに見える。


「初めましてまもりさん。いつも可愛くて応援してます」


「ありがとうございます」


「えっと、僕は今大学生なんですけど、好きな人が居ます」


「おおっ、良いことだね」


「はい、でもどうアプローチすれば良いか分からなくて。その方法を教えて欲しいです」


「よし、聞こうじゃないか。お姉さんに言ってみなさい。まずその子は、同じ大学の子なの?」


「はい、そうです。同じダンスサークルで」


「ふむふむ。じゃあどのくらいの距離感なのかな。普段から話す? それともあんまり接点が無い?」


「たまに話すくらいですね。でも遊んだりはないです」


「なるほどね~」


 私は人の恋愛相談を受けるのが好きだ。応援したくなるし、アドバイスして上手くいったら嬉しい。自分のことは上手くいかなくても、人のことだったら冷静に判断できるのだ。


「じゃあ例えばだけど、悩み相談みたいな形で連絡してみたら良いんじゃないかな? ダンスの練習は何を参考にしてるのか、とか、グループとしてのクオリティを上げたいんだけど上手くいってない、とか。本当かどうかは別としてね」


「なるほど」


「それで相談に乗って貰えたら、次はそのお返しとしてお茶を奢らせて、っていう体で誘えば良いんじゃないかな。それだったら相手の子も「だったらじゃあ」って頷きやすいと思うし。まずは交流を増やす、2人で会うことの違和感を無くす。これだね」


「おお~、めちゃくちゃ参考になりました」


「あったり前よ。こちとら数年も長く生きてるからね」


 私がふざけるとファンの子達が笑う。中々甘やかされている環境だ。気分が良い。


「今度実戦してみます。ありがとうございました! これからも応援してます」


「うん、頑張ってね~。上手くいったらまた彼女と会いに来てね」


「絶対来ます。ありがとうございました!」


 こんな風にどんどん進む。ファンとの交流は楽しい。こちらを傷付けることは絶対に言わないし、いつも褒めてくれて私の肯定感を高めてくれる。自分でいうのもなんだが、理想的な関係性を築けていると自負している。


 時折芸能人とそのファンのトラブルを耳にする。芸能人がファンに手を出したとか、騙された、とか。でも私と私のファンとではそういったトラブルは起こらないという勝手な信頼がある。


 瞬く間に、終了の時間が来た。始まる前は緊張していたけれど、落ち着いてからは楽しめた。トークショーは毎回そうだ。最初のプレッシャーさえ乗り越えられれば、後は逆にハイな状態になって良いパフォーマンスが出来る。


 最後に、ファンの人達と握手をする。これはチケットを購入してくれた子だけの特権だ。少しだけだが会話もする。ファンの子達にとってはこの時間が今日の一番の目的だろう。


「まもりちゃん今日も可愛かった~。また大阪来てね」


「まこちゃん、今回もありがとね~。今年受験だよね。大学は行くの」


「東京の大学受験します。もし受かったら今よりまもりちゃんに会いに行くね~」


「待ってるよ~」


 次に、質問してくれた大学生の男の子だ。


「まもりちゃん、マジでメッチャ可愛いです、実物鬼です、鬼可愛いですっ」


「鬼は駄目じゃんっ。人間じゃないじゃん、凶悪じゃんっ」


「例えっす! 絶対恋愛上手くいかせますっ」


「うむっ。今度来る時は彼女も一緒にね。応援してるよ~」


 悪手の代わりにグータッチをした。


 すぐに最後の人の順番が来た。最後は男性の方だった。


 背が高く、痩身。男の人にしてはやや髪は長めで、切れ長の奥二重の眼をしている。ネイビーのメルトンコートに下はブラウンのコーデュロイパン。どうやら年上のようだ。


「今日は来て下さってありがとうございます」


「こちらこそ。お会い出来て光栄です」


 答える男性の声は低い。緊張しているのだろうか。表情が硬く、俯いていてよく見えない。


「いつも見てます。コメントも返して下さって、ありがとうございます」


 ――コメント?


 私の思考が止まった。そこで、私ははっと閃いた。


 コメントの返事。遠出しているというつぶやき。この人って、もしかして。


「あ、はい。ありがとうございます。これからも応援宜しくお願いします。いつもありがとうございます……」


 もしかして、この人が高梨さんなのか? どことなくしていた脳内のイメージとマッチしている。年齢や、優しそうな雰囲気も。


「……っ」


 そう思ってはいたが、私は聞けない。こちら側から知っていると言うのはリスクがある。もし違っていたら失礼だし、それって誰? 特定のファンと交友を持っているのか? となりかねない。


「時間です」


 そうこうしている間に終わってしまう。右手を差し出す。握手をする。その時初めて男性が顔を上げた。


 視線があって、私はドキッとする。男性がふっと笑ったからだ。


 前髪で半分隠れている目が細くなる笑顔。困ったように笑う人だった。


 手が解かれて、男性が去って行く。気付けば私はその背中に声を飛ばしていた。


「また来て下さいねっ」


 男性が振り返る。


「良かったら、また来て下さい」


「はい」、と男性が言ったか曖昧だ。会釈した男性が去って行く。私はその背中を目で追い続けた。間も無く男性の姿は視界から消えた。


「よーしっ、東條お疲れ! 大成功だったな」


 山下さんに肩を叩かれて振り返る。それで私は我に戻った。


「ああ、はいっ。疲れました」


「おっし。じゃあ引き上げて美味いもんでも食べに行こうっ。よくやったっ」


 私は出入口の方を見るが、もうそこに男性の姿は無い。女子高生らしき2人組が、出て行く所だった。


 私は気になっていた。やっぱりあの人は、高梨さんだったのだろうか。


 今になって何故聞かなかったのか後悔している。たった一言、「もしかして高梨さんですか?」と聞けば良かったのに。


 また次も来てくれるだろうか。その時点で私はそんなことを考えていた。そうしてトークショーが、終わった。


 その後山下さん達と大阪の街に出て、束の間の観光を楽しんだ。新世界に行ってたこ焼きと串カツを食べ、通天閣に上った。


 通天閣はもう新しくはないけど、他のタワーには無い哀愁がある。夕陽が似合うタワーナンバーワンだ。


 私は通天閣の階段を下りながら考えていた。もしかしたらまだ、高梨さんがこの辺りに居るんじゃないだろうかと。



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